むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

踊り着×シルクスクリーン印刷で
郡上(ぐじょう)のまちを盛り上げる

株式会社 上村考版
代表取締役 上村佑太
専務取締役 上村大輔 (1/3)

April 07. 2025(Mon.)

夏の夜の約30夜、人々が踊りつづける、日本一ロングランの盆踊りとして有名な岐阜県郡上市の「郡上おどり」。その踊りを彩る新たな衣料ブランド「ODORIGI(オドリギ)」が話題だ。そのプロジェクトの中核メンバーが、郡上の地場産業であるシルクスクリーン印刷工房・上村考版(こうはん)の代表・上村佑太(ゆうた)さんと、兄でデザイナーの大輔(だいすけ)さん兄弟。郡上の歴史や文化を継承した革新的なプロダクトで多くの人を魅了している二人が目指す未来とは。

第1回目の今回は、踊りのための衣料ブランド「ODORIGI」が誕生した背景について話を聞いた。

※シルクスクリーン:版に穴を開けてインクを押し出す孔版印刷の一種。メッシュ状の版にインクを通過させる穴を開け印刷する。

未来に向けて何かやろうと
若手経営者たちが意気投合

――30夜以上にわたって続くロングランの踊り祭り「郡上おどり」。なかでも8月13日から16日までの4日間におこなわれる「徹夜おどり」は全国的にも有名ですが、この祭りを盛り上げる衣服ブランド・ODORIGIは、どのようなきっかけで生まれたのですか?

佑太さん 私たち兄弟は、岐阜県郡上市で50年以上シルクスクリーン印刷工場を営む家庭に生まれました。シルクスクリーン印刷はこの地域の地場産業であり、かつては30以上の工房があったのですが、現在は半数近くに減っています。そうしたなか、郡上の宝である「ヒト・モノ・コト」を東京(江戸)に届ける「郡上藩江戸蔵屋敷」という郡上市主催プロジェクトの一環で、シルクスクリーン印刷を紹介することになり、地域の若手経営者たちが「未来に向けて何かやっていこう」と意気投合したのがそもそもの始まりでした。経営者たちと任意団体「GRAND」を立ち上げ、その取り組みの一環として、2024年夏にODORIGIをリリースしました。

大輔さん 2017年から始まった郡上藩江戸蔵屋敷のディレクターが、かつて上村考版で一緒に働いていた“盟友”なんです。郡上の信仰や踊り文化、郷土食やものづくりを紹介するイベントを開催するうちに、「郡上の地場産業であるシルクスクリーン印刷は、もっとアップデートできるポテンシャルがある」と盛り上がり、ODORIGIプロジェクトへとつながっていきました。

2024年に立ち上がったODORIGIのブランドロゴ。

ラフな格好もいいけれど
粋な踊り着をつくりたい

――郡上という地域の特性から、シルクスクリーンの技術を活かした「踊りのための衣料ブランド」へとつながるわけですね。

佑太さん そもそも子どもの頃は、郡上おどりをきちんと踊った覚えがないんですよね。とにかく夜に出店が並んでいて、そこに連れていってもらえるのがうれしかっただけで。

大輔さん 僕たちは2人とも進学を機に郡上を離れたのですが、社会人となって家業に戻ってきて改めて郡上おどりをきちんと踊るようになった。そして、大人になってから「なんて奇跡的な祭りなんだ」と再認識しました。こんな祭りは、ほかにないぞと。

――たしかに、自分の故郷に魅力的な祭りがあったとしても、一旦離れて暮らしてみないと良さを実感するのは難しいかもしれませんね。

大輔さん そうなんです。大人になって郡上おどりの会場で友人たちと出会った際、「踊りに行くのに何を着ていけばいいの?」という話になりました。結局、Tシャツと短パンを着て、手ぬぐいをぶら下げながら下駄をつっかけていく。そんなラフな格好で1時間だけ踊って一杯飲んで帰ってくる感じになるわけです。もちろんそれもいいけれど、「何か粋なスタイルがあればいいよね」と仲間たちと話していたんです。

――自由な格好で参加できるのは「郡上おどり」の魅力だけれど、もっと踊りを楽しめる衣服があればいいんじゃないかと。

大輔さん ええ。そこからアーティストの高橋理子(ひろこ)さんとコラボレーションする話が進んでいくことになりました。

ODORIGIプロジェクトを共に盛り上げる
高橋理子さんのデザイン。

歴史を紐解いて
新たなコンセプトを構築

――高橋理子さんと言えば、ご自身のブランド「HIROCOLEDGE」で日本各地の職人と一緒にものづくりをおこなったり、名だたるブランドとのグローバルコラボレーションを展開したりと、多彩なプロジェクトを手掛ける著名なアーティストです。どういったいきさつでコラボレーションが決まったのですか。

大輔さん 理子さんは、数年前から郡上おどりの会場で、ポップアップストアを手掛けていらっしゃるんですよね。そして、理子さんから「郡上ってシルクスクリーンの町ですよね? ぜひ一度工房を見せてもらえませんか?」と。そして郡上のスクリーン印刷について詳しくご紹介したところ、「すごく面白い」と話が盛り上がり、ODORIGIのデザインを担当してもらうことになったんです。

佑太さん 僕たちからすれば、理子さんは「一緒にしゃべっていいの?」と思うくらい、雲の上のような存在です。まさか一緒にプロジェクトを進めていけるとは思わず、驚きましたね。

――そのような出会いは、大きな推進力になりますね。そもそものコンセプトはどのように固めていったのですか?

