甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

思いは⻑良川にのせて
岐⾩町(ぎふまち)エリア
(岐⾩県岐⾩市)

February 12. 2024(Mon.)

ー前回の記事はこちら
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生まれ育ったまちを守っていきたい 岐⾩町(ぎふまち)エリア(岐⾩県岐⾩市)
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岐⾩町の新しい⾵「裏参道モール」へ 岐⾩町(ぎふまち)エリア(岐⾩県岐⾩市)
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マルシェをきっかけにかつての賑わいを 岐⾩町(ぎふまち)エリア(岐⾩県岐⾩市)

岐阜町エリアの北に位置するのが、鵜飼で有名な長良川沿いにある川原町です。ここは以前より観光開発が進んでおり、一定数の観光客が足を運ぶエリア。表参道エリアが賑わうことで、両エリアが一体となり、長良川で育まれた文化が岐阜町エリア全体に花開くことでしょう。
地元の有志によって設立されたまちづくり会社「岐阜まち家守(やもり)」代表の山本慎一郎さんに、この界隈でキーとなるスポットを案内していただきました。

まろやかなコーヒーと
気品あるケーキでひとやすみ

山本さんに案内していただいたのが、岐阜公園の近くのコーヒー店「YAJIMA COFFEE」。店主の矢島明さんは、山本さんも所属する「岐阜町若旦那会」のメンバーのひとり。もともとは名古屋でグラフィックデザイナーをされていた方。地元の岐阜に戻ってコーヒー店で修行をし、2014年に独立して自らの店を持ちました。
毎朝3時頃から、豆の特徴ごとの個性を引き出す自家焙煎の作業をスタート。苦味・酸味・甘味をバランスよく保ちながら、角が取れたまろやかな風味のコーヒーは、妻・奈津美さんが作る品よく優しい味わいのケーキとよく合います。
深い苦味の中にほんのり酸味が漂うオリジナルブレンドを口に運びながら、カウンター席で山本さんに、「岐阜町若旦那会」の話を聞かせていただきました。

「若旦那会には、現在18人ほど所属しています。未来のビジョンを共有し、それを達成するためには、どんな方策をとればいいかアイデアを出し合います。僕がいつも幸いだなと思うのが、困ったことがあったり、新しいことをやりたいとき、相談できる仲間の顔が浮かぶんです。それが地域の身近なところにいるのが心強いですよね」

岐阜町若旦那会では毎年4月に伊奈波神社の奉賛として地歌舞伎の公演をおこなっています。
「歌舞伎やお囃子にも子どもたちが積極的に参加してくれるようになって、僕らより全然覚えが早い。次世代の子ども達が憧れるような舞台を作っていきたいというのは、若旦那会の理念としてあります」と山本さん。

地域の仲間と手をとって、熱く舞台をつくり上げる大人たちの姿を見て育った子どもたちもまた、周囲の人たちと手を取りながら、さまざまな課題に立ち向かっていくのでしょう。


YAJIMA COFFEE
https://yajimacoffee.jp/

カウンターで、店主の矢島さん(写真右)と、
山本さんとともに。
人気のケーキは、ウィーンの伝統菓子
「カーディナルシュニッテン」。
店を構えるのは、金華山の麓。

和傘の美しさに魅せられて
広島から岐阜の伝統の世界へ

金華山の麓・長良川のほとりにある岐阜町は、古くから多くの賑わいがあったそう。そこには伝統の技術も根付き、和傘・提灯・団扇などが現代に引き継がれています。しかしながら、つくり手や買い手の減少で、業界は縮小を余儀なくされています。そんな中、長崎県出身の前田健吾さんは長年勤めていた広島の企業を辞めて、岐阜和傘という伝統の世界に飛び込んできました。そうして、岐阜和傘協会の後継者育成事業の研修と3年間に及ぶ修行を経て、骨師(ほねし)と呼ばれる和傘の傘骨職人として一人だちしました。現在は築100年の町家に手仕事職人が同居する「長良川てしごと町家CASA」に工房を構え、骨師として活動しながら研鑽を積んでいます。そんな姿が、地域の歴史・文化・景観を守るため奮闘する「岐阜まち家守」や「岐阜町若旦那会」のメンバーの思いと重なるといい、山本さんは前田さんの工房まで案内してくださいました。

「私は以前は、車のエンジンを開発していました。しかし自分の手で、かたちある美しいものをつくりたいと思うようになり、あるときテレビで見た岐阜和傘に感動してこの世界に飛び込みました。3年間修行をし、2023年の2月に独立しました」

