
エッセイスト桒原さやかさんが松本で感じる四季や自然とともに、家族でつくる日々をご紹介
いつもの場所で出会う
いつもと違う風景
August 21. 2025(Thu.)
岐阜県出身のライター・エッセイストの桒原(くわばら)さやかさん。「イケア・ジャパン」やWEBメディア&ショップを経営する「北欧、暮らしの道具店」に勤務した後、ノルウェーに移住し約1年半を過ごしました。
現在は、長野県松本市で、スウェーデン出身のご主人と2人のお子さまとともに暮らす桒原さんに、松本での暮らしや家族と過ごす日常について綴っていただきます。


慌ただしい、1日のはじまり
我が家の朝は5時半からはじまります。
ダダダダダッ。
この音が聞こえたら、起きる合図。となりの部屋で寝ている4歳の息子は、起きてすぐ、わたしのベッドまで走りこんでくるのです。まだ布団の中にいたい気持ちをぐっと奥の方へやって、息子といっしょにまずはキッチンへ。
夜のうちに洗っておいたお皿やコップを食洗機から取り出し、その流れで、朝ごはんの準備へと移ります。


小学校に通っている。
朝食のあとは、身支度をして、娘はそのまま小学校へ。お友達と待ち合わせしている場所まで、夫が毎朝送っていってくれることになっています。
「いってらっしゃーい」と娘の背中を送り出したあと、時計をみると7時過ぎ。
ここから息子を幼稚園へ送っていくまでが、わたしのフリータイムなのです。ザザッと家の片付けをして、洗濯機をまわし、いそいそと息子を連れて、裏のミニ畑へと向かいます。

夫が昨年DIYでつくってくれたもの。
畑全体をまずはぐるりとパトロール。育ち具合を見ながら、脇芽を摘んだり、伸びた枝をヒモで支柱に結んだり。朝、この場所で過ごすのは20分くらいでしょうか。毎日のようにここで過ごしていると、ちいさな発見があるのです。


グレーのとびきり大きなネコ(我が家ではボスネコと呼んでいる)が、朝の決まった時間に畑のまわりを涼しい顔で通り過ぎていくことを知ったり、ほわほわのジョウビタキ(翼の白斑が特徴の小鳥)の赤ちゃんを声をひそめて観察したり。またある日は、蛇の抜け殻がポツンと落ちていて、うゎー!と叫んだことも。
ここに住んで5年は経ちますが、家のすぐうしろに、こんな世界があったことをはじめて知りました。
そういえばこの感じ、前にもあったような。それは少し前にはじめて参加した、松本市アルプス公園の探鳥会でのことです。
野鳥のプロたちはどんな場所で観察するのだろうか。楽しみにしていたけれど到着したのは、駐車場のすぐ横にある橋や、遊具までの散歩道。ここ、いつも公園に行ったら必ず通る道なんです。
ちょっとガッカリしながらも、しばらく眺めていると、「こっちからイカルが見えますよー」「奥の枝の先っぽにニュウナイスズメがいますよー」と声が聞こえてきます。最終的に、ひとつの場所だけで10種類以上の鳥を観察することができたのです。


なにも特別な場所じゃなくても、いつもの場所でさまざまな鳥を見つけることができるんだ…。そんなことにあらためて気づかされた出来事でした。必要だったのはただ「待つこと」だったのかもしれません。
じっと眺めてみたり、気長に観察してみたり。むしろ、その場でしばらく過ごすだけでもいいのかもしれない。せっかちなわたしは、今までいろんなことを見逃してきたんだろうなぁ。


成長ぶりにびっくりする。
そんなことを考えているうちに、もうとっくに息子を送る時間です。
「おーい、行くよー!」と声をかけ、車に乗り込みます。ふと足元を見ると、息子の靴は泥だらけのびしょびしょ。「チョコチョコ(土と水を混ぜてつくるものを、息子はこう呼んでいます)つくってたら、ついちゃった」とのこと。
息子の手をひいて駆け足で家に帰り、猛スピードで着替えたら、また車へと戻ります。そして、ふーっと一息ついて、車を走らせました。
待つ楽しみを味わうのは、どうやら、もう少し先のことになりそうです。

