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中部地域の注目パーソンにインタビュー!

アメリカでの奮闘と出会い
メガバス株式会社
代表取締役社長 伊東由樹
(2/4)

June 17. 2024(Mon.)

静岡県浜松市に本社を置く「メガバス」は、ルアーフィッシングの本場アメリカでも一目置かれる世界的な釣具ブランドだ。日本のルアー生産の礎を築いた同社の創業者であり、カリスマアングラーとして世界のファンを魅了する伊東由樹(いとうゆき)さん。世界三大デザインアワードでの受賞歴を持つプロダクトデザイナーとしての顔も持ち、「メイド・イン・浜松」にこだわった商品を世界に発信し続けている。

2回目の今回は、本場アメリカへの進出について聞いた。

ー前回の記事はこちら
世界を魅了する「メガバス」創始者 その原点とは メガバス株式会社 代表取締役社長 伊東由樹(1/4)

事業が軌道に乗るなかで
膨らんでいった葛藤

東京のアパートを工房にして、昼夜を問わず、釣り具の製作を続けた伊東さん。
鉛に色を付けてルアーをつくったり、竿のグリップを削ったり。そのうち、夜間の製作音が近隣で問題になってしまった。

「どこかに移転し、音楽のチャンスも含めて心機一転を図ろう」。伊東さんは、久しぶりに母親に連絡を入れた。「一度顔を見せたら?」。そう促されて帰郷すると、浜松駅の改札口の横にある、小さな不動産屋が目に入った。
そこには、東京のアパートとほぼ同じ家賃で、美容室の空き店舗の案内が掲示されていた。1階が店舗で、2階が住居。「これなら上を工房にして、下で商品を販売できる」と考えた伊東さんは、母が到着すると、すぐさま現地を案内してもらい、その日のうちに契約した。こうして浜松での再出発が決まった。

釣り道具屋の経営は順調だった。手伝ってくれる仲間も増え、事業は軌道に乗った。その一方で、伊東さんのなかでは葛藤が膨らんでいった。
「何となく釣り道具屋に収まったが、本当にこれがやりたかったのか、と。ただ増えていく仕事をこなすだけの現状をなんとか打破したいと思っていました」
そんな伊東さんが選んだのは、アメリカ行きだった。

「なにか変えるきっかけがほしいと思っていた」と伊東さん。

アメリカでの二足のわらじ

きっかけは「せっかくだからアメリカの大学で学び直してみてはどうか」という先輩や恩師の提案だった。
ただ、渡米を決め切れずにいた伊東さんの背中を最終的に押したのは、父の言葉だった。
「俺だったら迷わず行く。いいじゃないか、行ってみろよ」

そして、さらなる偶然が重なった。
伊東さんのもとに「あなたのルアーの絵をアメリカの著名な版画家が作品にしたので、それを渡しに来た」という人物が現れたのである。
話を聞いてみると、その版画家は生粋のフライフィッシャーマンだという。全くジャンルが異なるバスフィッシングのルアーをリスペクトしてくれたことに感動した。
「ぜひその版画家に会ってみたい」と告げた伊東さん。
「とりあえずアメリカに来てください」。そう言った訪問者とは、のちのメガバスUSAを立ち上げる同志となった。

こうして伊東さんは、アメリカで学費を稼ぎながら勉強し直す決断をした。学業とビジネスの二足のわらじを履くことになったのである。

現状を変えるべく渡米を決断した伊東さん。

起死回生の奇策
マッチプレーを企画

当時アメリカでビジネスをするなら、日本製品を「クール・ジャパン」と高く評価してくれる人が多いアメリカ西海岸が圧倒的に敷居が低い。それでも伊東さんは、あえて中西部や東部に進出した。バスフィッシング発祥の地だからである。

「アメリカにおけるルアーフィッシングの道具は、日本の茶道具のようなもの」と伊東さん。
「アメリカ人がつくった茶道具を日本人が絶対にありがたがらないのと同じ。やはりバスフィッシングの本場で勝負しないとダメだと考えました」

メガバスUSAを立ち上げ、釣り具の販売を始めたものの、当初は全く売れなかった。そもそも、どの店に足を運んでも門前払いである。アメリカには伝統的な釣り具メーカーがたくさんあり、「日本人はコピーをする人たち」と思われていたからだ。
「異国の人が乗り込んできて『メガバス』なんて語っている。何を言っているんだという反応でしたね。学生の立場だったこともあり、ものすごくいい加減な人間だと見られていました」

そこで伊東さんは奇策に打って出る。アメリカや日本のメディアを巻き込み、ルアーフィッシングのマッチプレーを企画したのである。

初代「デストロイヤー」を携え、
強敵たちに戦いを挑んだ。

12戦で11勝1引き分け
本場のプロたちを圧倒

各州の主要な湖で、プロアングラーを相手に1dayでマッチプレーを行う。12回の対戦の結果、伊東さんが勝てば、メガバスの釣り具を有力店で3ダース取り扱ってもらう。負ければ、現地のルアーを3ダース買い取らないといけないという企画。各地での対戦の模様をさまざまなメディアで発信してもらった。

当時は、日本車が台頭してアメリカの自動車産業が打撃を受けていた時期である。デトロイトでは、日本車を燃やす過激なデモが繰り広げられており、現地のガイドたちもこの企画に燃えていた。

こうして12の州で開催されたマッチプレーは、伊東さんの11勝1引き分け。同じ船上で正々堂々と戦い、圧倒的な実力を見せつけるうちに、日本から来た伊東さんは徐々に受け入れられていった。

「相手はプロですから『試合で勝てるのであればそのルアーを使いたい』と言ってくれるようになりました。互いに新しい発見や学びがあり、次第に勝ち負けを超え、交流の機会へと変わっていきましたね」と対戦を振り返る伊東さん。

なかでも10戦目に対戦したアーロン・マーティンス氏との出会いは、伊東さんにとって特に印象深いものとなった。伊東さんが勝利を収めた後、アメリカの拠点として間借りしていた店舗に、アーロン氏がやって来た。そして「ユキが使っていたロッドとジグヘッドを売ってくれ。メガバスと一緒に仕事がしたい」と申し出たのである。
その後、伊東さんは全米ツアーに参戦するアーロン氏をサポートし、アングラー・オブ・ザ・イヤーを2度獲得することになった。

アーロン氏(左)と伊東さん。
かつてのライバルが仲間に。

プロフィール

メガバス株式会社 代表取締役社長
伊東由樹(いとうゆき)
1966年、静岡県浜松市生まれ。世界屈指のルアーフィッシング&アウトドアブランド「メガバス」グループ創業者。カリスマアングラーとして国内で活躍する傍ら、プロダクトデザイナーとして公益財団法人日本デザイン振興会の「グッドデザイン賞」や、世界三大デザインアワードとして知られる「iFデザイン賞」「レッドドット・デザイン賞」などを受賞。2013年からは「浜松市やらまいか大使」としても活躍している。
メガバス株式会社
静岡県浜松市に本社を構える釣り具のトップブランド。1990年の創業以来、革新的なデザインと高品質な製品で世界中のアングラーから高い評価を獲得。ルアー、ロッド、リール、ウェア、アウトドア用品など、幅広い釣り具を製造・販売し、特にそのルアーはデザイン性と機能性を兼ね備え、多くの釣り愛好家に愛用されている。また、環境保護にも力を入れており、豊かな自然と共存するための活動などにも積極的に取り組んでいる。

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〒431-3115静岡県浜松市中央区西ケ崎町1590-1
電話番号:053-431-0777
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