中部地域の注目パーソンにインタビュー!
僕らの活動が
当たり前となる社会を目指して
久遠(くおん)チョコレート
代表 夏目浩次
(4/4)
October 21. 2024(Mon.)
余計な油を加えないピュアチョコレートをベースに上質な食材、各地の名産をかけ合わせたチョコレートで人気の「久遠チョコレート」。2014年の設立からわずか10年で全国60拠点のブランドへと成長させたのが、代表の夏目浩次(なつめひろつぐ)さんだ。
現代に生きづらさを抱える障がい者やひきこもり歴のある人たち、子育て中のママさんなどを積極的に雇用し、「凸凹ある誰もが活躍し、稼げる社会」を目標に掲げた経営をおこなう。その唯一無二のチョコレートづくりは、大きな話題を集めている。
4回目の今回は、これからの目標やビジョンについて聞いた。
ー前回までの記事はこちら
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チョコレートで、あらゆる人たちの未来に幸せを 久遠(くおん)チョコレート 代表 夏目浩次(1/4)
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チョコレートづくりは人の時間軸に合わせてくれる 久遠(くおん)チョコレート 代表 夏目浩次(2/4)
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ほかにはない食感の看板商品「QUONテリーヌ」久遠(くおん)チョコレート 代表 夏目浩次(3/4)
ブランド展開も続々と
2022年12月、豊橋本店のすぐとなりに焼き菓子専門店「QUONチョコレートDEMI-SEC(ドゥミセック)」をオープン。オリジナルのフィナンシェ「クオンシェ」やタルトを販売。店内で焼きたても味わえる。もちろん、ここでも、第2回で紹介した、パウダーラボで加工された食材がふんだんに使われている。このドゥミセックも、他県や他の地域に続々出店。
さらには、ジェイアール名古屋タカシマヤの催事への出店をきっかけに、「シェ・シバタ」の柴田武シェフと出会い、コラボレーションに発展。ソフトクッキーの専門店「ABCDEFG」がスタート。
積極的に、なおかつ着実に、多様な人が働き、自分を表現できる場を広げている夏目さん。どんな未来を見据え、描いているのだろうか。
僕たちの取り組みが
当たり前になるように
「小学生の時、いじめが原因で転校していった知的障がいのある同級生。例えば、給食の時に食べ物ををこぼしてしまう彼に対し、彼の特性を理解し、先生が優しく声をかけていたら、その様子を見たクラスメイトたちはどんなリアクションをしていただろうか―。今でもふと、そんなことを考えます」と夏目さん。
「あの瞬間、周りにいる大人たち、社会、教育が、彼や僕を含めた子どもたちに180度違う振る舞いをしていたら、結果は全然違っていたと思う。僕は『人権』といった小難しいことを言いたいのではなくて、『いろんな人がいていいじゃん』ということが伝えたいだけなんです」
何かの価値基準に当てはめて平準化したり、「できる」「できない」と区分けしたりすることで、社会にギスギスした閉塞感が生まれていく。たとえ失敗をしても、それを許容して「もう一回やろう」と前を向けるような社会にしていきたい。
「僕が特別なことをやっているのではなく、当たり前のことをやっている人という認識になれば、今の社会がもう少しよい方向に進んでいくのではと思っています」
社会貢献ブランドでなく
「一流ブランド」へ
「確固たる使命があるから、久遠チョコレートというブランドは強い」と話す夏目さん。その言葉を証明するように、コロナ禍で苦戦を強いられた企業が多い中、久遠チョコレートはずっと増収増益を続けることができたという。
今後の課題について尋ねると「ありすぎます」と笑う夏目さんだが、「でも、課題があるからこそ幸せ。やるべきことが明確にあるわけですから」とも。
「もう一皮、二皮むけていかないと、本当の一流は目指せないと感じています。お金や名誉が欲しいわけではありません。障がいをもつ人や社会で生きづらい人がたくさん働いている組織であっても、ちゃんとした味のチョコレートを提供していけることを分かりやすく証明するために、一流を目指してブランドをさらに磨いていきたいと思っています」
夏目さんが考える「一流」の分かりやすい指標の一つは、ジェイアール名古屋タカシマヤのバレンタイン催事「アムール・デュ・ショコラ」で1番になること。「一流ブランドに比べるとまだまだです。でも、どれだけ鼻で笑われても、ここで1番を目指したい」と決意を語った。
世間からは「社会貢献ブランド」として認知されていると強く感じている。
「それ自体はありがたいことですが、ちゃんとチョコレートブランドとして認めてもらう。それが目指すべきゴールの1つかなと思います」
今までは「屈伸運動」
これからが本当の挑戦
ブランドが立ち上がって今年で10年が経過したが、「これまでは屈伸運動」と夏目さんは言う。
「これをお伝えすると、ほとんどの人が『え?』と驚かれます。ただ、僕の中ではやっとスタートラインという認識です。ここからどんなジャンプをするのか。自分自身、とてもワクワクしています」
今後は、一部の食材を自分たちの手でつくることも構想中だ。
「チョコレートのフレーバーに使うハーブを栽培するところから手掛けたいと考えています。全国各地で増えている耕作放棄地を活用し、地元の人たちを雇用しながらハーブを育て、それを粉砕してフレーバー用の粉末にしていく。また、平飼いをしたニワトリの卵を焼き菓子などに使うことも考えています」
いろいろな失敗を経験して少しずつ成長しながら、ブランドの土壌を育んできた久遠チョコレート。誰も見捨てられることがない社会の実現を夢見て、これからも新たなチャレンジを続けていく。
プロフィール
- 久遠チョコレート 代表
- 夏目浩次(なつめひろつぐ)
- 愛知県豊橋市生まれ。2003年、障がい者雇用の促進と低工賃からの脱却を目的とするパン工房「花園パン工房ラ・バルカ」を開業。その後、より多くの雇用を生み出すため、2014年、久遠チョコレートを立ち上げる。これまでの奮闘を描いたドキュメンタリー映画『チョコレートな人々』(東海テレビ)が話題に。2024年2月には初の自叙伝『温めれば、何度だってやり直せる』(講談社)を上梓した。
- 久遠チョコレート
- 2014年の立ち上げから10年で全国60拠点まで拡大を続けるチョコレートブランド。「デイリー&カジュアル」をコンセプトに、世界各地のカカオや国内の食材から上質な材料を厳選。高いクオリティを手頃な価格で楽しめる商品づくりで人気を博す。2022年11月には、岐阜県出身であるシェ・シバタの柴田 武シェフとのブランド「ABCDEFG」を発表。今後も異業種とのコラボ企画などを積極的に展開していく予定だ。