甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

生まれ育ったまちを
守っていきたい
岐⾩町(ぎふまち)エリア
(岐⾩県岐⾩市)

January 22. 2024(Mon.)

「岐阜町」は、岐阜城の旧城下町。歴史と文化と自然に恵まれ、古い寺社や町家が多く残る趣ある一帯ですが、近年は店舗の閉店や空き家が増えていました。
そんな状況に危機感を感じて立ち上がったのが、地元の有志によって設立されたまちづくり会社「岐阜まち家守(やもり)」。代表の山本慎一郎さんに岐阜町を案内いただき、生まれ育った町に抱く思いを伺いました。

500年の歴史や文化を
今につなげるまちづくり

岐阜城がそびえる金華山の麓の岐阜町と呼ばれるエリアは、斎藤道三公・織田信長公の時代から500年近く、商業の中心地として栄えてきました。しかしながら平成の時代になると、バブルの崩壊や少子高齢化により店舗の閉店や空き家が目立つように。そんな中、岐阜駅から2キロメートルほど北に位置する岐阜大学医学部附属病院跡地に、2015年には岐阜市立中央図書館を中心とする複合施設「みんなの森ぎふメディアコスモス」が、2021年にはそのすぐ南側に「岐阜市役所」新庁舎が完成。再び人の流れが戻ってきました。

一時期活気を失っていた一帯が再び賑わいを取り戻すきっかけに大きく関わっているのが、岐阜市で4代続く油問屋「山本佐太郎商店」を営む山本慎一郎さんの存在。老舗油問屋の経営とともに、岐阜町の商店や寺院の後継ぎ世代が集い設立した「岐阜町若旦那会」の会長や、岐阜町の風情ある景観や歴史を守るために設立したまちづくり会社「岐阜まち家守」の代表も務めています。

「このまちには当店のみならず、老舗と呼ばれる何百年続いているお店が何軒もあります。僕と同世代で、地元のことを考えて、よくしていきたいという思いを持つ仲間と活動をともにしています。もともとは、岐阜町若旦那会による地歌舞伎の公演を毎年観に行っていて、その姿がカッコよくて楽しそうで、ゲスト出演させてもらうことになって。それから僕も若旦那会に入り、地域をどうしていくか、みんなで考えるようになりました」と山本さん。

※地歌舞伎:江戸時代から地元の素人役者たちによって神社の祭礼や芝居小屋などで演じられてきた地域に根付いた歌舞伎。

リニューアルした山本佐太郎商店2階のスペース
にて、4代目店主・山本慎一郎さんにお話を伺う。

岐阜町には、1955年以前に建てられた建物が340軒近くある中、この5年で2割ほどが壊されているのが現実。住民の3割が65歳以上で高齢化も進んでいます。小さな頃から馴染みのあった食堂や喫茶店、個人商店が次々となくなり、今なにかここで手を打たないと、先人たちが築いてきた岐阜町の歴史や文化までもが失われかねないと危機感を感じた山本さんは、数名の仲間とともに2021年にまちづくり会社を立ち上げます。それが、岐阜町の生活文化と歴史を今につなげ、風情ある景観と建造物を守ることを目的とした「岐阜まち家守」。エリアマネジメントという考え方を学んだ上で、空き家や古民家のリノベーションをおこない、利活用したい移住・出店希望者とを繋いでいます。その活動が実を結び、岐阜市から都市再生推進法人として認定されました。

今後、山本さんは、今まで以上に観光の視点を取り入れたまちづくりを考えているそうです。「みんなの森ぎふメディアコスモス」を訪れる人たちに、岐阜町エリアの周遊を楽しんでほしいと、現在は地図を作るプログラムを進行中。「暮らすように旅をする」というテーマを掲げて、地元の人が普段愛してやまない喫茶店やソウルフードも紹介予定とのこと。完成したらその地図を手に岐阜町を散策する自分の姿が思い浮かび、今からもう待ち遠しくて仕方がありません。

視野を広げてくれた
新たなおやつブランド

山本さんが4代目として舵を取る「山本佐太郎商店」の創業は1876年。問屋業や油の卸をメインにしつつ、2012年からは「おやつ部」と銘打ち、和菓子職人“まっちん”こと町野仁英(きみひで)(以下、まっちん)さんとともに、「大地のおやつ」というブランドを立ち上げて、商品を開発しています。2023年6月には、一部を倉庫として使用していた2階建ての建物を全面的にリニューアルし、「おみせ部」という形式で小売りにも注力。1階の売り場には、まっちんさんがライブのような感覚で和菓子作りをおこなう「あんたきば(餡炊き場)」を新たに設けて、週1回ほど、つくりたての和菓子の販売も始めました。

店内は1階から2階まで吹き抜けに。
リノベーションを手がけたのは、
YY architectsの庵原義隆さんと吉川真理子さん。

山本佐太郎商店3代目の父親が急逝し、大学卒業後すぐに家業を継ぐことになった山本さん。最初の10年はとにかく一生懸命走り続けたそうですが、同世代で志を同じくするまっちんさんに出会い、世界が広がっていきました。
「家業を守りながらも、新しい価値を作りたいと考えていたとき、まっちんから、かりんとうはどうだろうとアイデアをもらって『大地のおやつ』シリーズを始動しました。それまでは地域密着型の油問屋だったのが、まっちんと出会って発想や顧客が広がり、全国各地のいろいろな人と繋がるようになったのが、大きなターニングポイントです。視点が外に向いたからこそ、今まで感じていなかった岐阜のよさに気がつき、こんなことをやったら面白いのではと考えて、行動に移すようになりました」。

現在、おみせ部2階のミニキッチンを備えたスペースでは、ワークショップやイベントが催されています。山本さん自身はもちろんのこと、山本佐太郎商店のおみせ部そのものも、岐阜町の文化を発信し、内と外を繋ぐ場として、かけがえのない役割を果たしていくでしょう。


山本佐太郎商店 Instagram
https://www.instagram.com/yamamotosataroshoten/

大地のおやつ オンラインショップ
https://m-karintou.com/

まっちん×山本佐太郎商店のコラボレーション
により誕生した「大地のおやつ」シリーズ。
かりんとうにはじまり、今ではサブレやおかきと、
多彩なラインアップに。
取材時は、“まっちん”こと町野仁英さん(写真右)も
加わって、同世代3人でさまざまな話を。
2階の階段前には、小さなギャラリーコーナーが。
山本佐太郎商店を創業した初代から、歴代店主の
写真が飾られている。

MAP

岐阜町エリア
岐阜県岐阜市 金華・京町地区
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