
中部地域の注目パーソンにインタビュー!
「好き」を突き詰めて
文具を追いかけたい!
「森のシロくま堂」店主
石川羽美さん
(1/3)
October 01. 2025(Wed.)
文具メーカーが多く集まり、全国的に見て文具店の数も多い静岡県。個性的な店もあり、「文具の聖地」とも言われている。
そんな静岡県にあって、全国の文具ファンを魅了する文具店が「森のシロくま堂」だ。「遠州の小京都」と呼ばれる周智郡森町(しゅうちぐん もりまち)に店を構える。
店頭を埋め尽くす数々の商品はすべて石川羽美(いしかわはねみ)さんが厳選したもの。オリジナル商品の企画・開発にも精力的に取り組む彼女は「アイデアがあふれて止まらない」と笑顔を見せる。そんな石川さんに「森のシロくま堂」オープンまでの道のりや、文具の魅力などについて話を伺った。
第1回は、「文具沼」に足を踏み入れるまでを振り返ってもらった。


「好き」「良いな」を
突き詰めてきた子ども時代
―石川さんはいつ頃から文具が好きだったんですか?
小学生になるかならないかくらいの頃からですね。友達とよく自転車でまちの文具店に通ったり、ショッピングセンターのファンシーショップで買ったシールを交換したりしていました。ただ、当時は熱烈に文具が好きだったわけではなく、ごく普通な「かわいいものが好きな女の子」だったと思います。子どもの頃の私が熱中したものは、シルバニアファミリー。森に住む動物たちの人形やドールハウスを集め、ファンクラブに入るほど好きでした。店名やお店のキャラクターにもなっているクマが好きなのもシルバニアファミリーの影響が少しだけあるように思えます。
―仕事として、文具の業界に飛び込むきっかけは何だったのでしょうか?
高校2年生のときの1日職業体験です。私が訪問したのは、静岡県内を中心にチェーン展開されている文具専門店。小学生の頃に通っていた文具店の一つでした。職業体験で印象的だったのが、お客さまの様子です。訪れる方々は皆さん、お店に対してすごく信頼を寄せていて、スタッフとのやりとりからも、そのお店が地域を支えているのだと感じました。「ここで働けたらいいな」って思いが芽生えたんです。でも、通っていた工業高校に販売職の求人は見当たりませんでした。「それならば」と自ら電話をかけて「御社のお店で働きたいのでぜひ見学させてください!」とお願いしたんです。思いが届いたのか、高校に求人情報を出してくださって、卒業後に就職することができました。


と振り返る石川さん。
仕事の楽しさ
噛み締める日々
―念願かなって就職した文具店では、どのような業務に携わっていたのですか?
メインは店頭での販売業務で、入社3年目の中盤からバイヤーのたまごとして、仕入れ業務にも携わるようになりました。仕入れをおこなう社員は30〜40代が大半を占める中で、21歳での抜擢は異例だったようです。思い返すと、入社当時から空き時間には文具の専門誌に目を通して、新商品の情報を収集していました。それを見た上司から「商品についてよく勉強しているね」って感心される、なんてこともありました。オタク気質な私にとっては特別なことではなかったのですが、周りには異質だったのかもしれません。ちょうどこの頃から、プライベートでも文具好きが加速するようになりましたね。


現在の店舗運営に大きく役立っている。
文具にハマるきっかけとなった
2つの出会い
―どのようなきっかけから文具好きが加速したんですか?
2つの大きな出会いがきっかけです。ひとつは、ある雑誌との出会い。その雑誌を通して初めて「文具のセレクトショップ」があると知り、独自の世界観に一気に魅了されました。それから、休みの日を利用して各地のセレクトショップを訪れたり、旅先でおばあちゃんが営む昔ながらの文具店に足を運んだりと全国のお店を巡るようになったんです。当時はSNSもそこまで発達していなかったので、情報源は書籍や雑誌。地道に目を通して、情報をかき集めていました。
―もうひとつの出会いは何だったのでしょうか?
セレクトショップ巡りを始めるのと同じ頃に出会った、宇田川一美さんの著書『イラストとクラフトで手づくりライフログノート ~日々のあれこれを記録する“わたしだけ”の採集帖』(技術評論社)です。ノートやレターセットといったいわゆる紙ものって、実用品であり、誰かに送るために使う印象を持っていました。でもライフログノートは、自分が好きなものをコラージュしたりイラストを描いたりしてまとめる、いわば「自分で楽しむための記録紙」。「ノートってこんな使い方があるんだ!」と私の中で視界がパーっと広がる感じがしました。


石川さんならではのセレクト文具が所狭しと並ぶ。
文具を好きでいるために
踏み出した新たな一歩
―公私ともに文具にハマる毎日を送られていたのですね。
すごく充実していたと思います。知識や経験が増え、仕事では仕入れ会議で自分の提案や意見がどんどん通るようになって、成長も実感できました。でも同時に、現実とのギャップを感じることも増えていきました。私にとって仕事のやりがいは、お客さまに喜んでもらえること。一方で文具店を営む一員としては、売上を伸ばすことを考えないといけません。当時の私は、数字を追いかけることに疲れてしまって…。「このままでは文具のことを嫌いになってしまう」。そう感じて、一度リセットすることを決めました。集めていた文具も、文具好きが加速するきっかけになった雑誌もすべて手放して、勤めていた文具店も退職。大好きな文具を、これからも好きでいるためには、必要な決断でした。


石川さんのラフ画をもとに地元の大工さんが製作。
プロフィール
- 森のシロくま堂 店主
- 石川羽美(いしかわ はねみ)
- 静岡県袋井市生まれ。好きなものにとことん熱中する子ども時代を過ごす。高校卒業後、地元企業が展開する文具チェーン店に就職。持ち前の探究心を強みに文具の知識を身に着け、若手ながら仕入れ業務にも携わるように。広告代理店への転職を経て、セレクト文具店「森のシロくま堂」をオープン。培った経験を生かし、文具を愛する人の心をくすぐる商品を開発・販売する。


- 森のシロくま堂
- 文具や雑貨などを扱うセレクト文具店として、2019年にオープン。コンセプトは「女性のための秘密の文具部屋」。約5坪の店内にはところ狭しと商品が並ぶ。商品はすべて店主の石川さんがセレクトしたもので、クマのオリジナルキャラクター「しろみちゃん」がデザインされたグッズなど、オリジナル商品のラインナップも豊富。店頭には周辺の森町エリアを紹介する石川さんの手書きマップを置き、地域の魅力発信にも取り組む。
木曜定休。
Instagram
https://www.instagram.com/morino_shirokumado