むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

スノウエイジングへの挑戦
焼肉 旬やさい ファンボギ
高橋樗至(のぶゆき)さん
(3/4)

February 12. 2024(Mon.)

「熟成肉」というジャンルが新たに確立されつつある。温度や湿度を管理しながら肉を寝かせることで旨味成分が高められた肉のことである。
岐阜市で焼肉店を営む高橋樗至(のぶゆき)さんは、年間を通じて熟成庫で肉の熟成をしているだけでなく、雪のシーズンになると岐阜県飛騨地方で雪室(ゆきむろ)をつくって肉の雪中保存(スノウエイジング)にも挑戦している。
3回目となる今回は、その「スノウエイジング」について伺った。

ー前回までの記事はこちら
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「熟成肉」を追求する岐阜の焼肉店オーナーシェフ 焼肉 旬やさい ファンボギ 高橋樗至(のぶゆき)さん(1/4)
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生命と向き合った瞬間 焼肉 旬やさい ファンボギ 高橋樗至(のぶゆき)さん(2/4)

冷蔵庫がない時代の
肉の保存方法とは?

「ファンボギ」の熟成庫は、温度と湿度を調整できるので、高橋さんの理想の環境を整えることができる。
ある時、高橋さんは疑問に思った。
「電気が使われる前の時代、肉の保存はどうしていたのだろう?」
周りの人に聞いてみると、「雪の中に肉を吊るしていたらしいよ」「雪がなくても冬になると穴を掘って吊り下げる方法もあったらしい」など、いろいろなエピソードが聞こえてきた。
特に“雪の中に肉を吊るして保存する”方法に興味がわいた高橋さんは、さっそく2014年にプロジェクトチームを結成。岐阜県郡上市まで出掛けて雪室(ゆきむろ)をつくり、牛タンと鴨肉をぶら下げてみた。
1ヶ月ほど実験的に吊るしたものを食べてみたところ、旨味成分は確かにアップしたのではないか?という結論には至ったが、風をどこまで遮断するべきなのか、雪室の壁の厚さは適しているかなど疑問もたくさん湧いてきた。
翌年の2015年から、牛一頭分が入る大きさの雪室をつくり、本格的にスノウエイジングをスタート。そして2016年には、ようやく納得のいくスノウエイジングができた。その記念に祝賀パーティーを開催し、スノウエイジングがつくる未来の食環境について150名近くの来場者を前に、高らかに宣言した。

スノウエイジングを成功させた祝賀パーティーを
岐阜市内のホテルで開催した時の様子。

スノウエイジングとは?

肉の熟成には、4種類あることは第2回目の記事でお伝えした。
生命と向き合った瞬間 焼肉 旬やさい ファンボギ 高橋樗至(のぶゆき)さん(2/4)

その中の、「スノウエイジング」の大きな特徴について説明しよう。
肉は剥き出しの状態で(ラップや真空パックされずに)雪室に吊るされる。雪が凍っているので空気の温度はマイナスで、湿度は100%に近い状態。雪室は中が無風状態になるようにビニールで覆うので、風はほぼないと考えられる。
電気を使って人工的に管理する環境ではなく、自然環境の中で雪に覆われて肉は熟成というタイムカプセルに入れられる。それが、昔の人々が雪深い地域で知恵を出し合ってつくり上げた雪室の仕組みだ。
もちろん食肉だけでなく、野菜や魚も雪室で保存されてきた。こうした冬の食材保存の方法は、山里では普通におこなわれていたという。
「未来に向かってスノウエイジングを始めましたが、実は過去に遡っている部分もたくさんあって、先人たちがどう考え、何を工夫したのかを一生懸命想像して挑戦しているんです」

2015年に牛一頭分をスノウエイジング
した時の写真。

雪室が溶けてしまう
地球温暖化との闘い

2017年、高橋さんをはじめとしたスノウエイジングのプロジェクトチームはある問題にぶつかってしまう。
温暖化の影響からか、豪雪地帯といわれている岐阜県の数河(すごう)高原ですら、せっかく雪が積もっても、何日かすると溶け始めてしまうのだ。雪室が溶ければ、当然スノウエイジングにはならず、熟成は不可能。
やっと始まったプロジェクトを、諦めざるをえない状況となってしまった。
「年々雪が少なくなってきているのは確かです。それがこの数年で急速に進んだ気がします。釣りが好きでよく渓流釣りに出かけるのですが、釣れる魚が変わってきていて、川の生態系に変化が起きているのを感じます」
スノウエイジングにとって厳しい課題だ。
「この数年で温暖化を目の当たりにしたということもあり、スノウエイジングは地球環境の変化に対峙することでもあるのだ、と教えられた気がします」
人間ひとりが地球温暖化のためにできることは、そんなに多くはない。それでも肉の流通に無駄をなくすこと、自然を壊さずに家畜を育てる環境を整えることなどで、小さな一歩を踏み出すことはできる、と高橋さんは考えている。

スノウエイジングを通して、地球温暖化による
自然の変化を目の当たりにしたという。

プロフィール

熟成師・肉料理人・焼肉 旬やさい ファンボギ オーナー
高橋 樗至(たかはし のぶゆき)
岐阜県岐阜市生まれ。岐阜市内で3代続く家業の焼肉店で修行し、ヨーロッパやアメリカの放浪旅や精肉店での経験を経て、2010年に「焼肉 旬やさい ファンボギ」をオープン。熟成肉で食環境を豊かにする、をキーワードに、飛騨牛の生産者とのプロジェクトを進めながら、パティシエ・青木定治氏らとともに飛騨牛にフィーチャーした食事会企画に携わるなど、幅広く活躍する。
焼肉 旬やさい ファンボギ
JR岐阜駅から徒歩数分のところに、400店以上の飲食店がひしめくエリアがある。「ファンボギ」はその一角にある焼肉店。熟成師・高橋さんが熟成させた上質な肉を求めて、東京や大阪からわざわざ訪れる人がいるほどの人気店だ。店内に足を踏み入れても、いわゆる焼肉店の匂いがしないことに驚かされる。清潔に管理された熟成肉の専門店。熟成肉をはじめとした肉類や加工品の販売もおこなっているため、それを目的に訪れる人も多い。

MAP

〒500-8843岐阜県岐阜市住田町2-4 南陽ビル1F
電話番号:058-213-3369
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