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115
Vol.08 掃除機と洗濯物

2020.03.02
カンナこと、こんなこと。

カンナさん、聞いて下さいよ。妻の心をどうやったら読めるんでしょうねえ。

大きな溜息をついて、おもむろに男性が言う。私は妻になったこともないし、カウンセラーでも、人生相談の回答者でもないんだから答えられないよーと言ったのだが、聞くだけ聞いてくれと言う。ありゃま、そんなに深刻な話かと身構えたが、話を聞きながら私は、実はちょっと笑いを堪えたのである。男性の話がどんなことだったかというと……。

日曜日にソファーでごろ寝をしていたら、妻はしんどそうに溜息をつきながら掃除機をかける。ごろ寝がまずいかと起き上がったが、妻の溜息まじりの掃除機がけはおさまらない。ああ、掃除機が古くて重いんだと思い、そうだ! と立ち上がり、家電量販店に行って、はやりの外国製コードレス掃除機を買ってきた。きっと妻は喜ぶだろうと包みを渡すと、妻は落胆の表情を隠さずこう言った。

「掃除機のプレゼント? あなたは私にまだ掃除させたいの? たまには男の力でやってほしかったのに。だいたいこのコードレスの掃除機、重くて使い勝手が悪いのよ!」

最高の買い物をしたと思っていたのに、妻に怒られ、踏んだり蹴ったり。でも彼は立ち直り、今度は洗濯ものを干すことにした。そうしたらこれが面白い。シャツ、靴下、下着などを種類や色や性別を選別して干す。不均等にならないよう何度もやり直したり位置を変えたりして、無事終了。きれいに干せて大満足。悦に入って、よし!と妻を呼んで、きれいだろうと自慢したところ、またまた妻の顔がゆがんだという。

「洗濯物を干すのは、乾かすためなの! 均等よりも風通しを考えてよ。それに見た目じゃなくて、デリケートなものは裏返しにして、ズボンのポケットは乾きにくいから外に出して。きれいより乾かすなんだから!」

僕も妻の気持ちは読めないけど、妻だって僕の気持ちを読めてないんだよねー。と男性は言いながらまた溜息をつく。

男と女は同じものを見ても全く違うことを思うもので、もちろんこれは男女に限ったことではない。親子の間でも勤務先でも社会でも政治の場面でも同じだ。だからこそ離婚や断絶、事件などの悲しい事態が起きるのだろうし、小説やドラマが生まれもする。

私たちはそれを知っている。掃除機や洗濯物の干し方で、異なる結果の裏側にある思い、異なる角度から見たときに違うものが見えてくる事実を知っている。

それなのに、ある部分では100%や意見の一致を求めてしまう。なかなか身近にあるヒントを活かせないのだ。人間はやはり身勝手な生きものなのかもしれない。

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  • 神津カンナ

作家、フォーラム・エネルギーを考える代表。長年に渡る執筆活動の傍ら、国内外のエネルギー関連施設や現場を取材し、暮らしの中のエネルギーといった視点で講演活動などを行っている。著書に『水燃えて火〜山師と女優の電力革命〜』『冷蔵庫が壊れた日』ほか多数。

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