むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

チョコレートで、
あらゆる人たちの未来に幸せを
久遠(くおん)チョコレート
代表 夏目浩次
(1/4)

October 15. 2024(Tue.)

余計な油を加えないピュアチョコレートをベースに上質な食材、各地の名産をかけ合わせたチョコレートで人気の「久遠チョコレート」。2014年の設立からわずか10年で全国60拠点のブランドへと成長させたのが、代表の夏目浩次(なつめひろつぐ)さんだ。
現代に生きづらさを抱える障がい者やひきこもり歴のある人たち、子育て中のママさんなどを積極的に雇用し、「凸凹ある誰もが活躍し、稼げる社会」を目標に掲げた経営をおこなう。その唯一無二のチョコレートづくりは、大きな話題を集めている。

第1回目は、夏目さんの幼少期から事業に乗り出すまでを振り返る。

大学時代に人生を動かす
「2つの言葉」に出会う

愛知県豊橋市で生まれ育った夏目浩次さん。障がいをもつ人や生きづらさを抱える人たちがイキイキと働いている場所「久遠チョコレート」の代表だ。

「原点は、遡ると幼少期・少年期にあったのかもしれません」と夏目さん。自身がいじめにあった保育園時代、さらに、小学生時代には知的障がいのある同級生がいじめられ、転校していった様子を目の当たりにした。幼いながらに世の中の理不尽を強く感じた。その時のことは現在も心に焼き付いている。

高校を卒業後は、大学に進学。ここで、人生を変える出会いが待っていた。教養課程での英語の授業で、教材として福祉関連の本が使われており、そこで「ユニバーサルデザイン」「ノーマライゼーション」という言葉を耳にしたのだ。ユニバーサルデザインとは、障がい者をはじめ多様な人々、皆が使いやすい設計・デザインを目指すというもの。ノーマライゼーションは、障がいの有無で区別されずに社会生活をおこなうことが正常であるという考え方。

2つの言葉に感銘を受けた夏目さんは、ユニバーサルデザインがまちや社会に必要不可欠となることを見据え、都市計画を専門的に学んだ。ただ、就職活動が本格化する4年生になると、専門知識を活かせるゼネコンや土木コンサルでなく、「政治家」になりたいと思うようになる。地元で市議会議員をしていた父の跡目を継ごうと考えたのだ。

大学卒業後は地元企業に就職。「地域活動に参加して政治家への足場固めをしよう」と考え、終業後に地域の集まりに足を運んだ。ただ、そこでは「ユニバーサルデザイン」「ノーマライゼーション」といった大きなビジョンは求められていない。現実を突きつけられ、次第に地域のコミュニティからも足が遠のいていった。

勤め先も半年で辞めた。大学院へと進学し、もう一度本腰を入れてユニバーサルデザインを研究する道を選んだのだ。

久遠チョコレートの代表・夏目浩次さん。

名経営者の著書で
福祉の現実を知る

大学院で学び始めて間もなく、運命の一冊に出会う。ヤマト運輸を築き上げた名経営者・小倉昌男氏の取り組みを紹介した『小倉昌男の福祉革命―障害者「月給1万円」からの脱出』(小学館)である。そのタイトルから衝撃を受けた。
「障がい者の給与が1万円に満たない状況を変えるべく、経営の理論を持ち込み、障がい者たちが自立できる場としてパン屋のチェーンを展開していくという内容です。それまでにも小倉さんの著書は拝読していて、経営者としての小倉さんに感銘を受けていましたが、『これまでとは毛色が違う本だな』と思いながら手に取ったのがこの本でした。読み進めるうちに、どんどん引き込まれていきましたね」

