むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

型屋が持つディレクション力が
大きな武器になる
株式会社エム・エム・ヨシハシ
代表取締役 吉橋賢一
(2/4)

August 05. 2024(Mon.)

日本六古窯のひとつに数えられる愛知県瀬戸市。陶磁器産業が盛んな地には、大量生産になくてはならない“型屋”や“原型士”と呼ばれる職種が存在する。株式会社エム・エム・ヨシハシもそのひとつ。現在は型づくりにとどまらず、オリジナルブランドの展開や陶磁器の総合的なプロデュースをおこない注目されているのが代表の吉橋賢一さんだ。

第2回目は、他業種や外の世界を体験してはじめて理解した型屋の仕事の奥深さ、そしてクリエイティブディレクターとしての気づきについて、お話を伺った。

ー前回の記事はこちら
型屋に生まれて、型から飛び出す 株式会社エム・エム・ヨシハシ 代表取締役 吉橋賢一(1/4)

遠回りして気づいた
“型屋”の可能性

アパレル企業で、服のパターンづくりを担当していた吉橋さん。ふと、家業である“型屋”の仕事と通じるものがあるのではと気がついた。

器の完成形をつくるために立体の型をデザインし、そのデザインに合った成形方法、土や釉薬(ゆうやく)の調整、焼成温度、加飾の種類、ロット数に応じた価格帯とクオリティ、こうした条件をすべて整えるのが型屋の仕事だ。
1枚の紙に描かれたデザインから立体に起こすための設計図をつくるパタンナーと、とてもよく似ていた。

帰省した際に父の仕事場をのぞき、自分は遠回りをしたが結局ここに還ってくる運命だったことを実感したのである。

吉橋さんは、家業に戻るための準備を開始。商社に転職して営業職に就き、陶磁器や雑貨のマーケティングや商習慣などを学んだ。

「自分なりの商品づくりができるのではと考えた」と吉橋さん。

形を自由に
創作できるのだから
自社製品をつくることが
できるはず

吉橋さんが家業に戻ることを考えていた頃、父は家業をたたむことを視野にいれて仕事をしていたという。
父の廃業への意思にストップをかけた吉橋さん。パタンナーの経験に加えて、商社で雑貨に携わったことで、自社製品をつくるという希望を家業の型屋に見出したのである。

「形を自由につくることができる環境が整っているのに、なぜそこに挑戦しないのか、とても不思議でした。でもそれは外の世界を見てきた自分だからこそ至った考えだったのでしょう。型屋の可能性をもっと広げていきたいと思い、型屋の調整能力の幅広さを学ぶことからはじめました」

家業を継いで、新たな事業展開をすると心に決めた吉橋さん。作品・商品をかたちにするために土ややきものの知識、デザイナーと窯元との調整力が求められる型屋の仕事は「クリエイティブディレクターである」という思いを胸に、自社製品の作成を試みる。

オーバル皿の型は、このように上下に挟む形で作られる。
同じ型を使っても、素材・釉薬・焼成温度などが
違えば、焼き上がりの肌質はもちろんサイズにも
違いが出る。そこを計算しコントロールするのが
型屋の腕の見せ所。
家業に戻った頃。家族とともに。

「小鳥のマグカップ」が
話題に

進むべき方向性を模索する中、様々な人との出会いや協力を経て、デザイン会社の協力を得ながら新商品開発に着手。そうして、型屋発信の商品「小鳥のマグカップ」が誕生した。マグカップの本体が木の幹で、持ち手の部分が木の枝に留まっている小鳥のデザインだ。この商品が注目され、ほどなく完売してしまう。

マグカップといえば、持ち手は丸型で持ちやすくつくりやすい形と決まっていた。通常、型は1つで済むが、この小鳥のマグカップは、本体・持ち手の枝部分・持ち手の小鳥部分と3つの型それぞれでつくったパーツを組み合わせて成形し、上から釉薬をかけるという製造方法。そのため、手間・時間・技術が何倍もかかる。

「合計2,000個ほど販売しましたが、かなりの反響でマスコミでも話題にしてもらいました。うまく出来なかった数もたくさんあったので、結果としては歩留まりは良いとはいえませんでしたが、それでも、小鳥のマグカップが世に広まったことで、型屋が考えると商品は面白くなる!と知ってもらうことができました」

一方で「型屋なのになぜ自社開発するのだ」と厳しい声が届いたことも。昔ながらの商習慣で仕事をしている人々からすれば、吉橋さんの活動は奇異に見えたことだろう。
それでも、東京や名古屋の雑貨店に飛び込んで、新商品を見てもらったり話を聞いてもらったりすることで、企画力を認めてもらいながら、販路を広げる努力を続けた。

小鳥が枝にとまっているようなデザインとなっている。

プロフィール

株式会社エム・エム・ヨシハシ 代表取締役/陶磁器プロデユーサー
吉橋賢一(よしはしけんいち)
愛知県瀬戸市生まれの瀬戸市育ち。陶磁器生産のための型屋の息子に生まれ、後継ぎとなる。立体のものをクリエイトするという意味で、デザインと陶磁器をつなぐアイデアに目覚めてからは、家業としていた型屋の枠を大きく超えて、陶磁器をプロデュースする事業展開に挑戦。やきもののまち・瀬戸の新たな魅力づくりを含めた、陶磁器構想を抱いている。
株式会社エム・エム・ヨシハシ
戦後の復興期に陶磁器の製型に携わっていた吉橋喜呂久氏が、1959年に合資会社吉橋製型所として独立。ノベルティを中心にした型製作事業を確立させる。1965年には喜呂久氏の息子である宏一氏が代表に就任。1986年に株式会社エム・エム・ヨシハシと改め、工業用石膏型の製造を開始する。
3代目となる吉橋賢一氏が後継となってからは、自社ブランドの開発・販売を成功させ、オンラインショップ「Yummy Life Design Store」を開設するなど活動を広げている。

MAP

〒480-1207愛知県瀬戸市品野町4-22
電話番号:0561-41-0471
※商品をご覧になりたい場合は、事前にご連絡いただくか、オンラインショップ(https://store-andc.com/)をご利用ください。
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