むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

留学をきっかけに出会った
「ヒンメリ」へのこだわり
クラフト作家
上原 かなえ
(2/4)

February 17. 2025(Mon.)

長野県北佐久郡御代田町を拠点に、自身でライ麦を育て、その藁からつくるフィンランドの伝統装飾「ヒンメリ」で注目を集めているクラフト作家・上原かなえさん。地元でワークショップの開催や福祉施設「やまゆり共同作業所」と連携してライ麦ストロー制作など、精力的に活動の幅を広げている。

第2回目の今回は、ヒンメリに魅せられた上原さんの制作活動について話を聞いた。

撮影協力/ザ・コンランショップ 代官山店

ー前回の記事はこちら
手しごとと向き合い始めた原点とは クラフト作家 上原 かなえ(1/4)

自然素材を使った手しごとに
他にはない力強さを感じた

デンマークの学校では、さまざまな手しごとを学んでいた。そしてある時、ゲスト講師として自然繊維を使ったアーティストに習うる機会があり、その作品づくりを見て、天然の素材をそのまま使った原始的なものづくりに、上原さんは他にはない力強さを感じた。

「いい作品をつくろうと思えば、高価な材料を手に入れないといけない。これではキリがないと感じていました。でも天然素材を使うのであれば、手芸の良い部分を活かして続けていけるのではないか。そんな風に思ったんです」
昨日取って来たような蔓を持参し、自分の作品を作り上げていく。そんな先生の姿がかっこよく見えたという。

その後、学校のクリスマス用の手芸を通じて、「ヒンメリ」を知った上原さん。
ヒンメリとは、ライ麦の茎の部分を使って制作する装飾で、フィンランドの家庭で伝統的につくられてきたもの。食卓に掲げて五穀豊穣や家族円満を祈るのが起源だ。
まさに、天然の素材を使っている点に強く惹かれた。

帰国後も、折りに触れヨーロッパを訪問。フィンランドに足を運んだ際、現地の美術館でヒンメリづくりの第一人者であるエイヤ・コスキさんの本に出会う。すぐさまコンタクトを取った上原さんは、アトリエをに訪問できることとなり、直に教えを乞うた。
「エイヤさんの夫がライ麦をつくり、その麦わらで作品をつくる。私も自らの手でライ麦を育てるところから始めようと考えるようになりました」

上原さんが大きな刺激を受けたエイヤ・コスキさんの本。

道具は、針、糸、はさみ
シンプルさに魅力が宿る

結婚、出産を経験し、長野県の御代田町に移住することとなった上原さん。この地で自らライ麦を栽培し、その麦わらからヒンメリをつくる活動を始めた。
「フィンランドで、目の前にライ麦畑が広がるエイヤさんのご自宅を訪れ、すべてが完結しているものづくりを見た時、まさに理想郷だと思いました。そんなフィンランドの田園風景と御代田町の景色は重なる部分があるのです」

ヒンメリは、細長く伸びたライ麦の茎の部分・ストローを使ってつくる。8つの正三角形を組み合わせた、正八面体ダイヤモンドが基礎となっている。

制作に必要な道具は、針、糸、はさみだけ。
「そのシンプルさもいいんです。簡単な道具だけで、手を動かすことに没頭できる」

上原さんがこだわるのは素材選びだ。地元農家と一緒に育てたライ麦を丁寧に手刈りで収穫。ビニールハウスの中で1週間ほど天日干しし、十分に乾燥させる。大敵であるカビが発生するのを防ぐためだ。
そして、この中から適当な色や細さのものを選び、使いやすいサイズへと切り揃えていく。何万本という麦わらの中からの選別は、気の遠くなるような作業だろう。けれど、これをするかどうかで、作品の完成度に大きな違いが出るという。

「取り組んでいるうちに、なるべく美しいストローを使いたいという欲が出てきて。特に細いものを選んで使うようになりました。古いフィンランドの作品を見てみると太さもバラバラ。それはそれで手しごとの緩さがあっていいんですけどね」

御代田町で畑を借り、
自分自身でライ麦の栽培を始めた。
麦わらの茎に細い針を使って糸を通していく。
ヒンメリ制作に使うハサミ、針、糸。

アーティストとして
ヒンメリ作品の個展を開催

上原さんが御代田町で開催するヒンメリづくりのワークショップでは、種まきや収穫といった農作業を織り交ぜている。天然素材を使ってつくり上げるヒンメリの「本質」を伝えたいからだという。

「ライ麦を収穫する時の喜び、ストローを選別する大変さ。そこから始まっているのがヒンメリ制作の魅力です。これを独り占めするのではなく、みんなと分かち合いたい。一連の営みを丸ごと伝えることが大事なポイントだと思っています」

そうしてヒンメリの、ひいては手しごとの魅力を伝えることに主軸を置いてきた上原さんにとって、2024年の年末は新たなチャレンジの時期だった。11月上旬から約2カ月、東京で個展を開催。多くの人に向けて自身のヒンメリ作品を発表する機会を得たのだ。展示期間中、上原さんの作品を気に入り、購入を決めた来場者の中には海外の人もいたという。

「ワークショップなどを通じてヒンメリの魅力を伝えるだけでなく、アーティストとして活躍する場もあるんだと気付かされました」

プロフィール

クラフト作家
上原かなえ(うえはら かなえ)
北欧に古くから伝わる手しごとを研究し、ペーパークラフトやヒンメリなど身近な素材を用いた作品づくりを続けるクラフト作家。長野県北佐久郡御代田町在住。ヒンメリの材料となるライ麦を種から栽培するほか、地域の福祉施設と連携してライ麦の茎をドリンク用ストローに加工する「MIYOTAライ麦ストロープロジェクト」も主宰。決して無理をしない、地域に根差したサステナブルな活動が、多くの人たちの共感を呼んでいる。
https://www.instagram.com/miyota_ryestraw/
上部へ戻る