大学院時代の夏目さんは、障がいを抱えた人が移動しやすい駅のあり方などを研究していた。しかし、小倉氏の著書にあるように“月給1万円”では、そもそも駅の利便性がいくら上がったところで、駅を利用する機会自体が少ない。そこから夏目さんは、修士論文を棚上げにして、障がい者が経済的に置かれている現状を打破しようと、自分ができることを探し始めた。気が付けば、大学院の卒業時期が迫っていた。「やりたいことが見つかったので、中退したい」。そう両親に告げた夏目さんは、「障がい者に健常者と同じ賃金を支払える、そんなビジネスを立ち上げよう」と動き始めたのである。

大学院時代。バリアフリー設計などを
学ぶため土木工学を専攻した。

独力でパン工房を開店

障がい者の給料について地元でリサーチを始めるが、障がいをもつ人が働く作業所の現状は、「月給1万円」よりもさらに厳しいものだった。「仕方ないんだよ」と言われ、最初から「できない」と諦めている人の多さに愕然としながらも、夏目さんは闘争心を燃やしていった。
「障がいという属性が付くだけで、なぜ人生の選択肢がなくなるのか。それがとても理不尽だと思ったんです」

その後、憧れの小倉氏と面会するチャンスを得た夏目さん。参加したセミナーの後、小倉氏が全国展開していたパン屋をやらせてほしいと直談判した。ところが、頭を下げる夏目さんに対して、小倉さんは「帰りなさい」と言い放った。一人でチャレンジしようとしている無謀さと、雇った人の人生を背負うことを甘く考えてはならないということへの戒めだった。
しかし、これでさらに夏目さんの闘争心に火が付いた。「一人でもできるところを見せてやる!」と、地元商店街の空き店舗を利用して、パン工房「花園パン工房ラ・バルカ」をオープンした。

周囲から「絶対に失敗するぞ」と言われた事業は、案の定、大きな苦戦を強いられることに。
パン屋は、数多く売らないと利益が出ないビジネスだ。しかしスタッフは未経験者の集まりなので、毎日のように失敗が続く。多くの種類を店頭に並べるためには、一人が複数の作業をこなさなければならないが、苦手な人が多かった。店はうまくまわらず売上も伸びない。そうして気づけば借金は1,000万円以上に膨らんでいた。

一方で、障がいをもつ人たちの単なる“居場所”ではなく、しっかりと“給料を得て自立できる場所”をつくるという試みが注目され、メディアに取り上げられた。話題になったことで、障がいをもつ人やその家族から「働きたい」「働かせてほしい」と、問い合わせが連日のように入ってきた。これ以上雇う余裕はなかったが、夏目さんは諦めなかった。借金を抱えながらも、新たにメロンパン専門店をオープンさせた。そして、これが大ヒット。起死回生となり踏みとどまることができた。

何とか目の前の事業が軌道に乗り始めた頃、いよいよチョコレートとの運命的な出会いを果たすこととなった。

2003年オープン「花園パン工房ラ・バルカ」店頭にて。

プロフィール

久遠チョコレート 代表
夏目浩次(なつめひろつぐ)
愛知県豊橋市生まれ。2003年、障がい者雇用の促進と低工賃からの脱却を目的とするパン工房「花園パン工房ラ・バルカ」を開業。その後、より多くの雇用を生み出すため、2014年、久遠チョコレートを立ち上げる。これまでの奮闘を描いたドキュメンタリー映画『チョコレートな人々』(東海テレビ)が話題に。2024年2月には初の自叙伝『温めれば、何度だってやり直せる』(講談社)を上梓した。
久遠チョコレート
2014年の立ち上げから10年で全国60拠点まで拡大を続けるチョコレートブランド。「デイリー&カジュアル」をコンセプトに、世界各地のカカオや国内の食材から上質な材料を厳選。高いクオリティを手頃な価格で楽しめる商品づくりで人気を博す。2022年11月には、岐阜県出身であるシェ・シバタの柴田 武シェフとのブランド「ABCDEFG」を発表。今後も異業種とのコラボ企画などを積極的に展開していく予定だ。

MAP

〒440-0897[豊橋本店]愛知県豊橋市松葉町1-4
電話番号:0532-53-5577
上部へ戻る