甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

やりたいことを叶え
充実した毎日を送る場所
天竜区二俣町(静岡県浜松市)
(3/4)

July 03. 2023(Mon.)

ー前回までの記事はこちら
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地元のおもしろさに気づき一歩を踏み出したから今がある 天竜区二俣町(静岡県浜松市)(1/4)
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人々が訪れ、交流する拠点となるスポット 天竜区二俣町(静岡県浜松市)(2/4)

今回もまちのキーマン・中谷明史さんにご案内いただき、二俣に移住して店舗を持ち、理想を叶えている方々のお話を伺いました。仕事、暮らし、地域の人とのつながりが密接で、毎日が充実している様子が伝わってきました。

お気に入りの地で、
好きなものに囲まれて

二俣町の目抜き通りであるクローバー通り沿いの「包(パオ)商店」の左隣には、もともと電気屋だったというビルが。そこで約1年前に、スポーツバイクの修理販売店「HAPPY&SLAPPY(ハッピースラッピー)」を始めたのが、浜松市出身の伊藤幸祐さん。店舗は現在、通りからさらに奥に入った元倉庫だった場所に移動して営業しています。

祖父も父も自転車屋を営んでいた伊藤さん。ご自身が自転車に魅了されたのは大学時代。一度は就職したものの、やはり自分が好きな自転車の世界へ。名古屋の自転車専門店「Circle」で働いたのち、地元に戻り「HAPPY&SLAPPY」を始めました。
「自転車って全部で200パーツくらいあるんですよ。うちは製品化された自転車をぱっと見て買うのではなくて、お客さんと会話しながらオーダーメイドで作っていきます。車輪一本一本長さをカットしたり。乗る人の体重や身長に合わせてカスタマイズしていくんです」

伊藤さんにとって二俣地区は、子どもの頃から家族でキャンプに通っていて馴染みの場所だったそう。自転車に乗り始めてからも中山間地域で自然豊かなこの一帯を自転車で走りに来ていたといいます。そんな中、交流のあった包商店の西村さんから「うちの隣の物件が空いている」と教えてもらい、浜松の中心部から移転を決めました。
二俣に場所を移してからも、昔からのお客さまがサイクリングがてら通ってくれたり、新規客も増えています。サイクリングと二俣という地域は相性がいいようです。
中谷さんも「二俣に『HAPPY&SLAPPY』ができたおかげで、楽しみの範囲がより広がりました。今までは車か徒歩と行動範囲が限定されていた中、そこに自転車が加わったことで、よりこの地域の自然を満喫してもらえるようになりました」と喜びます。

「HAPPY&SLAPPY」店主の伊藤幸祐さん。
もともとは電気屋の倉庫だったスペースを
友人とともにセルフリノベーションした。
店頭には自転車のパーツだけでなく、オリジナルの
Tシャツや、靴やサンダル、アウトドア製品も揃う。

伊藤さんは自転車屋のほかに、餃子屋という一面も持っています。
クローバー通り沿いにあるもともと自転車屋があったビルと、そこから奥まった場所にある現・自転車屋の間に挟まれるようにしてあるのが、「餃子スラッピー」。父方の祖父が自転車屋を営んでいたのに対して、母方の祖母は餃子とお好み焼き店を開いていたのです。伊藤さん自身も料理好きだったことから、名古屋の「Circle」で働いていた頃、餃子を作ってイベントに出店したところ大好評。現在は、お昼の時間帯に餃子店をオープン。冷凍餃子のテイクアウト販売もおこなっています。

伊藤さんには、その場に明るい光を差し込むような魅力があります。好きなことに囲まれて生きているのが伝わってきて、こちらもすくっと、元気な気持ちが沸き起こります。


「HAPPY&SLAPPY」

「餃子スラッピー」

昼の時間のみ営業しており、持ち帰りは17時まで対応。
手描きでつくられたという店内にある大きなパネル。

暮らしも仕事ものびのびと

HAPPY&SLAPPYで伊藤さんにお話を伺ったあと、もともと自転車屋があったビルの2階にある、店主の美意識がぎゅっと凝縮されたカフェ「プラーキュ」へと案内していただきました。
名古屋出身のオーナー・花山弥沙さんは、伊藤さんのパートナー。2人で二俣に移住し、互いに協力しながら異なる自らの店を作り上げました。

花山さんは以前名古屋で、現在のカフェと同じ店名で、主にアンティークの食器を扱う店を営んでいたそう。瀬戸の陶器会社で働いていたこともあるほど器が好きで、器を生かすために料理の勉強も始めたそうです。

「ここは以前、電気屋の倉庫でした。この物件に一目惚れして、1年かけてパートナーとリノベーションをしました。カウンターは京都の友人に作りに来てもらったのですが、銅版の模様は私が自分で打ちました。天板は友人が白いベースまで仕上げてくれ、彩色は私自身で。もともとは無機質な空間なので、カウンターには色や柄を入れたくて」と花山さん。
使っている食器や家具のほとんどは、長年、花山さん自身が集めてきたもの。静謐な空間に存在するひとつひとつに、花山さんが見つけて紡いだ物語が宿っています。

プラーキュオーナーの花山さん。
身につけているコーデュロイのエプロンはオリジナル。
期間を設けて販売もしているそう。
存在感のあるカウンター。銅版に打ち込まれた
模様は、花山さんの手仕事によるもの。

人気のメニューは、花山さんが独学で研究を重ねた、台湾のデザート「豆花(トウファ)」。甘さを控えた華やかな香りのジャスミンのシロップに、豆乳で作る豆花を合わせて。トッピングは、ピーナツ、緑豆、もちむぎ、タロ芋団子、レモンで味付けしたオーギョーチーと、体に優しい素材をたっぷり。朝8時からオープンしているので、朝食として遠方からやってくる人もいるほどです。

「こんなに山が近いところに住むのは始めてですが、意外なほど便利で暮らしやすいです。なんでも揃うし、実家がある名古屋にも近いし。自宅は商店街の方に紹介してもらった古い一軒家。映画館や娯楽施設はないけれど、その分、川に遊びにいったり、近所の方とお花見をしたり。暮らしも仕事ものびやかにできて快適です」

プラーキュ2階の窓際の席からは、クローバー通りを見下ろすことができます。「店内撮影はご遠慮ください」とお願いがある分、食や空間そのものへよりいっそう気持ちが傾き、心地よい時間を過ごすことができます。

こうして二俣の店や人を知るたびに、二俣に通いたい理由が、積み重なっていきました。

「プラーキュ」

「豆花」は、独自に研究を重ねた花山さんによる
手作り。体に優しい素材を使用。
1周年を記念につくったオリジナルクッキー缶。
レモン、ジャスミン、チーズ、レモン×メレンゲと
4種類のフレーバーが楽しめる。ふたの点描細工は
なんと、花山さん自身が仕上げたもの。

MAP

二俣町
静岡県浜松市天竜区
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