おとなの相談室

知っているようで知らなかった悩みに、専門家がお答えします

妖怪ってどんな存在?
~暮らしに息づく妖怪たち~
(1時間目)

July 11. 2024(Thu.)

怪談話を聞いたり、妖怪が登場する映画やアニメを観たりする機会が多くなる夏。
「子どもの頃に聞いた昔話に出てきたけど、詳しくは知らない」という人が多いのでは?
今回は、妖怪文化研究家・島田尚幸さんに、素朴な疑問から妖怪を楽しむ術まで、妖怪にまつわるさまざまなことを教えてもらいました。

妖怪文化研究家
島田尚幸
東海学園東海中学校・高等学校教諭(生物)。あいち妖怪保存会共同代表。防災士(日本防災士機構)。 カルチャースクール・企業・地域団体・公的機関などでの妖怪講座、妖怪をテーマにしたまち歩きを年間40回ほど実施するなど、妖怪・防災をキーワードに、地域文化や文芸を知る・学ぶ・楽しむための活動をしている。名古屋市港防災センターの特別展『妖(あやかし)と自然災害』(2023年5月〜8月開催)の監修も務めた。 著書『やりなおし高校の生物』(ナツメ社)、編著書に『愛知妖怪事典』(あいち妖怪保存会編著 一柳書店)など多数。
https://twitter.com/aichiyoukwai?lang=ja

1時間目

妖怪は、人間の友達?

妖怪って何?
いつからいるの?

妖怪は、「妖しい」と「怪しい」の2つの漢字から成っています。どちらも「あやしい」と読み、“よくわからないもの”“得体が知れないもの”の意味があります。つまり妖怪は、わからないものを総称した言葉で、定義ができないのです。なので、私は「妖怪って何なのですか?」と質問されると、「よくわからない、得体が知れない、時・こと・もの・人・場所」と答えています。
日本の文献にはじめて“妖怪”が登場するのは、平安時代初期に編纂された書物「続日本紀(しょくにほんぎ)」です。“大祓(をおこなった)。宮中にたびたび妖怪あるためなり”と書かれています。今の我々の感覚から想像すると、「妖怪がいた」と読めてしまいますが、実際は「天皇が生活する場所で普段とは異なる出来事・現象があった」ことのようです。
そして、このような出来事を統計学の要素をを含んだ占いにより判別し、どのように対処すべきか判断していたのが、神祇官(じんぎかん)や陰陽師(おんみょうじ)です。
(出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」)

妖怪はどのようにして
キャラクター化された?

室町時代以降、「怪異」や「妖怪」という言葉が民間でも少しずつ用いられ、定着していきました。この過程の中で“よくわからない現象”だけでなく、その“現象を引き起こす存在”にも目を向けられるようになります。
 例えば、夜道を歩いていると、誰もいないはずなのに後ろから足音が聞こえてきたとします。その時点では“よくわからない音が聞こえる”という現象ですよね。そこに、音を立てている「何か」がいると考えると、“存在”として認識されます。さらに、「べとべとさん」と名前が付けられることで、その現象は「キャラクター化」されていきました。
現在、多くの人が「妖怪」というと「キャラクター」を想像すると思います。この「妖怪=キャラクター」という図式をより明瞭にしたのが、水木しげる先生です。「遠野物語」で知られる民俗学者の柳田國男や、彼の周りの研究者たちが集め、まとめた「伝承の中の妖怪たち」に、形を与え、作品に登場させたのです。「鬼太郎ファミリー」と呼ばれる妖怪たちがいます。このうち、鬼太郎・目玉おやじ・ねずみ男などは水木の(ほぼ)オリジナルキャラクターなのに対し、塗り壁・一反木綿・砂かけ婆・子泣き爺などは、水木が伝承に形を与え、生まれたものです。

幽霊とは、亡くなった人の魂がこの世に残ったもので、それは妖怪の一種として扱っています。それが生きているうちに出てきてしまうと生き霊ですし、恨みの感情が強いものは怨霊と言われます。
もともと怨霊は、個人レベルに祟る存在ではなく、深い恨みを抱いて亡くなり、国家に対して祟りを成すような人たちを表していました。ちなみに日本三大怨霊は、菅原道真・崇徳天皇・平将門と言われています。昔は、一般人は怨霊にはならなかったのですね。
ところが怨霊という言葉が一般化して使われるようになっていき、今では個人的な恨みについてもそのような表現が使われるようになっているようです。
(出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」)

妖怪は怖いもの?

妖怪は怖いもの、と思っている人は多いでしょう。その理由のひとつとして、語られる妖怪譚の一部は、教訓譚としての役割を果たしてきたことが挙げられます。
たとえば「お盆を過ぎたら、河童が出てきて足を引っ張られるから川で遊ぶな」という言い伝えが全国各地にあります。これは、お盆を過ぎる頃になると、台風などで水かさが増したり、気温が下がり川の水も冷たくなるなど様々な理由から、水難事故に遭うリスクが高まります。そうした事故を防ぐべく、「河童」の名前を借りて、人間が痛い目に遭わないようにしてきた、と解釈することができます。
確かに妖怪は得体が知れず、怖いものと思われる方もいるかも知れません。しかし、多くは、袖を引っ張ったり、後ろからついてきたりするなど、大したことはしないのです。「豆腐小僧」のように夜道に豆腐を持って立っているだけ、となると、もはや意味すらわかりません(笑)。妖怪はかまってほしいから、人間にちょっかいを出す、そんなかわいい一面があると思うと、見え方が変わるかも知れないですね。
(出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」)

上部へ戻る