むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

“鬼手仏心(きしゅぶっしん)”を
胸に刻んで
メガバス株式会社
代表取締役社長・伊東由樹
(4/4)

June 24. 2024(Mon.)

静岡県浜松市に本社を置く「メガバス」は、ルアーフィッシングの本場アメリカでも一目置かれる世界的な釣具ブランドだ。日本のルアー生産の礎を築いた同社の創業者であり、カリスマアングラーとして世界のファンを魅了する伊東由樹(いとうゆき)さん。世界三大デザインアワードでの受賞歴を持つプロダクトデザイナーとしての顔も持ち、「メイド・イン・浜松」にこだわった商品を世界に発信し続けている。

最終回となる今回は、これからの目標やビジョンについて聞いた。

ー前回までの記事はこちら
1/4
世界を魅了する「メガバス」創始者 その原点とは メガバス株式会社 代表取締役社長 伊東由樹(1/4)
2/4
アメリカでの奮闘と出会い メガバス株式会社 代表取締役社長 伊東由樹(2/4)
3/4
デザインアワードへの挑戦 メガバス株式会社 代表取締役社長・伊東由樹(3/4)

目指すのは、使う人の
感性を揺さぶるデザイン

海外の若い世代には、メガバスが生み出すプロダクトを、単に魚を釣る道具として見るのではなく、コレクターズアイテムとして高く評価する人が多い。美しいルアーで釣りをすることが、豊かな休日を過ごすためのツールだという考え方も浸透してきているという。

工業製品を生み出すデザイン哲学には、機能を追求した形こそが優れたデザインだとする「フォルム・フォローズ・ファンクション(形態は機能に従う)」という考え方がある。伊東さんはこれに加えて、独自のデザイン哲学である「フォルム・フォローズ・エモーション(形態は感動に従う)」を追求する。
使う人の感性を揺さぶる形を目指す。この姿勢が根底にあるからこそ、メガバスは世界の釣り人を虜にするのである。

「私たちが手掛けるルアーフィッシングが、お客さまの人生においてより重要なウエイトを占める存在になること。これが目指すべき理想の姿です。単なる釣りではなく、それ以上の価値を提供していければと考えています」

自然に寄り添いながら楽しむ釣りは、環境問題を考えるきっかけになるかもしれない。
また、魚と対峙する時間は、常にクリエイティビティが要求され、「その人が持つ能力を覚醒させる力を持っている」と伊東さんは話す。

「音楽の道は断念しましたが、音楽を通じて表現したかったクリエイティビティや人を感動させるということが、釣りの世界で実現できたかもしれない。今ではそう思っています」

エモーショナルな釣り道具を追求し、
開発に没頭する伊東さん。
こだわりのものづくりが、
世界のアングラーたちを魅了する。

機能を追い求めながら
環境にも優しい製品を

2024年には、自然由来のオーガニック繊維を主軸素材にした世界初のバスロッド「OROCHI X10」シリーズが、「iFデザイン賞」「グッドデザイン賞」「レッドドット・デザイン賞」の3冠を達成した。

環境に配慮したものづくりを目指しても、本来の機能が低下すれば本末転倒であり、折り合いをつけるのは難しい。ただ、ロッド「OROCHI」は違う。自然由来の素材でありながら、化学繊維よりも結束力が強く、その強度はカーボン繊維をしのぐ。また、カーボンの従来品よりも軽量化し、製造時のCO₂排出量も90%以上低減させた。まさに環境配慮と機能とのジレンマを乗り越えた製品なのである。

メガバスでは、1990年代から「リサイクル&グリーン素材」にシフトする方針を打ち出してきた。環境に配慮した素材を使えば、その分、価格に転嫁せざるを得なくなる。難しい問題と真正面に向き合い、ものづくりを続けたきた歴史がある。

「鬼手仏心(きしゅぶっしん)」。元々は仏教用語で、「手でおこなう事は残酷でも、心には慈悲心がある」という意味を持つ。伊東さんが大切にしてきた言葉だ。

「どれだけ慈悲深い人でも、魚を獲る瞬間は、狩猟本能が覚醒する。ただ、鬼の手になるけれど、その獲物が私たちと同じ命があることに想いを馳せる。自然を慈しむ気持ちを持っていないといけない」

SDGsをキレイごとにはしない。より魚が釣れるアプローチを追求した結果、自然にも優しいプロダクトが生まれる。これこそがメガバスの目指すものづくりなのだ。

アングラーとしても活躍。
釣りと向き合い続ける伊東さん。

釣り人の喜びを追求し続ける

伊東さんは、浜松への郷土愛も人一倍強い。
「メイド・イン・浜松」にこだわり、浜松の魅力を国内外に発信。2013年からは「浜松市やらまいか大使」も務めている。「やらまいか」とは、「とにかくやってみよう」という意味を持つ静岡県西部の方言だ。伊東さんの人生は、まさに「やらまいか」の連続だった。

「父が他界した今、幼い私に何を伝えたかったのかがようやく分かってきた気がします」と語る伊東さん。
「大好きだった釣りを父がやらせてくれなかったのは、『人生にはやりたくないことの方が多い。だから、好きなこと以外にきちんと向き合え』と言いたかったのかもしれない。今ではそんな風に思いますね」

一見、自分が好きなことだけを貫いてきたように見える伊東さんだが、大好きな釣りを続けるために、嫌なことから逃げず、立ち向かってきた。
ある時、伊東さんは「なんで俺に釣りをやらせてくれなかったんだよ」と病床の父に尋ねたそうだ。すると、こんな言葉が返ってきた。

「よかっただろ。釣り人にならなくて」

お前は釣り人になっちゃいけない。釣りを楽しむのは、お客さまのすることだ――。
伊東さんの父は、メガバスを創業し、世界ブランドへと育て上げた伊東さんの可能性を、いち早く見抜いていたのかもしれない。

伊東さんの母は、こんな風に言うという。
「うちの釣り宿も、メガバスも、究極のサービス業。お客さまに喜んでもらえるのが一番幸せだよね」

伊東さんはこれからも、世界中の釣り人を笑顔にし、感動をもたらす釣り具をつくり続けていく。

プロフィール

メガバス株式会社 代表取締役社長
伊東由樹(いとうゆき)
1966年、静岡県浜松市生まれ。世界屈指のルアーフィッシング&アウトドアブランド「メガバス」グループ創業者。カリスマアングラーとして国内で活躍する傍ら、プロダクトデザイナーとして公益財団法人日本デザイン振興会の「グッドデザイン賞」や、世界三大デザインアワードとして知られる「iFデザイン賞」「レッドドット・デザイン賞」などを受賞。2013年からは「浜松市やらまいか大使」としても活躍している。
メガバス株式会社
静岡県浜松市に本社を構える釣り具のトップブランド。1990年の創業以来、革新的なデザインと高品質な製品で世界中のアングラーから高い評価を獲得。ルアー、ロッド、リール、ウェア、アウトドア用品など、幅広い釣り具を製造・販売し、特にそのルアーはデザイン性と機能性を兼ね備え、多くの釣り愛好家に愛用されている。また、環境保護にも力を入れており、豊かな自然と共存するための活動などにも積極的に取り組んでいる。

MAP

〒431-3115静岡県浜松市中央区西ケ崎町1590-1
電話番号:053-431-0777
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