むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

たどり着いた場所は
「文具店店主」

「森のシロくま堂」店主
石川羽美さん
(2/3)

October 02. 2025(Thu.)

文具メーカーが多く集まり、全国的に見て文具店の数も多い静岡県。個性的な店もあり、「文具の聖地」とも言われている。
そんな静岡県にあって、全国の文具ファンを魅了する文具店が「森のシロくま堂」だ。「遠州の小京都」と呼ばれる周智郡森町(しゅうちぐん もりまち)に店を構える。
店頭を埋め尽くす数々の商品はすべて石川羽美(いしかわはねみ)さんが厳選したもの。オリジナル商品の企画・開発にも精力的に取り組む彼女は「アイデアがあふれて止まらない」と笑顔を見せる。そんな石川さんに「森のシロくま堂」オープンまでの道のりや、文具の魅力などについて話を伺った。

第2回は、転職後から「森のシロくま堂」オープン、コロナ禍を経て現在までの歩みを伺った。

胸の奥にずっとあった
「かなえたい夢」を形に

―文具店を離れた後は、どうされたのですか?

未経験の世界に挑戦したいと思って広告代理店の営業職に就きました。仕事を通して小売業をはじめ、多種多様な業種の経営者の方々と関わることができ、とても刺激的でした。ですが、契約数など「与えられた数値目標」を達成することは、私にとってプレッシャーが大きく…。悩んだ末、わずか1年半で退職することに。自分のお店をつくると決めたのは、退職を決断した後でした。後押しとなったのは、担当していた工務店の社長さんの一言。その方いわく、私は入社直後に「将来は自分でお店をやります!」って言っていたそうなんです。

―すでに将来の目標を宣言していたとは驚きですね!

でも当の私はまったく覚えていなくて(笑)、びっくりするのと同時に「もしかしたら、ずっと私は『自分のお店』を営んでみたかったのかも」と気づきました。というのも、広告出稿を提案するために小売店の方々と接する際には「私が店主ならこんなことをして…」と、宣伝や広告のアイデアがいつも頭を駆け巡っていたからです。かつての自分の宣言をきっかけに「自分で決めたことならマイナスもプラスも受け止められる。これからは自分で、自分のための居場所をつくろう!」と決心しました。

―石川さんの決心を聞いた、周りの反応はどうでしたか?

大半は「やっていけるの?」というリアクションでしたね。退職する際、お世話になった取引先の方々全員にお手紙を書いたんです。目標をかなえるための前向きな決断だとお伝えしたくて。100人ほどにお手紙を送って、ほとんどの方から心配される中、3人は「いいじゃん!」って応援してくださったんです。その応援のおかげで自信を持って夢に踏み出すことができました。

お店づくりのアイデアをまとめたノート。
「思いついたことは何でもメモしているんです」と石川さん。

ピンチを乗り越え
森町で文具店をオープン!

―お店を構える場所として森町を選んだ理由は何だったのでしょうか?

なぜか最初から「お店をやるなら森町だ!」と決めていて、森町以外の地域は検討もしなかったんです。父の実家が森町にあることも少なからず影響しているかもしれません。まず森町に暮らす人たちのことを知りたいと思い、町内の工場に派遣社員として勤務し、並行して店舗物件探しを進めました。すぐに物件にも巡りあえて、出だしは順調だったんです。でも、諸事情から契約合意に至らず、「仕入れも始めないといけない時期なのにどうしよう!」 と、とても焦りましたね…。

―とてもピンチな状況ですが、どうやって乗り越えたんですか?

森町商工会に駆け込んで、ことのいきさつを話しました。そこで紹介されたのが、今お店を構える商工会館1階の物件です。どんなお店をつくりたいかをプレゼンテーションし、「このまちに人を呼ぶ自信があります!」と宣言したら、会長さんから「ぜひ君に貸しましょう!」とのお返事をいただけたんです。それから急ピッチで準備を進めて、物件決定から約2か月後の2019年6月に「森のシロくま堂」をオープンしました。

オープン直後の様子。
店名の「森のシロくま堂」は
ノートのメモ書きをそのまま採用。

コロナ禍に育まれた絆
世界に生まれた「シロくまファミリー」

―来店するお客さまはどんな方が多いのでしょうか?

8割が女性のお客さまで、町外から当店を目指してお越しになる方がほとんどです。オープン当初はお客さまのインスタグラムなどのSNS発信でクチコミが広がって集客につながっていきましたね。年代は20〜60代と予想していたより幅広くて、お好みや手に取っていただく商品も千差万別です。コロナ禍から始めたインスタライブを目にして当店を知ってくださった方もいらっしゃいます。

―オープンから約1年でのコロナ禍は、思ってもみない出来事だったかと思います。

緊急事態宣言によりお客さまに来店いただくことができない状況になるなんて、と正直思いましたが、今できることをしようと気持ちを切り替えました。そこでスタートさせたのが毎週配信するインスタライブです。インスタグラムはステイホームをきっかけに50〜60代にも広まったので、この取り組みを通して幅広い年代のファンが増えたと感じます。ほかにもコロナ禍で強化したのが通販で、新たに文具の詰め合わせセットの販売を始めました。メッセージのやり取りを通じてお客さまからお聞きした好みや要望を参考に商品をセレクトするセミオーダー的な商品で、全国の文具好きの方からたくさんの注文が入るようになりました。緊急事態宣言が解除されてからは予約制で営業を再開。すると、土曜・日曜日は予約でいっぱいになって、とてもありがたかったです。

―実際に来店いただけるのは、やっぱりうれしいですよね。

目が回るほどの忙しさでしたが、待ち望んでくださる方の多さに、うれしさでいっぱいになりました。最近では、日本だけでなく海外からのお客さまもいらっしゃるようになりました。日本全国の文具好きをお迎えすることを目指す中で、海も越えてお越しいただけたことに衝撃を覚えましたね。店頭に置いている交換日記の冊数も増え、多くの方とご縁が結ばれているのだなと感じる毎日です。

コロナ禍からスタートしたインスタライブは現在も継続中。
「森のシロくま堂との交換日記」。
来店客のすべてのメッセージに石川さんが返信を書き添える。

プロフィール

森のシロくま堂 店主
石川羽美(いしかわ はねみ)
静岡県袋井市生まれ。好きなものにとことん熱中する子ども時代を過ごす。高校卒業後、地元企業が展開する文具チェーン店に就職。持ち前の探究心を強みに文具の知識を身に着け、若手ながら仕入れ業務にも携わるように。広告代理店への転職を経て、セレクト文具店「森のシロくま堂」をオープン。培った経験を生かし、文具を愛する人の心をくすぐる商品を開発・販売する。
森のシロくま堂
文具や雑貨などを扱うセレクト文具店として、2019年にオープン。コンセプトは「女性のための秘密の文具部屋」。約5坪の店内にはところ狭しと商品が並ぶ。商品はすべて店主の石川さんがセレクトしたもので、クマのオリジナルキャラクター「しろみちゃん」がデザインされたグッズなど、オリジナル商品のラインナップも豊富。店頭には周辺の森町エリアを紹介する石川さんの手書きマップを置き、地域の魅力発信にも取り組む。
木曜定休。

Instagram
https://www.instagram.com/morino_shirokumado

MAP

〒437-0215静岡県周智郡森町森20-9
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