むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

道を照らしてくれた
「民藝」という光
やわい屋
店主 朝倉圭一
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February 03. 2025(Mon.)

飛騨の小京都と呼ばれ、外国人観光客からも高い人気を誇る岐阜県高山市。古い街並みが残されているだけでなく、飛騨の匠と称される手仕事の技が継承され、それらを愛でる精神が根付いている。
高山の市街地から少し離れた場所に、全国から人がやってくるという民芸の店「やわい屋」がある。今回は、店主である朝倉圭一さんを訪ねた。
第1回目は、朝倉さんが生まれ育った高山の町について、そしてどんな子ども時代を過ごし、民藝に至るどんな思想が育まれたのかについてお話を伺った。

●本記事における「民藝」と「民芸」の使い方について
柳宗悦の思想に基づいた意味合いの場合は「民藝」を、柳の思想から発展しつつ現代において展開されているものの場合は「民芸」を使用しています。

本が好きだった
子ども時代

自分は一体どこからやってきたのか?と自問したり、祖父から戦争体験を聞いたり、自室にこもって本を読み続けたり。そんな毎日を過ごす子どもだったとふり返る「やわい屋」店主の朝倉圭一さん。

「何かを考え出すと、“日本はどうやって続いてきた国なんだろう?”といった壮大なテーマに発展することもあって、考えすぎる子どもだったと思います」

江戸時代の飛騨地方は幕府直轄の天領地だったことも関係するのか、地元の歴史や文化について研究する人が多く、郷土史家が出版する書籍が幼少期から朝倉さんの身近にあった。そんな中で知った地域の歴史は朝倉少年の心に深く刻まれ、物事を考える際の指針になっていったのだろう。

やわい屋の店主・朝倉圭一さん。

10代からは
音楽活動にのめり込む

中学生になるとギターにはまりだした。ジャンルはフォーク。1人で路上ライブをするようになり、その後2人編成のフォークデュオに発展。高山から名古屋へ出ていったのが18歳の時だった。
選んだ音楽が、一般の民衆の生活感や思いを素朴に綴ったフォークソングだったということを考えると、やはり思想の根本には、民藝の精神がすでに宿っていたのかもしれない。

アパレルの会社で仕事をしながら、名古屋市内の駅前などでライブ活動を続けていたが、デュオは解散し、地元に戻ることになる。23歳になっていた。

地元に戻ってからは、音楽は続けながらも、アルバイトをいくつか掛け持ちすることに。コンビニエンスストアやラーメン屋、酒屋、100円ショップなど、あらゆるアルバイトをする中で、ラーメン屋の店長を任されることになった。
「家業があるわけではないので、好きな仕事ができるはずなのに、これでいいのかな?と自問していました。同級生たちは家業を継いだりサラリーマンになったりして覚悟を決めて仕事をしていましたから、余計にそう感じていたのかもしれません」

やわい屋の店内には朝倉さんの
お気に入りの音楽が流れている

東北の工芸品を知る中で
「民藝」と出会う

いつか自分で仕事を始めようという思いを胸に秘めながら、27歳で結婚。東日本大震災が起こった年でもあり、震災後の復興プロジェクトとして、東北の工芸品がいろいろな媒体で紹介されていた。そこで「民藝」の文字が朝倉さんの目に飛びこんできた。
「子どもの頃からずっと興味があった日常の暮らしとものづくりの結びつきがそこにあるとわかり、自分が追い求めていたのはこれだったんだ!と気がついたのです」

その頃、柳宗悦の「民藝運動」については知らなかったという朝倉さん。それからむさぼるように「民藝運動」や民芸に関する本を読み、妻と2人で全国の民芸館を旅して回った。漠然としていた「いつか何かやろう」は、「絶対に“民藝”に関わることをやろう」となったのである。

*柳宗悦(1889-1961)=美術評論家、宗教哲学者、思想家。「民藝運動」を提唱した。
*民藝運動=無名の工人がつくった日常に使う器や日用品に美しさや価値を見出そうとする運動。「民藝」は「民衆的工藝」の略語。

やわい屋の棚には、民芸に関わる書物が。

プロフィール

やわい屋 店主
朝倉圭一(あさくらけいいち)
岐阜県高山市生まれ。高山の山間にある民芸の器と私設図書館「やわい屋」の店主。築150年の古民家を移築し、妻と息子と猫と暮らしながら、器を売り、本を読む毎日を送る。著書に『わからないままの民藝』(作品社)。Podcast「ちぐはぐ学入門」を不定期で配信中。松本紹圭『日常からはじまるサステナビリティ』(淡交社)には対談者として参加している。飛騨民芸協会理事、愛知県立芸術大学非常勤講師、雑誌『民藝』編集委員。
https://www.instagram.com/yawaiya_asakura/
やわい屋
朝倉さん夫妻の審美眼で選ばれた地元作家の器を中心に、生活にまつわる品を扱うショップ。屋根裏にある私設図書館には、人文系を中心にした書籍が並び、一般向けに貸し出し(年会費制)をしている。ギャラリーでは作家の個展が開催されることも。“やわい”とは、飛騨地方の言葉で「支度をする」ことで、日々は楽しく生きるための“やわい”の連続であるという意味をこめている。

MAP

〒509-4121岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
電話番号:0577-77-9574
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