修行期間がコロナ禍と重なったこともあり、3年間は一日中和傘のことだけを考える濃密な時間を過ごしてきました。「やりがいを感じて楽しくて。一日中作っていても全然苦じゃなくて」と、前田さんは微笑みます。

「岐阜町界隈には、古き良き時代の伝統やまち並みがたくさん残っています。それに、ポジティブな熱があるというか、情熱的な人がたくさんいて、僕も掻き立てられています。これからもみなさんと一緒に歩めるのは幸せなことです」


長良川てしごと町家CASA
https://www.teshigoto.casa/

前田健吾さん Facebook
https://www.facebook.com/kengo.maeda.3367/?paipv=0&eav=AfZ3Ydddo4AKcodXhGnUWPjomKnWvJN21sCTKGPjWuvyqa-YILSxvtqjX7vIx6-RiaQ&_rdr

前田さん(写真左)の工房があるのは、
「長良川てしごと町家CASA」内。
工房内には、傘の骨となる竹材が。
前田さんの骨組みをを使った
和傘を見せていただいた。

長良川で生まれ育った良品を
岐阜みやげに選ぶ楽しみ

最後に訪れたのは、長良川で生まれ育った選りすぐりの品々が取り揃う「長良川デパート」。長良川流域に根付く、伝統工芸や食品、文具や服飾品、セレクト品からオリジナル商品まで、さまざまなものが並んでいます。中には、長良川デパートが昔ながらの地元のお菓子のリブランディングをし、より魅力的に見えるように工夫して販売しているものもあります。

「長良川デパートによるリブランディングによって、このまちに昔からあるものの価値を再度見出し、販売までしていただけることがありがたい。実は岐阜町若旦那会のメンバーの『亀甲屋本舗』の商品である「ちょうちんもなか」もパッケージのリデザインをおこない、おみやげとして大人気です。地域のつながりの中で、このまちにあるものを大事に育ててくれてるので、まちづくりという考えの中でも、この場所は大きな役割を果たしてくれています」と山本さん。

店長の河口郁美さんにも「商品を通して、長良川流域の豊かな文化が伝わる、魅力的な商品を集めているのですが、ここに並べきれないくらい、まだまだたくさんのいいものがあります。また、商品の販売だけでなく、観光案内の役割も担っていると思っています」と、店内を案内していただきました。

衣食住に関わるさまざまなものが取り揃い、岐阜はもちろん、長良川流域がいかに豊かな地域であるか、手にとって分かります。
「岐阜町の数々の個人商店や、『長良川デパート』のような魅力的なお店を知っていただくことで、歩いて巡る人がもっと増えたら嬉しいです。また、ここは長良川流域の文化を紹介し、岐阜のいいものを取り揃えてくれているので、岐阜のお土産だったらあそこへ行くといいよと、一言でおすすめしやすいです」と山本さんも頼りにしているのが伝わってきました。


長良川デパート
https://nagaragawa.thebase.in/

案内してくださった店長の河口郁美さん。
鵜飼の鵜をデザインしたオリジナルのTシャツや、
老舗菓子店の名物のパッケージを
リデザインした商品が人気。
壁には長良川流域の名物を紹介する
イラストが描かれ、旅情がくすぐられる。

人と人とのつながりが
岐阜町の未来を明るく照らす

「岐阜まち家守」の代表を務める山本さんも、「pho gnu」の浦瀬明香さんも、外の世界に触れることで、地元・岐阜の、歴史や文化が豊かにあること、人の情熱や温かさを知ることができたとおっしゃっていたことが心に残っています。
旅に出たり、まちを歩いたり、他を知って、世界を広げて行くことが、自分を見つめ直すことにもつながるのだと、シンプルながらも大切なことにあらためて気が付きました。

山本さんと1日岐阜町を巡る中、訪れる先々の店主やスタッフは当然ながら、道ですれ違う人、たまたま店で会ったお客さま、あらゆる人が山本さんと「こんにちは!」と挨拶を交わす姿も心地よい景色でした。地域の人たちとの繋がりが薄くなりつつあるこの時代、まちづくりに力を注ぐ「岐阜まち家守」や「岐阜町若旦那会」のメンバーが、人と人とをどんどん繋げ、コミュニティーが広がっていく。マルシェ、地歌舞伎、まちあるき……。生き生き暮らす大人たちの姿を見て、子どもたちも外に飛び出して、あらゆる人と言葉を交わし、多様な価値観を学ぶ。気持ちを外に向けることで、内なるものの魅力に気がつく。人にとってもまちにとっても、岐阜町には、こんなふうにいい気が流れていると感じました。

MAP

岐阜町エリア
岐阜県岐阜市 金華・京町地区
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