
中部地域の注目パーソンにインタビュー!
理想の暮らしと店を叶えた
古民家との出会い
やわい屋
店主 朝倉圭一
(2/4)
February 03. 2025(Mon.)
飛騨の小京都と呼ばれ、外国人観光客からも高い人気を誇る岐阜県高山市。古い街並みが残されているだけでなく、飛騨の匠と称される手仕事の技が継承され、それらを愛でる精神が根付いている。
高山の市街地から少し離れた場所に、全国から人がやってくるという民芸の店「やわい屋」がある。店主である朝倉圭一さんの人生観がたっぷり詰まった店。
第2回目は、朝倉さんが「やわい屋」をはじめると決めた時から現在に至るまでの思いについて、お話を伺った。
●本記事における「民藝」と「民芸」の使い方について
柳宗悦の思想に基づいた意味合いの場合は「民藝」を、柳の思想から発展しつつ現代において展開されているものの場合は「民芸」を使用しています。
ー前回の記事はこちら
道を照らしてくれた「民藝」という光 やわい屋店主 朝倉圭一(1/4)


民芸を扱う
店をはじめよう
柳宗悦の「民藝運動」を知った朝倉さん。もともと郷土史を独自で学んでいたこともあり、飛騨高山の歴史や地域性と「民藝」の考え方は、ジグソーパズルのピースがぴたりとあてはまったかのように、リンクしていった。
「民芸は高山で生まれ育った自分が町の良さを伝えようとする時に、とても良い媒体になると思ったのです」
飛騨高山には、天領地であったこの地を今も誇りを持っている人が多く、地域に根づく民芸がいくつも継承されており、さらに「民藝」の思想に共感してものづくりをしている作家や職人が存在する。高山の地で民芸を扱うことこそ、自分に与えられた使命だと朝倉さんは考えた。
「暮らしながら、本を読みながら、家族と一緒に成長しながら、その場所で仕事ができる。それが僕の理想だということを導き出すのに、それほど時間はかかりませんでした」
高山は近年、インバウンド人気が高く、外国人観光客にとってリピートして訪れたい町として常にランキング上位に入っている。
「僕たちが店を開こうと考えていた頃は、今ほど外国人観光客の数は多くなかったのですが、町の中心地はどこも外からの人であふれかえっていました。町の真ん中に暮らしたいとは思っていなかったので、郊外のどこかで、と考えていました」
高山市街から離れており、「民藝」の思想を体現できる場所で。そして、地域の歴史が刻まれてきた古民家のような物語性のある空間で日々を送りたい、と方向が定まっていく。


離れたのどかな場所。
築150年の
古民家との出会い
岐阜県の荘川町にあった築150年の古民家が再生を前提で解体されたと聞き、朝倉さん夫妻はすぐに建材を見に駆けつけた。登記簿によると明治4年の総ヒノキの建物で、材木屋を生業としていた家のものだった。
「材質がとても良いものでした。今ではもう見かけなくなった田の字型に4つの和室が配置された間取りで、住まいと仕事場が一体化した暮らしがしたいという僕の理想を実現できると思いました」
物件を探し始めてから、約2年の月日が経っていた。この建物に決めてから、解体された建材を運んで移築。ついに朝倉さん夫妻の拠点が完成した。
「僕の場合、毎日の暮らしに“民藝”を感じることができるのなら、それ以外は多くを求めていなかったんです。物を持たないことはまったく気になりませんでしたし、清貧の中にも喜ばしく生きていけたらいいな、と思っていました」
朝倉さんのそんな思いを実現させてくれたのが、築150年の古民家だったのである。


この場所にきれいにおさまっている。
家族3人と猫との暮らし
古民家の移築とともに、「やわい屋」を開店させたのは、朝倉さんが31歳の時だった。
“やわい”とは、飛騨の方言で「支度をする」という意味。出掛ける準備をしなさいと促す時などに「そろそろ、やわわんといかんよ」と声をかけるのだとか。
「毎日は“やわい”の連続ですよね。現代を生きる人はみな忙しいから、すぐに端折ることを考えてしまうけれど、面倒だと思うことも丁寧にやっていきたいし、その積み重ねが毎日になると考えています。お店では主に器を販売していますが、器は僕たちにとってのゴールではない。配り手である僕たちと、つくり手である作家たちと、使い手であるお客さまが、みんな未来に向かって“やわい”するための空間であり、店であり、図書館であり、ギャラリーでありたいんです」
店と自宅は同じ棟で、妻の佳子さんと息子さんとのプライベートな空間とつながっている。自宅の扉を開けると人懐こい猫が顔を出す。その敷居をまたいではいけないのは猫だけ。家族といつも一緒にいられて、本を好きなだけ読んで、民芸に囲まれ、お店を経営する。朝倉さんが理想としていた暮らしが、ここにある。




大切な日常のワンシーン。
プロフィール
- やわい屋 店主
- 朝倉圭一(あさくらけいいち)
- 岐阜県高山市生まれ。高山の山間にある民芸の器と私設図書館「やわい屋」の店主。築150年の古民家を移築し、妻と息子と猫と暮らしながら、器を売り、本を読む毎日を送る。著書に『わからないままの民藝』(作品社)。Podcast「ちぐはぐ学入門」を不定期で配信中。松本紹圭『日常からはじまるサステナビリティ』(淡交社)には対談者として参加している。飛騨民芸協会理事、愛知県立芸術大学非常勤講師、雑誌『民藝』編集委員。
- https://www.instagram.com/yawaiya_asakura/


- やわい屋
- 朝倉さん夫妻の審美眼で選ばれた地元作家の器を中心に、生活にまつわる品を扱うショップ。屋根裏にある私設図書館には、人文系を中心にした書籍が並び、一般向けに貸し出し(年会費制)をしている。ギャラリーでは作家の個展が開催されることも。“やわい”とは、飛騨地方の言葉で「支度をする」ことで、日々は楽しく生きるための“やわい”の連続であるという意味をこめている。