大輔さん 郡上おどりの源流を調べるところから始めました。1754年に起きた郡上の宝暦騒動を遡ってみたり、実際に当時の人はどういうスタイルで、何を信仰して踊っていたのかを調べてみたり。資料館に足を運んで当時の人たちの野良着や浴衣の寸法を測ったりもしました。

――まずはきちんと歴史を紐解くところから始めたわけですね。

大輔さん そうです。そして、結果的にブランドの軸に据えたのが「どこまでも自由である」というコンセプトでした。郡上おどりに来る人は、浴衣を着ている人が大半を占めていますが、僕たちのようにTシャツと短パンスタイルが好きな人もいる。ただ、そんな自由さのなかにも、本来はちゃんとした軸がある。リサーチを通じて見出したのが「ふだん着とハレ着」「おしゃれ着と仕事着」の2軸4象限のコンセプトです。野良着とも呼ばれる百姓半纏(はんてん)や農作業の際に履くズボン・たつけ、家紋や屋号が染め抜かれた印半纏、伝統的な踊り浴衣、神事で身に付ける素襖(すおう)などを、現代的なエッセンスを加えながら復元しようと考えました。

オドリギは「オドリギTEI(テイ)」や「IV SHIRT(フォーシャツ)」「IV PANTS(フォーパンツ)」の3展開。
「ふだん着」としても人気が高まっており、2025年の盆踊りではさらに進化したアイテムが披露される予定だ。

反響の大きさに自信を高め
今後は海外展開も視野に

――昨年2024年夏にODORIGIをリリースしてからの反響はいかがですか?

佑太さん 思っていた以上に反響は大きいですね。当初目標にしていた販売数をクリアし、「これはいける」という手ごたえを感じています。何よりうれしいのは、20代の子たちが、自分なりの着こなしを楽しんでくれているところですかね。

――郡上の伝統を活かしたODORIGIは、日本文化に興味を持つ海外の人からも注目されそうです。

大輔さん 当然そこも視野に入れています。アバンギャルドかつ高性能であり、伝統的な要素も含んでいる。こうしたアイテムだからこそ海外に向けてプレゼンしていくのも全然アリだと思っています。

佑太さん ODORIGIは、アーティスト、デザイナー、リサーチャー、パターンナーなどがそれぞれ発案しあうプロジェクトであり、そこにシルクスクリーン印刷工房の経営者仲間で立ち上げた任意団体「GRAND」がタッグを組む形で進めてきました。今後は、さらにプロジェクトを拡大するため、マーケティングなどにも力を入れていかないといけない。そこで、販売窓口となる会社として「株式会社ODORIGI」を新たに設立し、郡上に対して人一倍熱意を持った20代の若いメンバーを代表に据えて今後の展開を図っていく考えです。

上村大輔さんがデザインを担当した作品「界」。
ODORIGIシリーズの版。

プロフィール

株式会社上村考版
上村佑太(かみむらゆうた)・上村大輔(だいすけ)
上村佑太さん/株式会社上村考版 代表取締役。高校卒業後、石川県の大学で化学を専攻。製薬メーカーの製造部門で勤務した後、家業である「上村考版」に戻り、主に工場の製造部門を担う。2022年1月の社名変更のタイミングで代表取締役社長に就任。郡上のスクリーン印刷工房の若手経営者らで結成された任意団体GRANDでは、初代の代表を務め、ODORIGIの制作ディレクションを担当した。 上村大輔さん/株式会社上村考版 専務取締役。大学のデザイン科で学んだ後、アパレルのベンチャー企業に就職。その後、世界各地を放浪したのち、拠点を地元・郡上に移す。郡上固有の伝統文化や歴史を現代の感性で再解釈しながら、デザイナーとして幅広い活動を展開。上村考版では専務取締役を務め、新商品や店舗などのブランディングから企画提案、アートディレクション、ロゴデザインなどを手掛けている。
株式会社上村考版
1974年、上村さん兄弟の父・均さんが「上村プロセス」として創業。1980年代後半には「旗のぼり」の全自動機械が登場したものの、融通が利きやすい手刷りにこだわり、機械ではできない高品質の1点モノを手掛け続けて今日に至る。2022年1月に現社名に変更後は、「世の中を一歩良くするものづくり」をコンセプトに掲げ、シルクスクリーン印刷発祥の地の文化を大切に守りながら、新たな領域を開拓し続けている。

Instagram
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電話番号:0575-88-3998
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