おとなの相談室

知っているようで知らなかった悩みに、専門家がお答えします

質の悪い睡眠に潜む リスクとは?
睡眠マスターに聞く!
眠りの極意(1時間目)

January 25. 2023(Wed.)

「父母は仕事や家事、育児に追われ、子どもは塾や習い事で大忙し。家族そろって睡眠不足なんです」という悩みをよく耳にする。睡眠不足は心にも身体にも良くないとわかっていながらも、つい日常を変えられずにいる人も多いのでは? そこで、これまで20年以上睡眠について研究を重ねている、一般社団法人日本快眠協会 代表理事の今枝昌子さんにインタビュー。睡眠不足の原因や健康リスク、解消法などについて指南してもらう。

一般社団法人日本快眠協会 代表理事・スリープケアマスター
今枝 昌子
2004年からリフレクソロジストとして、2009年からリワークの講師として心療内科に勤務し、6,000人以上に及ぶ眠れない方の足裏を施術。「睡眠力を鍛えて、日本を元気に」を理念として、2012年に一般社団法人日本快眠協会を設立。企業研修や企業コンサルティング、CSAスリープケアマネージャーの養成を通して、睡眠の問題を発見し解決するための指導を行う。公益財団法人神経研究所 睡眠健康推進機構 推進員、睡眠学会学会員。
https://kaimin.or.jp/

1時間目

“バタンキュー”で眠れるのに、朝スッキリ起きられないのはなぜ?

夜から朝まで
ぐっすり眠れますか?

「自分はよく眠れていると思いますか?」と尋ねると「眠れている」とは言うものの「途中で起きてしまう」「入眠に時間がかかる」など睡眠の悩みを抱えている人も多く、本当に眠れている人はほんの1割程度…ということもあります。
睡眠には時間と質の両方が必要であり、睡眠の質が悪いと朝までぐっすり眠ることができなくなってしまうのです。
その睡眠の質を左右するのが、寝るときにリラックスしている状態かどうかということ。人間には副交感神経と交感神経があり、リラックスしていると副交感神経が優位になります。その状態で眠りにつくことで、ぐっすり眠ることができるのです。
しかし、バリバリ仕事をされている方の中には、常に気を張っていて、眠りにつくときまで心の中で“ファイティングポーズ”をしてしまっている方がたくさん見受けられます。交感神経が優位なままで入眠すると、睡眠の質が悪くなり上手に休息ができなくなります。

多くの人が抱える「睡眠負債」

このように、睡眠不足の蓄積により心身の不調を来してしまうことを「睡眠負債」と呼んでいます。「ぐっすり眠れなかった」「日中眠くなってしまう」という方は「睡眠負債」が溜まっているかもしれません。グラフを見てわかるように、多くの人が、睡眠に対する何らかの悩みを抱えているのです。
また、「自分はよく眠れている」という人の中に、「布団に入ってから5分以内に眠りにつく、いわゆる“バタンキュー”タイプの方もいらっしゃると思います。すぐ寝られることは良いことだと捉えられがちですが、実は「睡眠負債」が溜まっている可能性が高いので要注意。人間の体には「ホメオスタシス」という機構があり、「どうしても休ませないといけない」という状況になると即座に睡眠状態に入るといいます。しかし、交感神経が優位な状態ですのでぐっすり眠れているわけではなく、「バタンキューしたけれど夜中に目が覚めてしまった」ということもあるのではないでしょうか。

睡眠不足はアルツハイマー病や認知症を引き起こす!?

誰もが抱える可能性のある「睡眠負債」。その影響の中で最も恐ろしいのが、脳機能の劣化です。
睡眠には脳内の老廃物「アミロイドβタンパク質」を洗い流す役割があります。長期的な睡眠不足が続くと「アミロイドβタンパク質」が蓄積。結果的に脳が萎縮していってしまいます。こうした脳の萎縮がアルツハイマー病につながるのです。

さらに、6時間以下睡眠の方と7時間睡眠の方を比較し30年後に認知症になった人数を調査したところ、6時間以下睡眠の方のほうが3割多いということも判明しています。
(2021年4月20日『Nature Communications』掲載論文より https://www.nature.com/articles/s41467-021-22354-2 ※イギリスで約8,000人を対象に50歳から約25年間追跡調査)

生活習慣病や肥満の原因も
睡眠にあった!?

ほかにも、「睡眠負債」は生活習慣病や肥満の引き金となります。睡眠不足により常に交感神経が優位な状態が続くことで、インスリンの働きが悪くなり血糖値が上がりやすくなり糖尿病の一因となり得ます。
善玉コレステロールと呼ばれるHDLコレステロールが減り 脂質異常症につながることも。また、血管が細くなるため高血圧を引き起こしやすくもなるのです。
さらに、睡眠不足の状態では食欲抑制ホルモンが低下し、食欲増進ホルモンが増加する傾向に。睡眠不足には生活習慣病や肥満になる要因がたくさん隠れているのです。

「睡眠時無呼吸症候群」には
重病リスクが隠されている!?

睡眠障害の一つに、睡眠時無呼吸症候群があります。睡眠中に空気の通り道である上気道が狭くなることによって10秒以上呼吸が止まり、身体の酸素が少なくなってしまう病気です。主な症状としてはいびきや日中の強い眠気、倦怠感や頭の重さなどで、高血圧になるリスクが約3倍、脳卒中や脳梗塞になるリスクが約2倍もあるのです。
肥満気味の方や顎の発達していない小顔の女性まで、日本では約900万人が罹患しているといわれています。脳や血管の異常は突然死を引き起こしかねない恐ろしい病気にもかかわらず、治療を受けている方は10%以下。思い当たる方は病院で簡易検査から始めることをおすすめしています。

睡眠は大切な命を左右しかねない大切なこと。一度、ご自身の睡眠を見直してみましょう。

画像提供/PIXTA

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