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中部地域の注目パーソンにインタビュー!

「熟成肉」が導く食の未来とは
焼肉 旬やさい ファンボギ
高橋樗至(のぶゆき)さん
(4/4)

February 12. 2024(Mon.)

「熟成肉」というジャンルが新たに確立されつつある。温度や湿度を管理しながら肉を寝かせることで旨味成分が高められた肉のことである。
岐阜市で焼肉店を営む高橋樗至(のぶゆき)さんは、年間を通じて熟成庫で肉の熟成をしているだけでなく、雪のシーズンになると岐阜県飛騨地方で雪室(ゆきむろ)をつくって肉の雪中保存(スノウエイジング)にも挑戦している。
最終回となる今回は、高橋さんがどんな未来を見つめているのか、お話を伺った。

ー前回までの記事はこちら
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「熟成肉」を追求する岐阜の焼肉店オーナーシェフ 焼肉 旬やさい ファンボギ 高橋樗至(のぶゆき)さん(1/4)
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生命と向き合った瞬間 焼肉 旬やさい ファンボギ 高橋樗至(のぶゆき)さん(2/4)
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スノウエイジングへの挑戦 焼肉 旬やさい ファンボギ 高橋樗至(のぶゆき)さん(3/4)

ジビエが誤解されていること

狩猟が解禁されるのは、11月15日から2月15日。その間、ファンボギにもジビエの食材が入ってくる。
「ジビエは臭いから苦手とか、獣の臭いや味が嫌だという人の声を時々聞きますが、それはきちんとした処理・管理がされていないジビエ肉を召し上がっているからだと思うのです」
捕獲が許された野生動物は、それを獲る人、処理する人、管理する人、それぞれの技術が食肉の味わいを決めるのだ、と高橋さんは力説する。
「動物の体の構造をきちんとわかった人が猟をしないと、傷めなくてもいい箇所を傷めてしまい、肉が臭くなるんです。動物たちが発情しない時期に猟をすることや、屠殺(とさつ)をおこなう現場には獣医師が立ち会いをしているかどうかなど、知識と経験と技術をもった人々によって大切に扱われなくてはいけないんです」
人間は動物の命をいただくのだから、その命に対しては最大限の敬意をはらって向き合いたいと高橋さんは考えている。

ジビエの季節になると、鴨や猪、熊などの肉が
熟成肉のラインアップに加わる。

牛一頭を
すべて丁寧にいただく

「たとえば牛を一頭まるごと預かったなら、その命に感謝して、一頭すべてをしっかりといただきたいと考えるようになりました。牛の骨はとても頑丈なので、きれいに掃除をして加工をほどこせば、いろいろな物へ昇華させることができます」
そう言って高橋さんが見せてくれたのは、スマートフォンスタンド。
「牛はもともと人間と一緒に働いてきた仲間です。その牛の骨まできちんと使うことができないかと思い、骨を使ったオブジェや商品をつくりたいと考えています」
このほか、猟をする山里の人たちがお守り代わりに「熊の爪」を持っているという話を聞き、高橋さんも自店で扱った熊の爪をいつもポケットに入れているのだそう。

さらに高橋さんは、牛の繁殖から手掛けられないか?と考え、生産者とともにプロジェクトをスタートさせた。
「人間に必要なタンパク質を、経済動物からいただいている身として、経済動物の行く末をきちんと考えたいと思ったことがきっかけでした」
繁殖からエンドユーズまで一貫して手掛けるプロジェクトは、まだ誰も手をつけていない分野だけに、課題は山積みだが、時間をかけてゆっくりと、牛の繁殖に挑戦していきたいと話してくれた。

牛の骨を削ってつくったスマートフォンスタンドが
店の中に設置してある。
高橋さんが大切にしている熊の爪コレクション。

熟成肉を通して
飛騨牛の価値を
上げていきたい

高橋さんが取り組んでいるスノウエイジングでは、飛騨牛を使っている。地元岐阜県が誇るブランド牛で広く認知されているが、高橋さんはずっと先を見つめているよう。
「スノウエイジングをはじめとした熟成肉を提供することが、食肉の計画的な流通を広め、無駄な屠殺を減らし、地球環境にも寄与すると信じて活動しています。うちの店はたかだか50席。この1店舗でどこまでのことができるのか未知数ともいえますが、限界があるともいえる。けれど、飛騨牛で熟成牛がもっと広まっていけば、飛騨牛そのものの価値を上げていくことにもつながると思っています。そうすれば、生産者も職人も仕事の価値が上がり、安心できる食環境づくりへと連鎖していくはず。だから熟成肉をこれからもずっと追求していきたいのです」
熱い思いを語りながら、高橋さんは3日前に吊るした牛タンの飛んだ水分を計算し、どうカットすれば熟成がうまくいくかのスケッチをしていた。それは絵描きのようでもあり、フランス料理人のようにも見える。
少年時代に夢見た画家への道、イタリアやフランス料理への憧れ、肉料理人としての自分の悩み、それらはすべて、今の高橋さんの生き方に現れていると言っていいだろう。肉をカットする姿は、すべてがひとつの方向を向いて、今日の自分ができているのだ、と言わんばかりの佇まいだった。

「飛騨牛の生産者とともに、未来をつくりたい」
という高橋さんのラブコールを
生産者たちもしっかりと受け止めている。

プロフィール

熟成師・肉料理人・焼肉 旬やさい ファンボギ オーナー
高橋 樗至(たかはし のぶゆき)
岐阜県岐阜市生まれ。岐阜市内で3代続く家業の焼肉店で修行し、ヨーロッパやアメリカの放浪旅や精肉店での経験を経て、2010年に「焼肉 旬やさい ファンボギ」をオープン。熟成肉で食環境を豊かにする、をキーワードに、飛騨牛の生産者とのプロジェクトを進めながら、パティシエ・青木定治氏らとともに飛騨牛にフィーチャーした食事会企画に携わるなど、幅広く活躍する。
焼肉 旬やさい ファンボギ
JR岐阜駅から徒歩数分のところに、400店以上の飲食店がひしめくエリアがある。「ファンボギ」はその一角にある焼肉店。熟成師・高橋さんが熟成させた上質な肉を求めて、東京や大阪からわざわざ訪れる人がいるほどの人気店だ。店内に足を踏み入れても、いわゆる焼肉店の匂いがしないことに驚かされる。清潔に管理された熟成肉の専門店。熟成肉をはじめとした肉類や加工品の販売もおこなっているため、それを目的に訪れる人も多い。

MAP

〒500-8843岐阜県岐阜市住田町2-4 南陽ビル1F
電話番号:058-213-3369
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