中部地域の注目パーソンにインタビュー!
型屋だからできること
アウトプットの挑戦
株式会社エム・エム・ヨシハシ
代表取締役 吉橋賢一
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August 13. 2024(Tue.)
日本六古窯のひとつに数えられる愛知県瀬戸市。陶磁器産業が盛んな地には、大量生産になくてはならない“型屋”や“原型士”と呼ばれる職種が存在する。株式会社エム・エム・ヨシハシもそのひとつ。現在は型づくりにとどまらず、オリジナルブランドの展開や陶磁器の総合的なプロデュースをおこない注目されているのが代表の吉橋賢一さんだ。
第3回目は、吉橋さんがつくり上げてきたプロダクトの数々を紹介してもらいながら、その発想力や創造性についてお話を伺った。
ー前回までの記事はこちら
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型屋に生まれて、型から飛び出す 株式会社エム・エム・ヨシハシ 代表取締役 吉橋賢一(1/4)
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型屋が持つディレクション力が大きな武器になる 株式会社エム・エム・ヨシハシ 代表取締役 吉橋賢一(2/4)
瀬戸の“馬の目皿”を
型でおこす
江戸時代後期から瀬戸で生産されるようになった“馬の目皿”は、皿の内側に馬の目のようにも見える楕円の渦巻模様が描かれており、独特の意匠が現代まで引き継がれている。瀬戸のやきものといえば馬の目皿と言われるほど有名な意匠なので、目にしたことがあるという人も多いだろう。
吉橋さんは、この伝統柄を型でおこすことを考えた。
「瀬戸らしい意匠性の高いもので、新しいプロダクトをつくりたいと思ったことがきっかけでした。デザイン自体はとてもダイナミックで面白いものなので、見方が変われば若い世代にも受け入れられるのではないか、と考えました」
確かに、型でつくられた馬の目皿は、和の文様なのにどこか北欧風の趣がある。和洋中のジャンルに関係なく、あらゆる家庭料理と相性が良い。これこそ、既成概念を打ち破って生まれた、型屋ならではの商品だ。
実際にリリースしてみると、日本国内よりも海外からの注目度が高かったのだそう。
視覚ではなく、触覚に訴えるプロダクト
「Trace Face」の登場
はじめてのオリジナル商品「小鳥のマグカップ」のデザイナーと取り組んだプロダクトはほかにもある。それが「Trace Face(トレースフェイス)」シリーズだ。
型職人が手彫りで型をつくる技術を生かして、陶磁器では表現することはできないと思われてきた素材感と触感を実現させた商品である。
たとえば、毛糸で編んだセーターの網目やラタンバスケットの織り目がマグカップや丼などの表面に施されている。視覚だけではなく触覚にも訴える立体感が、それまでにない食器として話題となっている。
手で触れて陶磁器の肌質を感じることは、器を愛でる基本だ。そう考えると、「Trace Face」は、使い手にとっては陶磁器の正しい扱い方を教えてくれるアイテムであると言ってもいいだろう。
このほか、「彫付(HORITSUKE)」と名付けられたシリーズは、陶磁器に描かれてきた模様を原型に掘り込むことで、立体的な陰影ができ、伝統的なデザインなのにモダンな佇まいをも創り出している。こちらも外部のデザイナーとの協業で生まれた人気のブランドラインだ。
また、毎日の生活の中で特別に意識することなく普段使いできるカラフルな食器のシリーズ「AND C(アンドシー)」といったブランドも展開している。
小さなアイディアも
時間をかけてかたちにする
次から次へと新しいプロダクトを生み出す吉橋さん。一体どのように商品開発をしているのだろう。
「実はネタ帳のようなメモは持っています。こんなことができたらいいなぁ。こんな商品があったら面白いかも! という小さなアイデアを書き留めています。でも思いついた時はまだ考えも未熟で実践には至りません。2〜3年寝かせて、時々取り出してきて考えながら、熟成させています。いろいろな人の意見がそこに合致すると、いきなりうまく事が運ぶ時がありますし、ある日突然、これとこれを結びつけたら面白くなりそう!と思いつくことがあるのです。中にはずっと寝たままのものもありますけどね(笑)。やはり時間をかけるということは大切だなと思っています」
工房で手を動かすのも楽しいが、スケッチブックにラフを描いたり、考えたり、出歩いていろいろなものを見て思いをめぐらすことが好きだという吉橋さん。その“好き”の追求が、吉橋さんならではの発想を生み出している。
プロフィール
- 株式会社エム・エム・ヨシハシ 代表取締役/陶磁器プロデユーサー
- 吉橋賢一(よしはしけんいち)
- 愛知県瀬戸市生まれの瀬戸市育ち。陶磁器生産のための型屋の息子に生まれ、後継ぎとなる。立体のものをクリエイトするという意味で、デザインと陶磁器をつなぐアイデアに目覚めてからは、家業としていた型屋の枠を大きく超えて、陶磁器をプロデュースする事業展開に挑戦。やきもののまち・瀬戸の新たな魅力づくりを含めた、陶磁器構想を抱いている。
- 株式会社エム・エム・ヨシハシ
- 戦後の復興期に陶磁器の製型に携わっていた吉橋喜呂久氏が、1959年に合資会社吉橋製型所として独立。ノベルティを中心にした型製作事業を確立させる。1965年には喜呂久氏の息子である宏一氏が代表に就任。1986年に株式会社エム・エム・ヨシハシと改め、工業用石膏型の製造を開始する。
3代目となる吉橋賢一氏が後継となってからは、自社ブランドの開発・販売を成功させ、オンラインショップ「Yummy Life Design Store」を開設するなど活動を広げている。
MAP
電話番号:0561-41-0471
※商品をご覧になりたい場合は、事前にご連絡いただくか、オンラインショップ(https://store-andc.com/)をご利用ください。