むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

世界に誇る
タオルブランドへの挑戦
浅野撚糸株式会社
代表取締役社長 浅野雅己さん
(4/4)

January 30. 2023(Mon.)

岐阜県安八町(あんぱちちょう)にある浅野撚糸株式会社の二代目社長・浅野雅己(あさのまさみ)さんは、空前の大ヒットを続けるタオル『エアーかおる』の生みの親として知られる。斜陽産業と呼ばれて久しい撚糸業界にありながら、経営危機を脱却して見事に復活を遂げるなど、その経営手腕にも注目が集まる。最終回となる今回は、自身のモットーや今後の展望などを伺った。

ー前回の記事はこちら
これまでにない糸の開発で魔法のタオルが誕生 浅野撚糸株式会社 代表取締役社長 浅野雅己さん(3/4)

どん底を経験する中で
たどり着いた「三方良し」

若干35歳で二代目社長に就任し、大手紡績会社との取引を開始。過去最高の売上を叩き出した頃には「俺は業界の風雲児だと勘違いしていた」と浅野さん。そこから地獄の底に突き落とされた時には「ものすごくみじめだった」と当時の心境を打ち明ける。

「このままの人生観ではダメだ」。そう感じた浅野さんは、各地の講演会や勉強会に足を運んだ。こうして学んだのが「運」の大切さと運をもたらすために「徳」を積むことの重要性である。
「仕事に全力を注ぐことも大事ですが、同時に徳も積まなければいけない。大切なのは『三方良し』の精神です。まずは自分たちが利益を上げなければ誰も助けられない。そのうえで取引先の皆さんに喜んでいただく。そして、社会に貢献することもきちんと考える。苦境を経験することで、こうした考えの大切さにいち早く気付くことができたのは本当に良かったと思います」

『エアーかおる』のフラッグショップ
「エアーかおる 本丸」にて。

長良川水害で見た、
経営者としての父の強さ

「お前が勉強するためのお金は、この人たちが頑張って稼いでくれているんだぞ」という父が忘れられず、大学生の時は福島県から帰省すると休みを返上して実家の仕事を手伝った。そんな父の背中を見つめながら成長する中、今でも脳裏に焼き付いているのが、高校1年生の頃に起きた長良川水害での出来事である。
「工場一帯が水没し、自衛隊のヘリで救助される中、親戚からの電話に『会社はダメかもしれないけど、命はあるから大丈夫。またやり直せるから心配するな』と笑顔で答える様子を見て、こんな逆境でもくじけないんだと、当時は衝撃を受けました」
経営者としての父の強さを垣間見た瞬間だった。

父・博さんはその後、長良川水害の訴訟団の団長を務めた。原告は総勢1,200人。私利私欲を捨てて10年間にわたり闘い続けた。父の姿が、現在福島で取り組んでいる地域の復興・再生の活動に繋がっている。

創業家が過ごした母屋はリノベーションされ「夢創の家」として残されている。

福島の現状を知り、復興を後押しすると決断

2017年の会社設立50周年を記念し、父・博さんが建てた母屋と庭を改築し、新たにゲストハウス「夢創の家」と日本庭園を整備。そして、本社と工場、直販施設をセットにした「エアーかおる本丸」を誕生させた。「夢創の家」は、古民家再生協会認定岐阜県第1号に選ばれ、古民家再築部門の国土交通大臣賞を受賞した。

また、福島県双葉町では、福島第一原発事故からの復興を後押しする取り組みとして、新工場「浅野撚糸双葉スーパーゼロミル」の建設を進めている。2023年4月に完成し、糸の生産とタオル製品の販売を行う予定で、浅野撚糸が思い描く世界戦略の拠点とする考えだ。
「視察で訪れた双葉町の光景を見て、学生時代にお世話になった福島を無視できないと強く思いました。帰りの車中で妻と息子に「ここで事業がしたい」と思いを伝えました」
父・博さんからも、「水害の時に全国から助けてもらった恩は、まだ返し切れていない。ぜひともやるべきだ」と背中を押された。

「夢創の家」は外国人向けの
観光スポットとしても期待される。
『エアーかおる』シリーズが揃うショップ。
「夢創の家」にはカフェ「KEY'S CAFÉ」が併設されている。

若者たちと一緒に、
双葉町を盛り上げる

現在、双葉町の工場ではグランドオープンを前に、すでに30人ほどが働いている。高齢者が多いが、中には復興に燃える若い世代もいる。
「2023年には工場が完成しますが、何より見て欲しいのは地元の復興を目指し、夢に向かって生き生きと働いている若者たちの姿。これは世界一だと胸を張って言えます」
63歳で引退するつもりだった浅野さん。すでに次期社長も決めていた。ただ、福島の一件で前言撤回を決めた。「70歳までは全力疾走するつもり」と意気込む浅野さんの目は輝いている。
「今が本当に楽しい。この歳になって青春を謳歌できるのはありがたいですね」

福島県双葉町に建設中の新工場「浅野撚糸双葉スーパーゼロミル」。2023年春にグランドオープン予定。

プロフィール

浅野撚糸株式会社 代表取締役社長
浅野 雅己
1960年生まれ。浅野撚糸株式会社の二代目社長。撚糸の開発を続け、柔らかく軽量、吸水性抜群の魔法の撚糸『スーパーゼロ』の開発に成功。この画期的な糸の特性を生かし、三重県津市の老舗タオルメーカー・おぼろタオルと共同で『エアーかおる』を生み出し、シリーズ累計販売枚数1400万枚を超える人気商品に育て上げた。
浅野撚糸株式会社
1967年、縄の加工業を営んでいた父・博さんが撚糸工場として創業。最先端の機械と高度な技術で大きく成長を遂げるも、安価な海外製品が国内シェアを占拠し、一時は倒産寸前の危機に。その後、タオル『エアーかおる』の大ヒットによりV字回復を成し遂げた。

MAP

岐阜県安八郡安八町中875-1
電話番号:0584-64-2279(代)
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