
中部地域の注目パーソンにインタビュー!
生きたまち・郡上から
100年後の未来を想う
株式会社 上村考版
代表取締役 上村佑太
専務取締役 上村大輔 (3/3)
April 21. 2025(Mon.)
夏の夜の約30夜、人々が踊りつづける、日本一ロングランの盆踊りとして有名な岐阜県郡上市の「郡上おどり」。その踊りを彩る新たな衣料ブランド「ODORIGI(オドリギ)」が話題だ。そのプロジェクトの中核メンバーが、郡上の地場産業であるシルクスクリーン印刷工房・上村考版(こうはん)の代表・上村佑太(ゆうた)さんと、兄でデザイナーの大輔(だいすけ)さん兄弟。郡上の歴史や文化を継承した革新的なプロダクトで多くの人を魅了している二人が目指す未来とは。
第3回の今回は、ODORIGIプロジェクトと郡上のまちの未来について話を聞いた。
ー前回までの記事はこちら
踊り着×シルクスクリーン印刷で郡上(ぐじょう)のまちを盛り上げる 株式会社 上村考版 代表取締役 上村佑太 専務取締役 上村大輔 (1/3)
兄弟からバディへ二人の長所を活かす「ものづくり」 株式会社 上村考版 代表取締役 上村佑太 専務取締役 上村大輔 (2/3)

100年後の未来の資料館に
展示されるような存在に
――ODORIGIプロジェクトの今後について聞かせてください。
佑太さん 自分たちがつくったものが、郡上おどりの会場で本当に馴染んでくれているんですよね。私たちが手掛けたODORIGIを気に入って着て、踊りに来てくれる様子を見ると、すごくうれしい。それが今後はもっと多様になって欲しいなと思っています。
大輔さん 明宝歴史民俗資料館というところに行くと、古いもので100年以上前の野良着が展示されています。僕が思っているのは、ODORIGIの服をみんなが大事に着てくれて、100年後、200年後には、資料館で展示されている未来です。「ODORIGI」のタグが付いたものが資料として飾られていたらいいですよね。
――なるほど。歴史の延長線上のなかに新しい息吹を与える、というか。未来から振り返った時に、ODORIGIが一つのターニングポイントだったと言えるような存在になればいいですね。
大輔さん ええ。この「ODORIGI」は郡上おどりや郡上一円に広がる盆踊り文化のために生まれたものですが、踊るための衣装として袖を振った時にきれいに見えるシルエットなどを大事にしています。
佑太さん だからこそ、郡上を飛び出して全国へ広がっていってほしいと考えています。完全に踊りに特化したアパレルブランドって、私が知る限りでは、ないと思います。いろんな場所で素敵だと思って着てもらえたらうれしいですね。

伝統文化を抜きにして
純粋にいいものを届ける
――全国から注目を集める「ODORIGI」ですが、すでに郡上以外からも注文があったりするのでしょうか。
大輔さん そうですね。いろいろなところから印半纏のオーダーをいただいています。ある程度の自由度、許容度を担保しながら、みんながODORIGIで遊べる。そんな風になるといいなと思っています。
佑太さん 仲間たちと常に話しているのは、伝統文化を守るといっても「お涙ちょうだい」はイヤだよね、と。単純に「これ、めっちゃかっこいいよね!」というモノであり続けたいと思います。僕自身は、郡上のものづくりをどのように発展させていけばいいのかを考えながらODORIGIのプロジェクトに参加していますが、大輔のようにデザイナーの視点でプロジェクトと関わっていたり、「郡上の文化を発信するんだ」との強い想いを持ったメンバーもいます。とにかく、それぞれの立場や視点で郡上を想うメンバーが集まっていて多彩なんです。
――いろんな価値観の人が集まって融合することで、郡上ならではのプロダクトが生まれているわけですね。
佑太さん 単純に「郡上おどり」だけを前面に押し出すよりも、伝統文化と地場産業を一緒にした方が面白いし、唯一無二のブランドになっていくんじゃないかと思います。「ODORIGI」は、絶対に郡上でしかできないし、郡上にいる人でしかつくりえないもの。世界的なアパレルメーカーが真似しようとしても、これだけの歴史の深みは出せないと思います。これからも「僕たちだけしかできないもの」を追求していきたいですね。

