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No.
119
Vol.12 ピアノ・電卓・PKO

2021.03.01
カンナこと、こんなこと。

車に詳しい人と話をしていて、ちょっとびっくりしたことがある。私たちが普段から口にしている「自動ブレーキ」という言葉。何のこだわりもなく私は使っていたのだけれど、正式には「衝突被害軽減ブレーキ」というのだそうだ。

正式名称を聞いた途端に「自動ブレーキ」という言い方と、少しニュアンスが違うことを感じた。もちろんカタログにもコマーシャルにも、このブレーキシステムはあくまでも補助である……と書いてある。そう、自動というと万能のように思うけれど、実際にそのシステムは「衝突被害軽減」なのだ。

車好きの友人は言う。雪道ではいわゆる「自動ブレーキ」は作動するけれど、停止距離は通常よりもどうしても延びる。車を最終的に止めるのはタイヤだからだ。システムがどんなに作動してもアイスバーンでは難しい。だからあくまでも「衝突被害軽減」する装置なのだと。なるほど、言葉は思い込みを作るよな~としみじみ思う。

ちょっと話は車から楽器に移るがピアノだって、正式名称は「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」と言うらしい。強い音も弱い音も出せるチェンバロという意味のイタリア語だという。つまり弱い音、小さい音を出せる画期的な楽器がピアノだったのだ。弱さが売りの「ピアノ」なんだと思うと「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」も、なんだか別物に思えてくる。

そうそう「電卓」の正式名称は「電子式卓上計算機」だ。卓上という言葉が気になって調べてみたら、出始めの頃は重量が20~30kgのものもあったそうだ。そりゃあとても卓上になんか乗せられない。それが今は卓上どころか、電卓はスマホの中だったりだから、ポケットや手の中で持ち運べるものになった。

関係ないが、法律名にも長いものがある。たとえばPKO法案。これは正式には「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」という名称だ。バリアフリー法も「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」というらしい。

もちろん長々とした正式名称を言うのも書くのも難儀だが、ときどききちんと見なきゃいけないと思う。「自動ブレーキ」と言っていれば、受け止め方が少しずれてしまうかもしれないし、ピアノの意味、電卓の意味を考えると、そのものが世の中に出てきた理由や、単語によって歴史が分かる。これは法律名もしかりである。短くするのは日本人は得意だけれど、言い換えたり簡略化することによって、見えなくしてしまうこともあるからだ。

言葉には注意深くならなければいけない。たとえば菅首相は所信表明演説の中で「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロ」と打ち出した。「実質ゼロ」と「ゼロ」では何が違うのか。約款や取説の細かい字を全部読んで理解せよとは言わないが(私もダメ)、後から「ええっ!そうだったの?」と言わないためにも、ちょっと調べる手間は重要だ。

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  • 神津カンナ

作家、フォーラム・エネルギーを考える代表。長年に渡る執筆活動の傍ら、国内外のエネルギー関連施設や現場を取材し、暮らしの中のエネルギーといった視点で講演活動などを行っている。著書に『水燃えて火〜山師と女優の電力革命〜』『冷蔵庫が壊れた日』ほか多数。

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