桒原さやか 信州・松本と家族の時間

エッセイスト桒原さやかさんが松本で感じる四季や自然とともに、家族でつくる日々をご紹介

築43年の古い家
諦めていたあの場所も

April 23. 2024(Tue.)

岐阜県出身のライター・エッセイストの桒原(くわばら)さやかさん。「イケア・ジャパン」やWEBメディア&ショップを経営する「北欧、暮らしの道具店」に勤務した後、ノルウェーに移住し約1年半を過ごしました。
現在は、スウェーデン出身のご主人と2人のお子さまとともに長野県松本市で暮らす桒原さん。ご夫婦で古い日本家屋を少しずつDIYしながら、心地よい住まいづくりをおこなっています。
そんな桒原さんに、松本での暮らしや家族と過ごす日常について綴っていただきます。

ひょっこり顔を出した福寿草

松本で出会った
築43年の古い家

庭にいたら、岩の後ろからひょいっと黄色い花が顔を出しているのを見かけました。春に咲く福寿草の花です。こんなところに咲いていたなんて、ちっとも知りませんでした。今の家に住んで4年ほど経ちますが、いまだにこんな発見があるのです。

私たちが住んでいるのは、築43年の純和風の中古物件。東京、ノルウェーと住む場所を変える中で、たどり着いたのが長野県の松本。街から車で10分も走ればすぐそこに自然があり、どこからでも北アルプスの大きな山が見える。小さすぎず、大きすぎない街のサイズ感も、私たちにはちょうどよかったように思います。

現在はスウェーデン出身の夫と3歳と5歳の子どもの4人暮らし。4年ほど前に中古物件を購入し、自分たちの手で直しながら住んでいます。

中古物件の面白さは建物そのものが持つ味わいと、あの庭の花のように、住みながら少しずつ家を知っていくことだと感じています。私たちがこの家に住む以前、年配のご夫婦が長い間ここに住んでいたのだそう。奥さんがお花好きだったようで、春にはスイセンや芝桜、夏はキキョウやセンニンソウなど、季節ごとに庭のあちこちから顔を出すのです。

床の間だったところに薪ストーブを設置。

また反対に、中古物件の悩ましいところは「制限」ではないでしょうか。「こうだったらいいのに......」と、嘆くこともしばしば。窓の位置や大きさ、間取り、キッチンの配置など、挙げだしたらきりがありません。

「これ以上、手のつけようがない」と諦めていた場所も、長く住む家だと思うと、やっぱり気になるのです。そうして、気になる気持ちとしばらく一緒に過ごしていると、ふとした瞬間、「これだ!」というアイデアが舞い降りてくることがあります。

あるときは、斜面の上に木のデッキを作ることで解決したり。またあるときは、ダイニングとキッチンをつなぐ大きな作業台を設置してみることであったり。よくよく考えてみたら、どれもこれもDIYで家づくりをしていなかったら、浮かびもしなかった アイデアばかりです。

少しずつ手を加えている庭のデッキとキッチン。

少しずつ手を加えている庭のデッキとキッチン。

少しずつ手を加えている庭のデッキとキッチン。

ここに壁紙を貼ってみようか? 木で棚を作ってみるのは? 飽きてきたら、ペンキを塗るのもいいかもしれない......。

家を楽しむ方法がこんなにたくさんあるなんて知りませんでした。
諦めていたあの場所も、この場所も。悩みながら、少しずつ手を加えていくうちに、「なんだかいいかも」と思える場所へと変わってきたのです。

工夫次第で、どんな場所でも楽しく過ごせる。これが自分たちで手を動かして得た、最大の収穫かもしれません。

先日、家を見渡しながら、誇らしげな顔の夫が「やっと一人前になれた気がする」と一言。
というのも、夫の故郷である北欧では、築100年以上の家が多く、家を自分たちの手で直すというのは誰もがあたりまえにやっていることなのです。むしろ、これが家を持つ醍醐味なのだとか。
日本で家を持ち、4年間必死に家づくりをしてようやく、夫も一人前の北欧人になれたようです。

余った木材で、洗濯機置き場を制作中。
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