デザインアワードへの挑戦
メガバス株式会社
代表取締役社長・伊東由樹
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伊東さんのものづくりに対するこだわり。その真骨頂ともいえるのが、世界初の多目的重心移動式ルアー「DEEP-X」の誕生をめぐる物語である。

「遠州のからっ風」といわれるように浜松は遠州灘から吹き込む暴風で知られ、向かい風ではルアーが飛ばずに失速し、釣りにならない。そこで、向い風に負けないルアーをつくろうと決めた伊東さんは、工場とフィールドを往復する日々を続けた。
ただ、工場に泊まり込んで開発を続けても、なかなか理想のルアーが完成しない。気づけば貯蓄も底を尽き、仲間も離れていった。

そんなある日、転機が訪れる。珍しく雪が降るなか、小さなダムの堰堤（えんてい）に立ち、試作のルアーをテストしていた時に、足を滑らせて7mほどの高さから落下。けがをした伊東さんは、コンクリートの上でバラバラになった試作品のルアーを見つめた。すると偶然、砕けた試作品のパーツが今まで見たことがない新しい重心移動のレイアウト像を描いていたのだ。まさに伊東さんの執念が実った瞬間だった。

すぐさま即席のレイアウト図を描き、そのまま工房へ。こうして「DEEP-X」が完成したのである。「DEEP-X」の多目的重心移動システムは海外でも特許を取得し、のちに公益財団法人日本デザイン振興会のグッドデザイン賞を受賞。中小企業庁長官特別賞にも輝いた。

メガバスでは近年、国内外のデザインアワードに出品し、数多くの栄誉ある賞に輝いている。なぜ伊東さんは、このようなチャレンジを続けるのか。その根底には「釣り具の評価基準は、どうしても曖昧になりがち」というジレンマがあるという。

当たり前だが、釣り具は、魚の釣果が「善し」「悪し」を決める。そのため、釣りが上手な有名な人がおすすめすれば、途端に「いい製品だ」と評価が一変する。
「何を根拠に良い製品だと評価すればいいのか。釣り具には明確な判断基準がないことへの葛藤をずっと抱えてきたのです」
そこで伊東さんは、国内外の著名なデザインアワードに挑戦し始めたのである。

一般の産業界と同じ土俵に立ち、デザインの専門家が審査した時、メガバスの釣り具はどれほどの評価を受けるのか。それが知りたくて、伊東さんは日本デザイン振興会のグッドデザイン賞にチャレンジした。

実際に応募してみると、釣り業界とは評価基準が大きく異なっていて、単に魚が釣れればいいわけではないことに気付かされたそう。
デザインアワードに参加することで、メガバスのものづくりは鍛えられ、釣り具を超えた特別なものへと昇華されていった。さらなる高みを目指すための新たな出発点となったのである。

日本国内にも、疑似餌を用いた伝統漁法はあるものの、本格的なルアーフィッシングといえば、やはり欧米が発祥である。
だからこそ、伊東さんが欧米に進出した時、現地の人たちから「本場の製品ではない」という色眼鏡で見られ続けた。

「欧米とのギャップを埋めるために、製品を鍛え上げていくしかない。意匠設計、技術革新などを突き詰め、欧米のルアーとはまた違ったステージで戦いたい。」
そんな想いから世界で最も長い歴史を持つデザインアワードの「iFデザイン賞」にチャレンジした伊東さんは、2018年から2021年まで4年連続の受賞を達成。
そして2022年には、「DESTROYER」シリーズと「空海」シリーズが、フィッシングロッドとしては世界初となる「レッドドット・デザイン賞」に輝いた。
世界三大デザインアワードと称されるうち、これら２つの受賞を通じてメガバスは、日本独自の感覚を持って作られた釣り具として、欧米の人たちからより高く評価されるようになったのである。