おとなの相談室

知っているようで知らなかった悩みに、専門家がお答えします

まちに出て妖怪を探そう
~暮らしに息づく妖怪たち~
(2時間目)

July 18. 2024(Thu.)

怪談話を聞いたり、妖怪が登場する映画やアニメを観たりする機会が多くなる夏。「子どもの頃に聞いた昔話に出てきたけど、詳しくは知らない」という人が多いのでは?
2時間目の今回は、具体的にどのような妖怪がいるのかを紹介していきます。日本に伝わる妖怪とは? そして、妖怪に会いに行くにはどうしたらいいのか?
まちの中に潜む妖怪について、妖怪文化研究家・島田尚幸さんに教えていただきます。

ー1時間目の記事はこちら
妖怪ってどんな存在?~暮らしに息づく妖怪たち~(1時間目)

妖怪文化研究家
島田尚幸
東海学園東海中学校・高等学校教諭(生物)。あいち妖怪保存会共同代表。防災士(日本防災士機構)。 カルチャースクール・企業・地域団体・公的機関などでの妖怪講座、妖怪をテーマにしたまち歩きを年間40回ほど実施するなど、妖怪・防災をキーワードに、地域文化や文芸を知る・学ぶ・楽しむための活動をしている。名古屋市港防災センターの特別展『妖(あやかし)と自然災害』(2023年5月〜8月開催)の監修も務めた。 著書『やりなおし高校の生物』(ナツメ社)、編著書に『愛知妖怪事典』(あいち妖怪保存会編著 一柳書店)など多数。
https://twitter.com/aichiyoukwai?lang=ja

2時間目

どこに行けば
妖怪に会えるの?

日本三大妖怪
鬼・河童・天狗

日本三大妖怪は、鬼・河童・天狗だと言われています。
「鬼って妖怪だったの?」と思う人も多いでしょう。
鬼は、もともと中国から日本にやってきた言葉で、「亡くなった人の魂」を指すものでした。
死者をはじめ、「見えない存在」を指す言葉であったのが、時代を経て、人知を超えた力をもち、人が到底することのできないようなことをする存在へと役割が広がっていきました。
例えば、「春の到来を告げる鬼」というのがいます。かつて、新年を迎える宮中行事に「方相氏(ほうそうし)」と呼ばれる存在が登場しました。鬼のような姿で、四方を祓い鎮める役割だったのですが、いつしか祓われる側になりました。これが節分の始まりと言われています。愛知県豊橋市の「鬼祭」や奥三河の「花祭」の時に現れる鬼も、まさにこの末裔と言えますし、私たちが暮らす町で見ることのできる鬼としても捉えることができます。
ちなみに、俗に言う“鬼門”は丑寅の方角を示します。鬼に牛のような角があったり、黄色と黒の虎模様のパンツを履いていたりするのは、これに由来するとされています。

河童が祀られた
鹽竈(しおがま)神社へ

河童といえば、1時間目でも紹介したように、水の中にいて人間の足を引っ張ったり、尻子玉(しりこだま)を抜いたりするなど、いたずらっ子な妖怪として知られています。そんな河童は、水辺の町にさまざまな伝説があり、場所によっては祀られているところもあります。もし町で河童の像などを見つけたら、近隣の河童伝説をぜひ聞いてみてください。

河童が祀られている鹽竈(しおがま)神社(名古屋市中川区)を紹介しましょう。すぐ近くを流れる笈瀬川(おいせがわ)に霊鼈(れいびつ、河童の異称)が住んでいたと言われていました。また、この地域にある橋から川に向かってお尻を映すと痔が治るという話もありました。それらの話が結びつき、河童に「無三殿(むさんど)」と名前が付けられて、信仰の対象へとなっていったようです。
「尻子玉を抜く」ことにちなみ、痔の病根を取って治すと解釈をされたのでしょう。また、河童は泳ぎが得意なことにあやかり、水泳の選手がお参りされることもあるようです。

天狗の郷土玩具や
おみくじがある
秋葉山圓通寺
(あきばさんえんつうじ)

日本三大妖怪について、最後は天狗の紹介をしましょう。
天狗の字は、空(天)の犬(狗)と書きますね。流星が爆音を響かせて地に落下する天体現象の様子を、天を駆ける獣の姿に見立て、「天狗」と表現するようになったと考えられています。やがてそれは、仏教において修行を阻む「魔」、それも仏道から外れた修行者が堕ちた姿であると考えられるようになりました。しかし、一言で「道から外れる」といっても様々です。本来の仏教では、煩悩となる「現生利益」を求めることはありません。でも現実社会を生きている以上、様々な願いや想いは生じます。こうした、庶民の切なる願いを救済する人知を超えた力の持ち主として「天狗」や天狗の姿を模した存在は信仰の対象になっていったと考えられています。

山岳信仰の中で天狗を旗印としており、秋葉神社の系列である秋葉山圓通寺(名古屋市熱田区)には、こんな伝説が残されています。当時、既に信仰を集めていた秋葉三尺坊(あきばさんじゃくぼう)は、住職・誓海義本(せいかいぎほん)のもとで学ぶべく、人間の姿に化けて修行を重ねていたといいます。仏教において、修行に終わりはないからです。そして辛い修行の末、師に認められたのが嬉しく、つい本来の天狗の姿に戻ってしまった、というエピソードが伝わっています。このことから、圓通寺は日本最古の「出現道場」と呼ばれるようになりました。

中部5県の
よく知られた妖怪とは?

日本三大妖怪以外にも、たくさんの妖怪がいます。ここで、中部5県に言い伝えられている妖怪を紹介していきましょう。
もちろんほかにも、それぞれの土地にゆかりある妖怪がたくさんいます。ぜひ調べたり、聞いたりして、「妖怪を探求する」きっかけにしてください。

・愛知県
のた坊主/白黒模様の羽織りを着たたぬきの妖怪で、半田の造り酒屋に現れてお酒を飲んでしまう
・三重県
ともかづき/海女が、海の中で出会う、自分とまったく同じ姿した妖怪。出会うと亡くなってしまう
・岐阜県
口裂け女/耳まで口が裂けている女性で、昭和50年代に都市伝説として大流行した。岐阜発祥とされる。
・静岡県
だいだらぼっち/大男。地面から火が噴き出しているのを見、滋賀から掘ってきた土を盛って鎮火させた話が伝わる。掘った穴は琵琶湖になり、土を盛った所は富士山になった
・長野県
大蛇(写真)/土の中に住み、やがて天にのぼり(もしくは海に出て)龍になるとも言われる。抜け出る際に土石流を引き起こす
(出典:国際日本文化研究センター)

上部へ戻る