むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

家族がひとつになり
楽しみながら支え合う
G3sewing
工場長・斉藤勝さん
(3/4)

October 10. 2023(Tue.)

80代に突入してからミシンを始め、持ち前の職人魂を発揮して作り上げたがま口バッグが、大人気商品に――。そんな奇跡のストーリーが話題を集めている。物語の舞台は三重県四日市市の「G3sewing(じーさんソーイング)」。人気商品を手掛けるのは元電気工事士の斉藤勝さんだ。「新しいことを始めるのに遅すぎることはない」。自宅の一角で生み出される齋藤さんの作品が、全国のたくさんのファンを勇気づけている。
3回目となる今回は、商品が売れだした経緯について、そしてG3sewingを支えるお孫さんたちにもお話を伺った。

ー前回までの記事はこちら
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ミシンとの出会いで湧き出た生きる活力 G3sewing 工場長・斉藤勝さん(1/4)
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持ち前の職人魂で裁縫の腕がメキメキ上達 G3sewing 工場長・斉藤勝さん(2/4)

孫の元希さんによる
SNS発信で話題に

余った生地を見つけ、工夫をしながら作品づくりを続けていた勝さん。この頃には娘の畑中千里さんからの依頼を受けてがま口バッグに挑戦。失敗を繰り返しながらも次第にコツを掴み、大きなサイズのがま口バッグを作れるようになっていた。

「おじいちゃんがつくっていることを出したら話題になるよ」。息子の元希さんからそう言われたものの、千里さんは当初、「炎上するのが怖い」と消極的だった。それでも「おじいちゃんの頑張りはすごい、これは世に広めるべきだよ」と背中を押されて腹を決めた。そして2020年7月、G3sewingのアカウント名で初めての投稿をTwitter(現X)にアップした。

ちょうどその頃、のちの看板商品となる赤い椿柄のがま口バッグが仕上がった。そこで、勝さんとがま口バッグが写った写真を投稿した。ランニングを着て、がま口バッグを手に持つ勝さん。ありのままの姿を、正直な言葉とともに発信したところ、14万件の「いいね」が付いた。猛烈な勢いでリツイートされ、一気に800件もの注文が舞い込んだ。

SNSに投稿し反響を呼んだ写真。

勝さんが作業に専念できる
体制をつくる

千里さんが「800件の注文がある」と伝えると、勝さんは「待ってくれている人に申し訳ない」と、いきなり1日13個を仕上げ、翌日には体調を崩した。注文してくれた人に早く商品を届けたい。でも、急ぎすぎては体調を崩してしまう。大好きなものづくりを長く続けるにはどうすればいいのか。1年ほど話し合いながら決めたのが、それぞれの役割分担だ。

勝さんが製作担当の「工場長」、妻の陽子さんが検品・包装担当の「専務」、千里さんが進行管理や発送、事務、経理などを行う「社長」と決めた。現在は、千里さんの夫・祐二さんが社長の業務を担当している。
「父はあくまで作業に徹し、人との交渉など不得意な部分は一切やらなくていい体制を整えることにしたんです」(千里さん)
本当の会社ではないが、会社のようにすることで、やるべきことが明確になり、仕事が軌道に乗るようになった。

勝さんの自宅の一角にある工房にて
左から、娘の千里さん、妻の陽子さん、
勝さん、千里さんの夫・祐二さん。
効率よく作業ができるように整理整頓も行き
届いている。写真は千里さんお手製の道具箱。

海外で勉学に励んでいる
孫2人もサポート

家族が一致団結し、楽しみながら支え合うG3sewing。勝さんの活躍を応援する気持ちは、千里さんの長女・愛生さん、長男・元希さんも一緒だ。

SNSアカウントを作成・発信し脚光を浴びるきっかけを作った元希さんは、今も留学を続けているが、遠隔でSNSの管理をおこなうほか、ホームページの土台づくりも担当した。世の中の動きを見ながら、時にG3sewing の運営にアドバイスも。夏休み期間中には帰国し、がま口バッグの制作に使われる接着芯を貼る作業を手伝っている。接着芯貼りの腕前は今やプロ級だ。

愛生さんも留学中で、海外のロースクールに通い、米国弁護士を目指して奮闘中だ。G3sewingでは、主に新商品の企画などを担当。人気商品のひとつであるお茶碗型のポーチは、「化粧品がいっぱい入って取り出しやすいポーチが欲しい」という愛生さんのリクエストを形にしたものだ。週1回の愛生さんとの電話が、勝さん・陽子さんの元気の源にもなっているそう。

取材時に一時帰国していた、
千里さんの長女・愛生さん(右)と、
長男・元希さん(左)。

愛生さんの夢を後押しした
勝さんの言葉

G3sewingを支える愛生さんは、留学先の大学を卒業後、就職する予定だった。だが、どうしてもアメリカで弁護士になるという夢を諦めきれずにいた。ロースクールの受験に合格したものの、勉強の大変さや費用面から「本当にこのまま進学していいのか」と思い悩んでいた。

そんな時、自分の話をしてくれたのが勝さんだった。高校を卒業した時、親に反対されて家業を継いだこと。本当は鉄道会社で製図を描きたかったこと。「後悔しないように、やりたいことをやったらええと思う。もし大変だったら、その時帰ってくればええんや。若いうちはいっぱい失敗して、やり直せばいい。お金の失敗は取り戻せても、時間は取り戻せないから」。そんな勝さんの言葉に背中を押され、夢を追いかける決心がついた。

勝さんの生き様や言葉に支えられている。それは、全国にいるG3sewingのファンも同じだ。

プロフィール

G3sewing 工場長
斉藤 勝(さいとう まさる)
1937年生まれ。三重県四日市市在住。これまでに、電気工事士、ラジオ・テレビの受信機修理技術者、詩吟講師、調理師を経験。2019年秋、娘の畑中千里さんがミシンの修理を依頼したのをきっかけに、82歳でミシン洋裁を開始。聖書カバーを皮切りに、コースター、ポーチ、財布などを次々と製作。2020年夏、千里さんの長男・元希さんがTwitter(現X)のアカウントを作成して発信すると瞬く間に反響を呼び、看板商品のがま口バッグは発売すると即完売するほどの人気商品となっている。
G3sewing
三重県四日市市の一軒家で、がま口バッグ、トートバッグなどを製造・販売するソーイングチーム。斉藤勝さんの活躍が注目を集め、世界中から注文が殺到。「人生で、今が一番幸せ」と語るその姿が、元気に自分のやりたいことを叶える高齢者のモデルケースとして多くの人の共感を呼んでいる。2022年には、老後に生きがいを見つけて元気に過ごすヒントが詰まったエッセイ『あちこちガタが来てるけど 心は元気! 80代で見つけた 生きる幸せ』(KADOKAWA)が発行され話題に。

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三重県四日市市
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