むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

生命と向き合った瞬間
焼肉 旬やさい ファンボギ
高橋樗至(のぶゆき)さん
(2/4)

February 05. 2024(Mon.)

「熟成肉」というジャンルが新たに確立されつつある。温度や湿度を管理しながら肉を寝かせることで旨味成分が高められた肉のことである。
岐阜市で焼肉店を営む高橋樗至(のぶゆき)さんは、年間を通じて熟成庫で肉の熟成をしているだけでなく、雪のシーズンになると岐阜県飛騨地方で雪室(ゆきむろ)をつくって肉の雪中保存(スノウエイジング)にも挑戦している。
2回目となる今回は、念願の自店のオープンまでを聞いた。

ー前回の記事はこちら
「熟成肉」を追求する岐阜の焼肉店オーナーシェフ 焼肉 旬やさい ファンボギ 高橋樗至(のぶゆき)さん(1/4)

精肉店での修行で
見たもの・感じたこと・
学んだこと

アメリカ大陸とヨーロッパ大陸を放浪しながら、各地で肉料理を食べ歩いてきた高橋さん。帰国すると、肉の流通をしっかりと勉強するため、祖父母の時代からお世話になっていた精肉店に修行に入ることに。
ある時、豚の屠殺(とさつ)を見学する機会があった。焼肉店にはブロックになった肉が届くので、屠殺される現場を見ることはなかった。職人が正確に豚の頸動脈にナイフを入れると、豚は悲鳴をあげて倒れ、おびただしい返り血をあびた職人はそこからスピーディーにさばいていったのだそう。
「自分でも予想していなかったくらいに大きなショックを受けました。帰り道の車の中で涙が止まらず、どうしていいのかわからなくなり、それからすべてが変わりました。肉の扱いをきちんと考えたい、人間にとって必要なタンパク源である経済動物(※)の行く末をきちんと守りたい、そして丁寧な仕事をする職人たちと手を組んで、肉を大切にしたい、と思いました」

※経済動物:人間の食糧として飼育される動物のこと。産業動物ともいう。

「牧場に出かけて、生産者と
しっかり話をすることにしています。
もちろん牛にも会ってきますよ」と語る。

祖母の名を冠した
「焼肉 旬やさい ファンボギ」開店へ

精肉店での修行を終え、実家の焼肉店に入って兄とともに仕事をしていく中で、高橋さんは体の中に日々つきあげるような情熱の炎が燃えていくのを感じていたという。
「世界を旅して、肉料理を長く食べてきた国ではどんな風に牛肉が食されているかを目の当たりにした。そして帰国後、精肉店で衝撃的な経験をし、ひたむきに努力を重ねる生産者や、高い技術で経済動物に携わる職人と関わりを持っていく中で、自分がやりたいことがはっきりと見えてきました。自分は熟成肉を極めた肉の料理人を目指すべきだ、と」
こみ上げる思いを仲間たちと共有して計画をたて、2010年、岐阜駅前に「焼肉 旬やさい ファンボギ」を開店。
店名には、尊敬してやまない亡き祖母の名前をつけた。

JR岐阜駅の北側に飲食店がひしめくエリアの
一角に、「焼肉 旬やさい ファンボギ」はある。

熟成肉の美味しさとは?

高橋さんが極めたい!と心に決めた「熟成肉」。
温度や湿度などがきちんと管理された環境で肉を熟成させると、微生物と酵素の働きにより、肉の繊維が壊れて肉質がやわらかくなる。さらにタンパク質が分解されてアミノ酸に変化することで旨みの強い肉となる。これが熟成と呼ばれる肉の特徴だ。
熟成と腐敗の区別や、熟成方法の違いによる旨味成分の差異など、熟成肉に関する科学的な分析はまだ未知な部分が多く、解明されていないことばかりだそう。しかし、熟成させた肉を美味しいと感じる人が多いのは間違いない。
「私は胃腸が弱くて、肉を食べると胃がもたれることが多いのですが、熟成した肉だと胃がもたれないのです。熟成肉を扱っているのに、それがなぜなのか説明できないのがくやしいのですが(笑)、旨味成分が増えるということだけでなく、消化する時に胃に負担がかからないという一面もあるように思います」

高橋さんが手がける肉の熟成には4種類の方法がある。
(1)風があるところで剥き出しの肉を熟成させるドライエイジング
(2)風がないところで剥き出しの肉を熟成させるドライエイジング
(3)真空パックをした状態で肉に呼吸をさせずに寝かせるウエットエイジング
(4)そして冬の時期だけ雪室を作って熟成させるスノウエイジング

スノウエイジング以外は、季節に関係なく、温度と湿度を設定した熟成庫で管理できるため、肉の部位や素材によって、うまく組み合わせて使うことができるのだ。

熟成は、肉の種類や質に応じて、最も
適した方法を選んで管理される。
肉をつかむトングは金属製だと
肉と化学反応する可能性があるため、
扱いが難しくても、竹製を使っている。

プロフィール

熟成師・肉料理人・焼肉 旬やさい ファンボギ オーナー
高橋 樗至(たかはし のぶゆき)
岐阜県岐阜市生まれ。岐阜市内で3代続く家業の焼肉店で修行し、ヨーロッパやアメリカの放浪旅や精肉店での経験を経て、2010年に「焼肉 旬やさい ファンボギ」をオープン。熟成肉で食環境を豊かにする、をキーワードに、飛騨牛の生産者とのプロジェクトを進めながら、パティシエ・青木定治氏らとともに飛騨牛にフィーチャーした食事会企画に携わるなど、幅広く活躍する。
焼肉 旬やさい ファンボギ
JR岐阜駅から徒歩数分のところに、400店以上の飲食店がひしめくエリアがある。「ファンボギ」はその一角にある焼肉店。熟成師・高橋さんが熟成させた上質な肉を求めて、東京や大阪からわざわざ訪れる人がいるほどの人気店だ。店内に足を踏み入れても、いわゆる焼肉店の匂いがしないことに驚かされる。清潔に管理された熟成肉の専門店。熟成肉をはじめとした肉類や加工品の販売もおこなっているため、それを目的に訪れる人も多い。

MAP

〒500-8843岐阜県岐阜市住田町2-4 南陽ビル1F
電話番号:058-213-3369
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