
中部地域の注目パーソンにインタビュー!
店を要に、人とつながり
地域に変化をもたらす
やわい屋
店主 朝倉圭一
(3/4)
February 10. 2025(Mon.)
飛騨の小京都と呼ばれ、外国人観光客からも高い人気を誇る岐阜県高山市。古い街並みが残されているだけでなく、飛騨の匠と称される手仕事の技が継承され、それらを愛でる精神が根付いている。
高山の市街地から少し離れた場所に、全国から人がやってくるという民芸の店「やわい屋」がある。
第3回目は、店主の朝倉圭一さんが「やわい屋」を媒介にして、民芸の使い手であるお客さまとどう付き合ってきたのか、地域との関わりについてお話を伺った。
●本記事における「民藝」と「民芸」の使い方について
柳宗悦の思想に基づいた意味合いの場合は「民藝」を、柳の思想から発展しつつ現代において展開されているものの場合は「民芸」を使用しています。
ー前回までの記事はこちら
道を照らしてくれた「民藝」という光 やわい屋店主 朝倉圭一(1/4)
理想の暮らしと店を叶えた古民家との出会い やわい屋店主 朝倉圭一(2/4)


「いらっしゃいませ」ではなく
「こんにちは」
「やわい屋」にやってくるお客さまに「いらっしゃいませ」とは言わず「こんにちは」と声をかけるのが朝倉さんのスタイル。
「僕らは売ることが一番の目的ではないんです。お客さまがたまたま気に入ったものがあったのなら買っていただけたら光栄です、というスタンスなんです」
中には、ものを買いに来るのではなく、朝倉さんと話すことを目的に来店する人もいるのだとか。
お店を始めてから苦労をしていない、という朝倉さん。
「最初から小さく小さく生きていきたいと思っていますから、住まいと仕事場を一緒にしましたし、なるべくここの空間にいたい。その中で来店されるお客さまとの関係も自然に出来上がっていったんですね」


いつもここにいるからこそ
自然で心地よい出会いがある
作家たちとの関係も、お客さまとのつながりができていく過程と同じである。
「商品が売れるか売れないか、ではなく、付き合いやすい人かどうか、が僕らにとってはいちばん大切。今お付き合いがある作家さんは20名ほどですが、どの方ともどこかで偶然会ったとか、遊びに来てくれて話が合ったとか、そんな感じでつながりが始まっているんです」
新型コロナウイルスが流行した時期、ステイホームが当たり前になり来店客数は激減したが、ECサイトを充実させたことでお客さまとのつながりを保つことができた。
「2020年に息子が生まれました。ちょうどコロナ禍と重なったこともあり、家で過ごし時間が増えたことで妻と一緒に子育てに向き合うことができました」


店舗2階に私設図書館を開設。
人文系を中心とした書物が揃う。


ギャラリースペース。
やわい屋と
地域との関係性
「やわい屋に人が来てくださるようになったのだとしたら、近辺にもほかに立ち寄れる場所ができて自然に人が集まる、そんな集落になれるといいなぁと思っています。実際、すぐ近くにカレー屋さんや、環境に優しい洗剤の量り売り屋さんができているんですよ。もしかしたら、これからそんな動きが出てくるかもしれない、と期待しています」
朝倉さんがそう考えるのは、鳥取県に住む知り合いから、自らの町の美術館と窯、カフェを融合させた町づくりの成功例を聞いたからだ。
やわい屋の周辺では、近々ゲストハウスをオープンするという人がいたり、空き家情報が出るとすぐに埋まったりするのだとか。高山の中心街からは少し距離があるこの集落に、やわい屋がきっかけとなって新しいムーブメントが起きているのだとしたら、期待を持って見守りたい。


チャレンジするほうが広がりが生まれる」
と朝倉さん。
プロフィール
- やわい屋 店主
- 朝倉圭一(あさくらけいいち)
- 岐阜県高山市生まれ。高山の山間にある民芸の器と私設図書館「やわい屋」の店主。築150年の古民家を移築し、妻と息子と猫と暮らしながら、器を売り、本を読む毎日を送る。著書に『わからないままの民藝』(作品社)。Podcast「ちぐはぐ学入門」を不定期で配信中。松本紹圭『日常からはじまるサステナビリティ』(淡交社)には対談者として参加している。飛騨民芸協会理事、愛知県立芸術大学非常勤講師、雑誌『民藝』編集委員。
- https://www.instagram.com/yawaiya_asakura/



- やわい屋
- 朝倉さん夫妻の審美眼で選ばれた地元作家の器を中心に、生活にまつわる品を扱うショップ。屋根裏にある私設図書館には、人文系を中心にした書籍が並び、一般向けに貸し出し(年会費制)をしている。ギャラリーでは作家の個展が開催されることも。“やわい”とは、飛騨地方の言葉で「支度をする」ことで、日々は楽しく生きるための“やわい”の連続であるという意味をこめている。