伝統の地場産業を支えていく。
地元民も、移住者も、
みんながカッコイイまち
――地元・郡上市に戻って活躍されているお二人は、この地域に根差して働くことの魅力についてどのように感じていますか。
佑太さん 郡上市には、自営業で働いている人がたくさんいます。Uターンしてきた人もいれば、移住して何かを始める人もいる。そして、みんながカッコイイんですよね。
――魅力ある人たちが集まっているのが良いところだと。
大輔さん 例えば、僕たちがよく行くカフェが4つほどありますが、みんなそれぞれに特色があり、個性が際立っている。町のなかにいろいろなコミュニティがありますし、その根底には伝統文化が息づいている。誰もがこの土地に対するリスペクトを共有して、大事にしたいと思っていします。
佑太さん そうですね。「この土地を魅力的にしたい」という思いをみんなが持っているいうか。
大輔さん 全国のまちを見てみると、必ずと言っていいほど大型ショッピングセンターがあり、有名チェーン店がずらりと並んでいます。まちの景色は、テンプレート化されているように感じますが、郡上のまちは風景や文化を守ろうとする個々の意識が強いと感じます。

集まっているのが郡上の魅力」と語る大輔さん。
生きているまち
だからこそ郡上は楽しい
――郡上のまちの風景を守ろうという意識が共有されているのが、この地域の魅力だというわけですね。
佑太さん そうはいっても、若いうちは有名チェーン店が恋しかったりしましたけどね(笑)。
大輔さん そうだね。でも、郡上に戻ってきた今は、そういうものはなくてもいいと思える。テンプレートとは真逆を進み続ける「生きているまち」の感じがします。
佑太さん 有名な観光地に行くと、そこには誰も住んでいないということがありますよね。あくまで観光客向けに仕事をする場所で、夜になると閑散としている。こういうまちって結構あると思うんです。でも、郡上八幡は、そこに暮らしが根付いている。郡上おどりも、本当にそこで住んでいる人たちがやっていますから。
大輔さん いつもの酒場へ飲みに行って仲間と作戦会議をしていると、あっちで市役所の人が話していて、お互いに声を掛け合ったりする。とにかく距離感が近いし、情報伝達も速い。
佑太さん いい規模感だと思いますね。人口は4万人弱。僕たちが何かをしようと思った時に、ちゃんと動いている感覚が持てるのがいいです。ODORIGIのプロジェクトも大きな規模の町だったら、一気に動き出すことはなかったかもしれません。この土地に価値を感じている人たちが、すぐに意気投合して一枚岩になれる。これからも大好きな郡上を盛り上げるために手を携えて頑張っていきたいです。

だからこそすぐに意気投合できる」と佑太さん。
プロフィール
- 株式会社上村考版
- 上村佑太(かみむらゆうた)・上村大輔(だいすけ)
- 上村佑太さん/株式会社上村考版 代表取締役。高校卒業後、石川県の大学で化学を専攻。製薬メーカーの製造部門で勤務した後、家業である「上村考版」に戻り、主に工場の製造部門を担う。2022年1月の社名変更のタイミングで代表取締役社長に就任。郡上のスクリーン印刷工房の若手経営者らで結成された任意団体GRANDでは、初代の代表を務め、ODORIGIの制作ディレクションを担当した。 上村大輔さん/株式会社上村考版 専務取締役。大学のデザイン科で学んだ後、アパレルのベンチャー企業に就職。その後、世界各地を放浪したのち、拠点を地元・郡上に移す。郡上固有の伝統文化や歴史を現代の感性で再解釈しながら、デザイナーとして幅広い活動を展開。上村考版では専務取締役を務め、新商品や店舗などのブランディングから企画提案、アートディレクション、ロゴデザインなどを手掛けている。

- 株式会社上村考版
- 1974年、上村さん兄弟の父・均さんが「上村プロセス」として創業。1980年代後半には「旗のぼり」の全自動機械が登場したものの、融通が利きやすい手刷りにこだわり、機械ではできない高品質の1点モノを手掛け続けて今日に至る。2022年1月に現社名に変更後は、「世の中を一歩良くするものづくり」をコンセプトに掲げ、シルクスクリーン印刷発祥の地の文化を大切に守りながら、新たな領域を開拓し続けている。
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