むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

ガラスに表情と
温もりをもたらす
ガラス作家 安土草多

February 27. 2025(Thu.)

ガラス製品をつくる技法のひとつに、宙吹き(ちゅうぶき)ガラスという成形方法がある。高温に熱したガラスを竿にとり、息を吹き込んで形をつくっていく。
岐阜県高山市で、宙吹きガラス創作活動をおこなっているのが安土草多さん。揺らぎのあるガラスが独特の表情を生み出すことで人気の作家だ。
ガラス作品や制作活動のこと、そして民芸についてお話しいただいた。

※本記事における「民藝」と「民芸」の使い方について:柳宗悦の思想に基づいた意味合いの場合は「民藝」を、柳の思想から発展しつつ現代において展開されているものの場合は「民芸」を使用しています。

※冊子「交流Style Magazine」130号でも、安土草多さんのインタビュー記事を掲載しています。無料でお読みいただけるPDFはこちらから閲覧・ダウンロードできます。
https://www.chuden.co.jp/resource/corporate/report/koryu/catalog_06_koryu_2025winter.pdf

縮みの時差が生み出す
揺らぎ模様

高山市内の小高い山の中腹にある安土さんのアトリエは、北欧の山小屋のようにも見える。
中に入ると、高温の窯から熱気が立ちこめていた。頭にタオルを巻き、炉の炎に照らされながらガラスづくりをおこなうのが安土草多さん。
炉からガラス玉を取って吹き、形を整え、竿を回し、また形を整える。この作業を何度か繰り返すうちに、橙色の球体だったものが、タンブラーに姿を変えた。この間、約5分。吹く時は一瞬だが、その後まる一日、ゆっくりと時間をかけて冷却し、研磨することで、作品として仕上げられる。

安土さんの作品の特徴は、“揺らぎ”と呼ばれる模様があること。
型に吹き込んだ際に型に触れたガラスの表面が冷めて縮み揺らぎ模様と称されるテクスチャーとなる。
ガラス玉を取って回しながら型に吹き込んだ後になるべく炉で焼き戻しをしないのは、最初に出来た縮みのテクスチャーを生かすため。焼き戻しと成形を繰り返すと徐々にガラスの表情は元に戻っていく。

わずかな時間の成形で決まる揺らぎ模様の妙。一つとして同じでない、その時だからできるガラスとなるのだ。

安土さんのアトリエ。まちを見下ろす高台にある。
息を吹き込み、ガラスを丸く膨らませる。
揺らぎ模様が独特の表情を生み出す。

工芸を支えているのは
いつの時代も工業である

「大学では電気電子情報工学科という学科に在籍していたのですが、在学中のある時、花の生け込みをやっている人の手伝いをする機会がありました。その時、なんともいえない面白さを感じたのです。自分にサラリーマンは向いていないと思っていたこともあり、在学中に花の仕事を手伝いました」

名古屋で花の仕事に携わった後、地元の高山に戻ってきた。ガラス作家である父同様、自分もものづくりの仕事をするべきだと思ったからだという。
ところが、「教えてわかるものではない」と父に言われ、一緒に仕事をすることはなかった。そうして自分ひとりでガラスの道を進むことに。

安土さんが窯を築いてしばらく経ったころ、父が訪ねて来たことがあった。父の制作現場とは窯の温度から工夫の仕方まですべてが違っているので驚いたと言われた。
ガラス作品は窯の環境によってつくるものに大きな違いが出る。原料やつくり方が同じでも、環境が違えば作風はまったく異なるものになるのだ。

また、ガラス制作の環境も時代とともに変化がある。ひと昔前のガラス炉の熱源は灯油がほとんどだったが、今は電気に代わってきているという。
「ガラスだけではなく、工芸を支えているのは、実は工業なのです。工業の進化があって、工芸も進化してきている。電気もそのひとつで、電気の安定供給がなければ今の工芸は生まれていないですよ」
こうした話が自然と繰り出されるのもまた、大学で工学を学んだ安土さんらしさだろう。

自らの人生を振り返る安土さんの言葉からは、常に物事を俯瞰で見ている冷静さがある。一見、直感に導かれたように思われる、花の仕事や、高山でガラス作家として生きる道も、感性だけによるものでなく安土さんの自分を客観視することのできる眼により、選んできたものなのだろう。

高温の炉からガラス玉を取り出す。

民芸道、とあえて呼びたい

今でこそ、たくさんのファンが作品の出来上がりを待っている人気作家だが、かつては評価されないジレンマを感じた時代もあったのだとか。
そんな時に助けになったのが、民芸との出会いだった。柳宗悦の本を読み、美の概念を拡張する考え方に心が救われた。現在では飛騨民藝協会の理事を務めている。

安土さんにとって、民芸とは何なのか?と質問すると「自分が楽しいと思える暮らしをすることでしょうか」と言った後に、「好きなものを使って楽しく毎日を暮らすことができれば、それは民芸なのではないでしょうか?」と、禅問答のような答えが返ってきた。 
自分が美しいと思える仕事をして、つくり手の思いを受け取ってくれた人が、それを暮らしの中で使って愛でてくれることで、民芸は成り立つ。つまり、つくり手だけではなく、使い手がいてこそ、民芸なのだ、と説いているようにも思えた。

「たぶん、それが“民芸道”ですよ」独り言のように笑いながら語ってくれた。

安土さんの代名詞にもなっているランプシェード。
ガラスと向き合い、作品をつくり続けてきた安土さん。

プロフィール

ガラス作家
安土草多(あづち そうた)
岐阜県高山市生まれ。名古屋大学在学中にフローリストに出会いそのまま花の世界へ。ものづくりに携わるべきであるという自らの運命を悟り、地元に戻り家業でもあったガラス作家に転身。宙吹きガラスを学ぶ。2002年に高山市内で築窯。独特のあたたかくやわらかい雰囲気を持つガラス作品で知られる。飛騨民藝協会理事。
https://s-azuchi.com
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