むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

「熟成肉」を追求する
岐阜の焼肉店オーナーシェフ
焼肉 旬やさい ファンボギ
高橋樗至(のぶゆき)さん
(1/4)

February 05. 2024(Mon.)

「熟成肉」というジャンルが新たに確立されつつある。温度や湿度を管理しながら肉を寝かせることで旨味成分が高められた肉のことである。
岐阜市で焼肉店を営む高橋樗至(のぶゆき)さんは、年間を通じて熟成庫で肉の熟成をしているだけでなく、雪のシーズンになると岐阜県飛騨地方で雪室(ゆきむろ)をつくって肉の雪中保存(スノウエイジング)にも挑戦している。
第1回目の今回は、自らを熟成師と名乗る、高橋さんの半生について伺った。

熟成肉の聖地に
全国からファンが集う

JR岐阜駅から徒歩数分のところにある焼肉店「焼肉 旬やさい ファンボギ」。岐阜市内だけでなく、名古屋、京都、大阪、東京からも客がわざわざ訪れるというこの店は、“熟成肉の聖地”とも呼ばれている。
客が席につくと、店主の高橋さんは、その日に最も状態の良い熟成肉を見せて説明を始める。熟成肉は、牛肉だけでなく、鶏や豚のほか、ジビエの時期には猪や熊、鴨などもラインナップされている。どこで誰が獲った肉なのか、何日ほど寝かせたのかといった熟成の具合など、肉の様子を高橋さんから聞くことがすでに食事の序章となっている。

高橋さんの定位置である、このカウンター前で
話を聞きながら熟成肉をいただく。

焼肉店の三男に生まれて

高橋さんは、岐阜市の繁華街で焼肉店を営む家に生まれた。
祖母がはじめた店を両親も一緒に手伝っていたため、高橋さんは自然に焼肉店が遊び場になり、肉の扱いを見よう見真似で覚えていったのだそう。
「冷蔵庫を子どもの私が開けると、決まって祖母から、肉の位置を変えてはいかん!と注意されました。そこは肉に風を当てとるんや、と。今、思えば、それってドライエイジングなんですよ。祖母はそのころから肉を熟成させることを知っていたんですね」

感受性豊かな少年に育った高橋さんは、絵描きになりたい、写真を極めたい、いや、料理人かバーテンダーもかっこいい、と将来の夢を大きくふくらませていた。
親の意向もあり、十代で実家の手伝いをすることになったが、同時にイタリア料理のシェフへの憧れを持っていたという高橋さん。ホルモンを洗いながらイタリア語の勉強をしていたという。ところが今度はバーテンダーになりたい! と、実家の焼肉店を辞めて東京へ修行に出て働き始める。そんなふうに進路を二転三転させながら自分にとって何が天職なのか、自分探しをしながら、悩み続ける青年時代だった。
そんなある日、父が倒れたため、すぐに帰ってこいと連絡が。実家の焼肉店の移転などがあり、落ち着かない日々の最中に父が亡くなり、看病疲れで母も倒れ、そのまま亡くしてしまう。
絵も写真も中途半端、料理やバーテンダーの道も半ば、そして両親を亡くし人生に迷い始める高橋さん。すべてをリセットして、自分の可能性を見つけるために、世界放浪の旅に出掛ける。25歳の時のことだった。

幼少時に撮影された母親と一緒の写真。

アメリカで出会った
熟成肉の圧倒的な美味しさ

高橋さんが、アメリカ大陸を横断するように旅していた時のこと。ブルックリンのステーキハウスで口にしたのは、カンザス牛のオーガニックグラスフェッド(オーガニックの草を食べて育った牛)を45日間熟成した肉だった。
そのころの日本ではまだ熟成肉を扱う店はほとんどなく、どのくらいサシが入っている肉かどうかで品質の良さが決まっていた。
そのカンザス牛のステーキは、赤身の肉で脂身が少なく、噛みごたえのあるしっかりした味わいの肉だったそう。赤身の肉そのものの味わいをストレートに感じることができるステーキと出会い、高橋さんは身震いした。
「それまで日本で良いと言われてきたサシたっぷりの肉とは正反対のものでした。しかし、自分が目指したい肉のスタイルはこれではないか!と閃いたのと同時に、祖母や両親が熟成という言葉こそ使っていなかったものの、肉をうまく管理して寝かせていたことを思い出したのです」
その日をきっかけにアメリカ大陸とヨーロッパ大陸を放浪しながら、各地で肉料理を食べ、管理状態や熟成させる温度帯、衛生管理などについて知見を積み上げていった。そうして、肉料理を極めることが高橋さんの目標となった。

ブルックリンのステーキハウスで
見学した肉の熟成庫。
放浪の旅で高橋さんが写っている数少ない写真。
「1人旅だったので、自分が写っている
写真がほとんどないんです」

プロフィール

熟成師・肉料理人・焼肉 旬やさい ファンボギ オーナー
高橋 樗至(たかはし のぶゆき)
岐阜県岐阜市生まれ。岐阜市内で3代続く家業の焼肉店で修行し、ヨーロッパやアメリカの放浪旅や精肉店での経験を経て、2010年に「焼肉 旬やさい ファンボギ」をオープン。熟成肉で食環境を豊かにする、をキーワードに、飛騨牛の生産者とのプロジェクトを進めながら、パティシエ・青木定治氏らとともに飛騨牛にフィーチャーした食事会企画に携わるなど、幅広く活躍する。
焼肉 旬やさい ファンボギ
JR岐阜駅から徒歩数分のところに、400店以上の飲食店がひしめくエリアがある。「ファンボギ」はその一角にある焼肉店。熟成師・高橋さんが熟成させた上質な肉を求めて、東京や大阪からわざわざ訪れる人がいるほどの人気店だ。店内に足を踏み入れても、いわゆる焼肉店の匂いがしないことに驚かされる。清潔に管理された熟成肉の専門店。熟成肉をはじめとした肉類や加工品の販売もおこなっているため、それを目的に訪れる人も多い。

MAP

〒500-8843岐阜県岐阜市住田町2-4 南陽ビル1F
電話番号:058-213-3369
上部へ戻る