
エッセイスト桒原さやかさんが松本で感じる四季や自然とともに、家族でつくる日々をご紹介
松本ぐらしの贅沢
ご近所の「大きなお風呂」へ
February 16. 2026(Mon.)
岐阜県出身のライター・エッセイストの桒原(くわばら)さやかさん。「イケア・ジャパン」やWEBメディア&ショップを経営する「北欧、暮らしの道具店」に勤務した後、ノルウェーに移住し約1年半を過ごしました。
現在は、長野県松本市で、スウェーデン出身のご主人と2人のお子さまとともに暮らす桒原さんに、松本での暮らしや家族と過ごす日常について綴っていただきます。
撮影協力/浅間温泉旅館協同組合
https://www.website.com/asamaonsen/


湯と人の温もりを感じて
身も心もあたたかく
子どもたちが学校から帰ってきたら、まずは娘の宿題に取り掛かります。一通りおわって、時計に目をやると3時半。
さぁ、このあと、どうしようか…?
家で遊ぶか、ご近所を散歩するか、公園でひとっ走りするか。これらといっしょに候補にあがるのが温泉です。松本は中心から少し離れたところに、いくつか温泉街があります。家のお風呂はイヤがるけれど、広〜い温泉は大好きな子どもたち。親も子も楽しめて、お風呂に入るTODOもチェックできて、まさに一石二鳥というわけです。
家からいちばん近くにある温泉はどちらかというと、銭湯に近い雰囲気。お年寄りの方たちは日常湯として使っている方も多く、良心的なお値段で気軽に入れるのもいいところ。息子がまだ赤ちゃんだった頃から通っていて、子どもたちはここを「大きなお風呂」と呼んでいます。
「大きなお風呂に行ってみる?」と聞くと、「いくー!」とはずんだ声が返ってきました。よし、そうと決まれば、着替えとタオル、お風呂グッズを用意して、いざ出発です。


ガラガラガラ。扉を開けてチケットを買ったら、脱衣所へと進みます。子どもたちは手慣れた様子で、服を脱いだり、タオルを用意したり。浴場へ入ると、今日は混んでいて、洗い場はすでにいっぱいの様子。入口付近で右往左往していたら、奥の方でヒラヒラと手招きしているご婦人が。
「こっちこっち!もう終わるから、まってて〜」
「ありがとうございます!ゆっくりで大丈夫ですー!」
そう答えたものの、ご婦人は手早くさささと洗い場を整え、席を譲ってくれました。お礼をして、椅子を3つ並べて腰掛けます。子どもと一緒にいるとき、この一言がどれだけ有り難く、助かることか。
まだ息子が2歳、娘が4歳だったとき、子どもふたりが同時に泣き出してしまい、ヒヤヒヤしたことがありました。どうしようと思った瞬間、自分の母親くらいの年齢の方が、わたしの背中をタオルでやさしく洗いはじめたのです。何が起きているか、最初はわかりませんでした。
「おかあさんは自分のことをする時間なんて、ないでしょう?たまにはゆっくりしないと、もたないよねぇ」
そう言って、背中をやさしく洗ってくれたのです。ピンと今にも弾けてしまいそうな糸が、一瞬でふにゃんとやわらかくなったみたいに、気持ちがほぐれたことを覚えています。今でも温泉に浸かるたびに、よみがえる思い出です。
子どもたちも大きくなったものだなぁ。そんなことを思っていたら、息子が「のぼせちゃった」と一言。
湯から上がり、子どもたちを順番にタオルでくるみます。パタパタと準備していたら、横に座っているおばぁちゃんが、目を細めながら仏さまみたいな顔で、子どもたちをじーっと眺めていることに気がつきました。
「えらいねぇ、じょうずだねぇ」
照れくさいのか、口のはしっこだけぎこちなくニッと笑う子どもたち。着替えを済ませたら、おばあちゃんにバイバイーと手を振り、外に出ました。


ガラガラガラ。戸を開けると、ぴゅうっと冷たい空気が顔にあたります。でも、ぬくもった体には、この冷たい風が気持ちいいくらい。今日もこのホカホカを抱えたまま、足早に家へ帰ります。











