むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

飛騨地域と民芸について
広く伝えていきたい
やわい屋
店主 朝倉圭一
(4/4)

February 10. 2025(Mon.)

飛騨の小京都と呼ばれ、外国人観光客からも高い人気を誇る岐阜県高山市。古い街並みが残されているだけでなく、飛騨の匠と称される手仕事の技が継承され、それらを愛でる精神が根付いている。
高山の市街地から少し離れた場所に、全国から人がやってくるという民芸の店「やわい屋」がある。店主の朝倉圭一さんは、この場所で家族とともに暮らしながら仕事をする理想の生活を実践している。
朝倉さんの暮らしについて、また民芸を暮らしに取り入れることについて、様々な角度からお話を伺った。

●本記事における「民藝」と「民芸」の使い方について
柳宗悦の思想に基づいた意味合いの場合は「民藝」を、柳の思想から発展しつつ現代において展開されているものの場合は「民芸」を使用しています。

ー前回までの記事はこちら
道を照らしてくれた「民藝」という光 やわい屋店主 朝倉圭一(1/4)
理想の暮らしと店を叶えた古民家との出会い やわい屋店主 朝倉圭一(2/4)
店を要に、人とつながり地域に変化をもたらす やわい屋店主 朝倉圭一(3/4)

いいなと思ったものを
無理なく少しずつ

民芸が持つ温かみや手ざわりは、実際に手にしてはじめて良さを実感することができる。それでも、はじめて買おうとすると、どう選べばいいのか迷ってしまう。
そこで、朝倉さんに民芸を生活に取り入れるコツについて聞いてみた。

「頭でっかちにならず、いいなと思ったものをひとつずつ暮らしに取り入れればいいのではないでしょうか?お皿を買うとしたら、無理に柄やサイズを揃える必要はないんです。民芸の物同士なら、柄はもちろん多少サイズが違っていても、そんなに違和感はないはず。それより、毎日使えそうとか、自分が持っているお皿と合いそう、といった視点で選んでいけば間違いないと思いますよ」

まずは自宅にどんな物が置いてあって、食卓の上にはどんな食器が並ぶことが多いかを思い返してみよう。そこにどんな器や家具が加わったら違和感なくおさまるのかを想像してみれば選ぶ物は自然と決まってくるはずだ。

お菓子の取り皿は、柄もサイズも形も、少しずつ違う。
朝倉さんの自宅のキッチン棚。

民芸は町を知るための
ガイドブックのようなもの

子どもの頃から郷土史に興味を持ち、現在も研究を続けている朝倉さん。

「歴史好きは戦国史とか武将を勉強する人が多いですよね。僕はその方面に興味がなくて、庶民がどうやって暮らしていたのか、どんな時代背景や動きがあって歴史が紡がれてきたのか、といったところばかり本を読みあさっていました。でもそのおかげで、飛騨高山がなぜ観光地となっていったのか、高山の“古い街並み”の古いとはいつの時代のことなのか?といったことを自分で調べて考えていたんです。それに加えて、“民藝”の視点で地元を見つめ直したことが、自分の芯となっていきました」

全国の民芸を訪ねた旅においても、その視点は大いに役立ち、町を知る手がかりになったという。民衆に愛され、長く使われてきた民芸は、町の歴史や人の思い、民間伝承といった文化性まで含めて、私たちに伝えてくれている。朝倉さんは「民芸は、町を知るためのガイドブックのような存在」と話してくれた。

生まれ育った飛騨高山という場所に宿る「民藝」の精神を研究し、人に伝えていくことを続けていきたいのだそう。「民藝」の伝道者として、「小さくとがりたいんです」と笑いながら話してくれた。

民芸と向き合うことが、
朝倉さんにとって毎日の暮らしの原点。

民芸は、気づいたら
生活の中に存在しているもの

「民芸を扱うお店を営んでいると、『民芸はよくわからないのですが…』とお客さまから問われることがあります」

ほとんどの人が、民芸を正確に捉えられていないことについて申し訳なさそうな顔をするのだとか。一方で、民芸はよくわからないけど、なんとなく好き!と言いながら嬉々として器を選んでいる人もいる。朝倉さんは、この“よくわからないけどとにかくいい”という言葉が好きだという。

「民芸は、温かみがありますが同時に儚さをも持ち合わせています。よくわからないけど好きなのだ、という愛おしい感覚を持っていてもらえれば、それでいいのではないかと思うのです」
民芸とは、「気の合う友達みたいな存在」との表現で話してくれた。気が合う友達とは知り合おうとしても知り合えない。ある日、偶然に出会うもの。

「民藝」と朝倉さんの出会いが偶然だったように、民芸とは、気づいたら生活の中に存在しているものなのかもしれない。

これからも、地域と“民藝“に向き合い続けていく。

プロフィール

やわい屋 店主
朝倉圭一(あさくらけいいち)
岐阜県高山市生まれ。高山の山間にある民芸の器と私設図書館「やわい屋」の店主。築150年の古民家を移築し、妻と息子と猫と暮らしながら、器を売り、本を読む毎日を送る。著書に『わからないままの民藝』(作品社)。Podcast「ちぐはぐ学入門」を不定期で配信中。松本紹圭『日常からはじまるサステナビリティ』(淡交社)には対談者として参加している。飛騨民芸協会理事、愛知県立芸術大学非常勤講師、雑誌『民藝』編集委員。
https://www.instagram.com/yawaiya_asakura/
やわい屋
朝倉さん夫妻の審美眼で選ばれた地元作家の器を中心に、生活にまつわる品を扱うショップ。屋根裏にある私設図書館には、人文系を中心にした書籍が並び、一般向けに貸し出し(年会費制)をしている。ギャラリーでは作家の個展が開催されることも。“やわい”とは、飛騨地方の言葉で「支度をする」ことで、日々は楽しく生きるための“やわい”の連続であるという意味をこめている。

MAP

〒509-4121岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
電話番号:0577-77-9574
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