田畑と地域を学び舎に、
自分らしく生きる人を増やす!
グローカルデザインスクール株式会社
(静岡県菊川市/牧之原市)
April 01. 2025(Tue.)
未来へ繋がる新しい取り組みをおこなっている企業や団体を訪ねるこのコーナー。
今回は、全国で農業ビジネスを通した人材育成「アグリアーツ®」を行っている「グローカルデザインスクール株式会社」をご紹介します。
代表の大竹千広さんにお話を伺うため、同社の拠点の一つである静岡県菊川市を訪ねました。


農業をベースに
子どもたちに様々な体験を
グローカルデザインスクール株式会社は、静岡県牧之原市で2018年7月に設立された創業間もない若い企業です。「農業」は多面的な体験ができる人材育成の舞台になると注目し、地域の子どもたちが参加する学びの場「ジュニアビレッジ」を運営。またその「ジュニアビレッジ」を軸として、企業・自治体との協業事業や地域事業者によるスタートアップ支援を全国で行なっています。
代表の大竹さんは、大手旅行会社勤務を経て2021年1月に同社の代表取締役に就任しました。旅行会社では、子どもたちが豊かな経験・体験をできる旅行商品を数々生み出していたそうです。
しかし一方で、旅行は一過性のもの。「自分の子育てを通じて、いろいろな体験が子どもたちの感性を磨き、成長の助けになると感じていました。子どもたちが興味を持ったことを継続して伸ばしていける環境作りが必要だと考えました」と大竹さん。それが、「ジュニアビレッジ」誕生の原点となりました。


農業は、多くの分野を
横断的に学べる教材
「ジュニアビレッジ」は、小学4年生から中学2年生までを対象に、「農業」をテーマとして、子どもたちの自信と自立心を育む地域の学び舎です。グローカルデザインスクールのスタッフや地元企業の方々がサポートしますが、主役はあくまで子どもたち。農業経営を通じて、地域の活性化に役立つ商品を自分たちで作り上げ、販売します。1年を通じて、土作りから始まり、最後は決算報告まで行います。その過程で、子どもたちは大きな成長を遂げ、地域も豊かになるのです。
「“農業はリベラルアーツである”の思いから始まり、会社経営を体験することが成長への近道になると考えました。地産地消という言葉がありますが、ジュニアビレッジはまさに学びの地産地消。地域にお住まいの農業経営の専門家や商品パッケージのデザイナーといった方々が、知識や経験を子どもたちに伝え育てていくという仕組みです」(大竹)
グローカルデザインスクールでは、農業を軸とした人材育成の理念を「アグリアーツ®」と呼び、この考えを基に地域に根ざすための活動を行っています。


菊川市では
ハーブティーで地域おこし
静岡県菊川市。菊川駅から車で15分ほど走ると、田畑や民家に囲まれた1軒の平屋が。ここが「菊川ジュニアビレッジ」の“部室”です。
菊川市のほかに、静岡県浜松市、神奈川県横浜市・横須賀市、東京都三鷹市、大阪府和泉市に拠点があり、それぞれの地域課題の解決のため、地域の特産物に合った取り組みを行っています。
その中で、「菊川ジュニアビレッジ」が行っているのは、ハーブの栽培とハーブティーの商品化および販売です。発端は、静岡の名産であるお茶が、新茶は価格がついて売れるが、二番茶以降はなかなか売れないという課題からでした。そこで新しいお茶の楽しみ方を提案してみようと考え、和紅茶とハーブをブレンドしたオリジナルのハーブティーを作ろうという流れになったそうです。
商品名は「本気のハーブティー」。「子どもたちが『本気で菊川のためにやっているから』ということをストレートに伝えようと考えたネーミングです。すごいですよね」と大竹さん。




ハーブの栽培・商品開発
さらに営業や販売会も実施
菊川ジュニアビレッジでは、子どもたちはどのような1年を過ごすのでしょうか。
カリキュラムは、学校と同じ4月始まり3月終わりで組まれています。4月にメンバーが集まり、5月にかけてチーム作りを行います。菊川では、週に1回、土曜または日曜に集まり、プロジェクトを進めていきます。
社長、デザイン、アグリテック、セールスという4つの役割があり、それぞれ子どもたちが立候補をして決めていきます。
5月にはハーブの苗を植える作業が始まり、5月下旬から6月上旬にはもう、1回目の収穫があります。収穫は、9月末くらいまで随時行われ、その間に組織の理念構築、商品コンセプトの作成といった話し合いや、土の勉強などの学習に取り組みます。組織の決定や事業プランの作成。定めたプランに基づいた事業計画を立て、何を売るか、どのようにして販路を作るかなどを進めていきます。
一方で、9月頃から、どのような商品にするのか、その年のコンセプトや昨年までのパッケージを見ながらデザインを考えたり、何個入りにするのか、価格をどうするのかなどが話し合われます。
11月までにはパッケージなどの注文を済ませて、12月にはティーバッグに詰める作業を行います。商品が完成すると販売会が始まり、1月から3月はお店まわりやイベントなどの営業・販促を行います。売上目標を決めるので、子どもたちは皆真剣です。ここ数年は、コロナ禍でなかなかイベントができなかったそうですが、その分、洋菓子店に出向いて置いてもらうよう商談するなど工夫をこらしてきました。
「やはりビジネスなので、いかに付加価値を付けて、みんなが喜ぶような商品にできるか、しっかり売るところまでやりきれるか、そこまで考えて子どもたちは取り組んでいます」(大竹さん)




