知っているようで知らなかった悩みに、専門家がお答えします
お正月の定番「お雑煮」とは、
そもそもどんな料理?起源は?
(1時間目)
December 05. 2024(Thu.)
お正月に、ほとんどの家庭で食べられているお雑煮。日本全国を見回してみると、地域ごとに具材やベースの味が異なるところが面白い点です。そして家庭料理であるがゆえに、よその家庭でどんなお雑煮が食べられているかは、意外に知られていないのが実情です。1時間目は、お雑煮の基礎知識と中部地域で多く食べられているお雑煮について、食の専門家・山田実加さんに教えていただきました。
- 名古屋文化短期大学 副学長、フードビジネス専攻 教授
- 山田実加さん
- 大学卒業後に洋菓子店勤務を経て渡欧し、パリ「ホテルリッツ リッツ・エスコフィエ」をはじめ、パティスリーなどで修行。ベルギーではお菓子教室を開講するなど、さまざまな経験を積んで帰国。現在は大学で教鞭をとるかたわら、情報番組への出演や食の企業の商品開発プロジェクト、防災食の開発と周知に携わるなど、食をテーマに幅広く活動している。
お雑煮のルーツは?
お雑煮は、室町時代から作られていたと言われており、今のように一般家庭で食べられる献立ではなく、神様にお供えする物として格式の高い料理だったようです。やがて武家の饗応(きょうおう)料理で、もっとも儀礼的な宴の料理である式三献(しきさんこん)の中のひとつのメニューとなりました。アワビ、カツオ、いりこ、里芋、にんじん 、大根などとともに、餅が入った“ごった煮”のようなものでした。
一般家庭のお正月料理として食べられるようになったのは江戸時代に入ってからで、お正月に神様にお供えした餅を、家族でお雑煮にして食べるようになったのだそうです。
お雑煮の具材には
意味があるの?
全国各地のお雑煮には、いろいろな具材が使われていますが、縁起をかついでいると思われる言い伝えがたくさんあります。
例えば、中部地域で食べられており、愛知県の伝統野菜にも指定されている正月菜(餅菜)は、“菜(名)を持ち(餅)上げる“の語呂合わせ説があります。お餅は焼かずに出汁で煮ることが多いのですが、これもお餅の白い色を“城”に見立てて、城が焼けないように、との祈りが。
そして、関東地方のしょうゆベースのお雑煮は味噌を使わないことから“みそをつけない”と言われており、角餅を焼いて食べる地域では、角餅を焼くことで“角(かど)をとる”意味があるのだとか。長野県では、特産物のくるみをお雑煮にいれる地域があるそうです。こうした説のほかにも、新潟県や東北地方の具沢山のお雑煮は、客人へのおもてなし精神が表されています。具材にこめられた意味を知るだけでも、お雑煮の楽しみ方の幅が広がりそうです。
中部地域のお雑煮は、
なぜ質素なの?
中部地域のお雑煮は、一般的に、出汁・正月菜・お餅・かつお節の4種類で構成されることが基本です。正月菜は、ほうれん草と比べてアクがほとんどなく甘みがあるため、出汁の味を引き立てる野菜であることは確かです。ここに、かまぼこや他の野菜を入れる家庭もありますが、ほとんどがシンプルな、そして質素ともいえる正月菜のお雑煮ではないでしょうか。
結婚式などを例に派手好きと称されることが多い中部地域で、なぜお雑煮だけが質素なのでしょう。文献などの記録には残されておらず、その理由ははっきりとわかっていません。一方で倹約を美徳とする風習もあり、家庭の中で食べるものは質素にしたとも考えられます。お正月はおせち料理もありますから、お雑煮はシンプルな味わいを楽しんだのでしょう。
また、歴史的に振り返ると、中部地域だけでなく、江戸、京都では、昔から簡素なお雑煮となっているようで、いずれもお茶どころの街であることから、もしかすると侘び寂びを尊ぶ茶の湯の精神が生きているということも考えられます。