むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

築100年の建物との
運命的な出会い
株式会社 KURABITO STAY
代表取締役 田澤麻里香さん
(2/4)

April 07. 2023(Fri.)

最近、旅人の好奇心をかき立てるユニークな宿泊体験が全国各地で人気を博している。こうした中、全国から熱い視線を集めているのが、長野県佐久市の株式会社KURABITO STAYが提供する“蔵人体験”プログラム。この宿泊体験の仕掛け人で、観光の新たな可能性を切り拓いているのが同社の代表取締役・田澤麻里香さんだ。
第二回目の今回は、幼少時代の話から、上京しUターンを決断するまでの経緯を伺った。

ー前回の記事はこちら
「蔵人体験」で新しいツーリズムを 株式会社 KURABITO STAY 代表取締役 田澤麻里香さん(1/4)

バックパッカーとして
世界各地を巡る

田澤さんは、長野県佐久市の隣の小諸市(こもろし)で生まれた。両親はともに教員で末っ子として大切に育てられた。年の離れた兄と姉がおり、小さな頃から負けず嫌い。
「好奇心旺盛で何でも挑戦したいタイプでした」と田澤さん。
コンビニや自販機もない山間の集落で高校まで暮らした彼女が、「早く東京に出たい」「もっと広い世界を見たい」と考えるようになるのは自然の流れだった。

高校2年生の春休みには、母と一緒に南イタリアを旅行した。これを機に「世界を見てみたい」という思いがさらに膨らみ、進学した青山学院大学では、フランス語を専攻した。
「言語を通して異国の空気に触れてみたいと思い、まとまった休みにはバックパッカーとして世界を旅しました。そこで、今まで知らなかった文化に出会い、多くの日本人に普段触れることのない文化を紹介したいと思うようになりました」
大学卒業後は迷わず大手旅行会社への就職を決めた。

旅行会社勤務の頃の田澤さん(左)。

転職から妊娠を経て、
強まる思い

大手旅行会社で経験を積んだ後、ワインインポーターに営業として転職した際、大きな壁にぶつかった。転職の喜びから一転、働き始めた矢先、子どもを授かり退社することに。「産休を経て復帰したい」と希望を伝えるも叶わなかったのだ。これまで一度も経験したことがない“無職”。「男性は仕事ができるのに、なぜ女性は仕事を続けられないのか」。社会へのわだかまりが、田澤さんの中に積もっていった。
子どもが1歳を迎え、再就職を目指すも、希望する働き口が見つからない。保育園に空きがなく、子どもを預けることすら難しい。待機児童問題が世間を賑わせている時期だった。
「子育てを通じて得られるものはたくさんあるはず。なぜ子育てをするママは生産性が低いというレッテルを貼られなければいけないのか疑問に思いました」

悶々とした気持ちを抱えたまま、専業主婦として1年半が過ぎたある時、ふと目に留まったのが、小諸市での「DMO(観光地域づくり法人)」の立ち上げプロジェクトの案内だった。参画メンバーとして旅行会社経験者を募集しているのを見つけ、「挑戦したい」とすぐさま応募。そして田澤さんは、地域おこし協力隊として、当時住んでいた埼玉県との二拠点生活をスタートさせたのである。

息子さんと。

誰も知らない
地域の価値を発信したい

フランスの田舎町を巡るのが大好きだった田澤さんは、地域の暮らしや文化を大切にするフランス人の姿勢に感銘を受けた。なかでも、フランス人から言われたある言葉が、今でも忘れられないという。
「『日本人は“サケ”という素晴らしい飲み物があるのに、どうしてワインばかり追いかけるのか』そう言われたとき、衝撃を受けました。」

長野で暮らした高校時代には、「この地域で育って良かった」とは思えなかった。このフランス人の言葉をきっかけに、自身のアイデンティティを失っていたことに気付かされた。「海外のいいものを日本人に紹介するんだ」と意気込んでいた田澤さんにとって、地元に目を向ける大きな転機になった。

「海外を紹介するのは、別に私でなくてもできる。じゃあ、私がやらなければいけないものは何だろうと。誰も価値に気付いていないものを掘り起こし、世界に発信していきたいと思い始めたのがDMOのプロジェクトに参加した頃でした」

DMOのプロジェクトで地元を駆け回っていた頃。
(右から3人目が田澤さん)

築100年の古い宿舎との
運命的な出会い

DMOのプロジェクトでは、まだ世に出ていないサービスを作り上げる作業を担った。その仕事に手ごたえを感じ始めてはいたが、一方で、公的な色彩が強い事業なだけに公平性が強く求められる点に限界も感じていた。それなら自身で活動し、もっと尖った事業を作り上げたい。そう考えた田澤さんは、地域おこし協力隊を離れる決断をした。

その後、旅行会社への営業活動、東京方面での日本酒の販売の手伝いなどを続け、地域とのつながりを深めていった田澤さん。DMOの立ち上げを手伝うコンサルティング活動などを続けていた2018年5月、「KURABITO STAY」に繋がる“運命の出会い”が訪れたのである。

DMOの活動を通じて知り合った地元の老舗酒蔵「橘倉(きつくら)酒造」。ある時、専務を務める井出 平さん(現社長)を訪ねた際、古い建物にふと目が留まった。「これは何ですか?」。そう尋ねると「越後杜氏の皆さんが泊まっていたんですよ」と返ってきた。「ここで泊まりながら酒造りを体験できたら面白そう」。そんな田澤さんの一言からすべてが動き始めた。

「井出社長との出会いが大きな転機でした」と田澤さん。

プロフィール

株式会社 KURABITO STAY 代表取締役
田澤 麻里香(たざわ まりか)
長野県小諸市出身。大手旅行会社で勤務した後、ワイン輸入業者に転職。その後、専業主婦を経て、長野県小諸市の「地域おこし協力隊」に参加。旅行会社での経験を活かし、観光地域づくりに力を注ぐ。2019年にビジネスコンテストで優勝したことをきっかけに起業し、翌2020年には世界初の蔵人体験ができる施設「KURABITO STAY」をオープンした。
KURABITO STAY
長野県佐久市の老舗酒蔵「橘倉酒造」とパートナーシップを結び、越後杜氏が利用した築100年の宿舎を宿泊施設としてリニューアル。本格的な酒造りの工程に参加できる点が注目され、コロナ禍の逆風下にもかかわらず、国内・海外から300名以上の宿泊者が訪れている。

MAP

〒384-0301長野県佐久市臼田623-2
電話番号:0267-74-0588
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