栽培に課題がないかを話し合う。


本物の会社さながらの取り組み
大人のスタッフのサポートのもと、組織の理念や商品のコンセプト決め、売上目標の設定など、本物の会社が行うような取り組みを子どもたちだけで行っていきます。
取材当日、“部室”の壁には、模造紙に書かれた売り上げ目標や商品の強み・特長・コンセプトなどを抽出した際の付箋が貼られていました。子どもたちがいかに本気で取り組んでいるのかが伝わってきます。
そして3月末には、事業報告会があります。年間の売り上げ、経費、利益を公開するとともに、子どもたちはそれぞれ自身にどのような成長があったのかを全国の仲間とオンラインで繋いで発表します。この発表の準備のために1ヶ月半費やすという、一番のイベントです。
「お父さんやお母さんが一番驚かれます。自分の子どもがこんなに大きな声で自信を持って発表できるんだと(笑)。学校でも積極的になったなどの声も聞かれますよ」(大竹さん)


1年で大きく成長する
子どもたち
1年の活動を通して、子どもたちは目を見張る成長を遂げるそう。
「組織の役割を担うことで責任感が芽生え、出会う大人たちに活動内容を褒められることで自信がつきます。また、自分たちの商品を売らなければならない中で、なぜこのような活動をしているのか、この商品はどんな特長があり、ほかとどう違うのかといったことを必ず相手に説明しなければならないので、プレゼン力やコミュニケーション力がつきます」(大竹さん)
そこでまた、「すごい」「えらい」と褒められるので、子どもたちはさらに自信がつくという好循環がおこるのです。
いわゆる“農業体験”ではなく、作物をどんな商品に加工するか、どうビジネスとして成功させるかまで、子どもたちが組織としてひとつの目標に向かってそれぞれの役割を果たしていきます。その中で、自分の興味や強みを知り、成長していくのです。
「日本の子どもたちは自己肯定感が低い。“自分のことが好き”という十代は50%未満です。それはやはり、自信と自立心が育つ経験が少ないからだと思います」(大竹さん)
自分で物事を考えてトライアンドエラーをやり始める時期である小学4・5年生からを対象としているのもそのため。この時期から、社会との接点を持ち、実学を通して社会人経験を行うのです。
また自分たちが行っている事業活動以外に、地域の農業体験に参加することもあります。ちょうど今回の取材の時期に、ジュニアビレッジのハーブ畑がある「せんがまちの棚田」で稲刈りが行われており、子どもたちが手伝う様子を見ることができました。こうして、農業についての学びはもちろん、地域とのコミュニケーションを深めることができます。


このプログラムの醍醐味。




日本中に子どもたちプロデュースの特産品を!
「ジュニアビレッジ」をスタートしたのが6年前。当時中学1年生で入部した生徒は、現在大学生になっています。彼らの中には、高校生の時にアシスタントとして「ジュニアビレッジ」に関わるメンバーもいたそうです。
「地域のため人のために働くことが楽しいことに気づいて、地域振興やまちづくりといった分野を勉強している子もいます。ここで学んだことを生かして夢を追いかけている様子を見ると、こちらも元気が出ます」(大竹さん)
一方で、農業自体への伸びしろについても大竹さんは期待を寄せます。
「やはり、農業はなくてはならないすごく大事な職業。そして、食料自給率が低い日本はこれから先、農業が見直されていくと思います。DXの導入や異業種の方の就農など、関わる人が増えればこれまでにない広がりができるのでは」(大竹さん)
課題がたくさんあるからこそ、解決のためのアイデアやビジネスチャンスも生まれる余地があるのでしょう。
最後に、大竹さんに夢を聞いてみました。
「私たちが行っている農業をベースにしたリベラルアーツのカリキュラムが全国の小中学校に取り入れられることですね。現在、「ジュニアビレッジ」は全国でまだ6拠点しかありません。これが、例えば全国47都道府県にあれば、日本中で子どもたちがプロデュースした特産品が生まれることになる。それって素晴らしいでしょう? 農家さんも地域もハッピーになりますよ」(大竹さん)


将来地域の未来を担う活躍をしてくれるはず。




- グローカルデザインスクール株式会社
- 2018年設立。農業を軸とした人材育成の哲学「アグリアーツ®」を理念とし、田畑と地域を学び舎に社会の役に立つ経験をつくる「ジュニアビレッジ」、自治体・企業との協業事業、また地域でのスタートアップ支援を行っている。
- 静岡県牧之原市布引原1076-2(本社)
- 0548-25-5150