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中部地域の注目パーソンにインタビュー!

ミシンとの出会いで
湧き出た生きる活力
G3sewing
工場長・斉藤勝さん
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October 02. 2023(Mon.)

80代でミシンを始め、持ち前の職人魂を発揮して作り上げた“がま口バッグ”が、大人気商品に――。そんな奇跡のストーリーが話題を集めている。物語の舞台は三重県四日市市の「G3sewing(じーさんソーイング)」。人気商品を手掛けるのは元電気工事士の斉藤勝さんだ。「新しいことを始めるのに遅すぎることはない」。自宅の一角で生み出される斉藤さんの作品が、全国のたくさんのファンを勇気づけている。
1回目の今回は、斉藤さんとミシンとの出会いについて伺った。

3人で始まった
小さなソーイングチーム

G3sewing(じーさんソーイング)は、2019年に誕生した小さなソーイングチームだ。制作を担当しているのは、現在85歳となった斉藤勝さん。その名の通り、おじいさんがつくるハンドメイドの裁縫作品を製造販売する工房で、赤い椿柄のがま口バッグが看板商品だ。現在は、少しでも多くの人に商品を届けようと、在宅ワーカーも数名抱え製作に勤しんでいる。

斉藤勝さんと妻・陽子さん、三女・畑中千里さんの3人でスタート。2023年1月からは千里さんの夫・祐二さんも新たなメンバーとして加わり、祐二さん・千里さんご夫婦の長女・愛生さんと長男・元希さんの協力も得ながら少しずつ商売を広げている。

チーム名を発案したのは、英語教室の教室長をしている千里さんだ。
「“おじいさん”の父親がつくっているから、英語っぽくG3という名前にしてみました」(千里さん)
最初のうちは笑っていた勝さんだったが、今では周囲から褒めてもらう機会も増え、このチーム名が気に入っているそうだ。

洋裁との出会いについて
イキイキと話す斉藤勝さん。
勝さんの仕事を支える妻・陽子さん。

元気のない勝さんを救った
ミシンとの出会い

三重県四日市市にある平屋の一軒家。その一角で産声を上げたプロジェクトは、ひょんなことから始まった。

勝さんが裁縫を始めたのは2019年秋のこと。千里さんが壊れたミシンの修理をお願いしたのがきっかけだ。表向きは修理の依頼だったが、千里さんは「本当はミシンを修理することで、長年培ってきた職人としての魂が蘇り、元気を取り戻してくれるのではないか」と思っていたという。そんな千里さんの目論見は、意外な形で実を結ぶことになった。

当時、精神的に不安定だった勝さんは、寝たきりに近い状態だったが、ベッドから起き上がり、ミシンの修理に取り掛かった。長年、電化製品を修理してきた勝さんにとって、修理はお手のもの。あっという間に作業を終えると、動作確認のためにミシンを触り始めた。千里さんが上糸と下糸のかけ方を教え、実際に布を縫い始めた勝さん。ミシンを使うのは初めてだったが、徐々にのめり込んでいった。

朝5時からミシンを始め、
静かにしてほしいと
家族から注意されたことも。

聖書カバーをきっかけに
裁縫に没頭

「何か縫いたいなぁ」。勝さんからの相談を受けた千里さんは、聖書カバーの製作を依頼した。「これだったら簡単につくれるんとちゃう?」。すると勝さんは、聖書カバーを分解し、どのようにつくられているのかをチェックし始めた。そして、千里さんから受け取った切れ端を使い、独力で聖書カバーをつくり上げた。

「楽しいからもっとつくりたい」。そう言われた千里さんは、家族4人分の聖書カバーの製作を依頼した。すると5日後、なんと18枚もカバーが完成していた。「こんなに作ってどうするの!」。思わずそう口にした千里さんだったが、父親にこんな元気が残っていたことに驚き、嬉しくなった。
勝さんは「電化製品を修理していた時と同じで、とにかく完成させた時の達成感が楽しかった。生地が残っていたらやめられないですよね」と笑顔を見せる。

聖書カバーの次はコースター、そして、ポーチ、財布…と、徐々に難易度の高い裁縫に挑戦していった勝さん。作業が楽しくなり、起きたらすぐにミシンに向かう。そんな日々が続くようになった。こうしてG3sewingが少しずつ動き出していったのである。

夢中で作り始めた聖書カバー。
ここからすべてが始まった。

プロフィール

G3sewing 工場長
斉藤 勝(さいとう まさる)
1937年生まれ。三重県四日市市在住。これまでに、電気工事士、ラジオ・テレビの受信機修理技術者、詩吟講師、調理師を経験。2019年秋、娘の畑中千里さんがミシンの修理を依頼したのをきっかけに、82歳でミシン洋裁を開始。聖書カバーを皮切りに、コースター、ポーチ、財布などを次々と製作。2020年夏、千里さんの長男・元希さんがTwitter(現X)のアカウントを作成して発信すると瞬く間に反響を呼び、看板商品のがま口バッグは発売すると即完売するほどの人気商品となっている。
G3sewing
三重県四日市市の一軒家で、がま口バッグ、トートバッグなどを製造・販売するソーイングチーム。斉藤勝さんの活躍が注目を集め、世界中から注文が殺到。「人生で、今が一番幸せ」と語るその姿が、元気に自分のやりたいことを叶える高齢者のモデルケースとして多くの人の共感を呼んでいる。2022年には、老後に生きがいを見つけて元気に過ごすヒントが詰まったエッセイ『あちこちガタが来てるけど 心は元気! 80代で見つけた 生きる幸せ』(KADOKAWA)が発行され話題に。

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三重県四日市市
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