中部地域の注目パーソンにインタビュー!
「蔵人体験」で
新しいツーリズムを
株式会社 KURABITO STAY
代表取締役 田澤麻里香さん
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April 07. 2023(Fri.)
最近、旅人の好奇心をかき立てるユニークな宿泊体験が全国各地で人気を博している。こうした中、全国から熱い視線を集めているのが、長野県佐久市の株式会社KURABITO STAYが提供する“蔵人体験”プログラム。この宿泊体験の仕掛け人で、観光の新たな可能性を切り拓いているのが同社の代表取締役・田澤麻里香さんだ。
第一回目の今回は、まず蔵人体験施設「KURABITO STAY」でどのような体験ができるのか、その内容についてご紹介する。
酒造りの営みに参加できる
画期的な体験プログラム
信州の東の玄関とも呼ばれ、かつては中山道の宿場町としても賑わった長野県佐久市。豊富な水資源と自然環境に恵まれたこの地域は日本有数の米どころであり、300年以上前から酒造りがおこなわれてきた。八ヶ岳と浅間山に包まれた佐久平では、厳寒の冬の朝、酒蔵から米を蒸す湯気が立ち上る光景が風物詩となっており、現在もなお13の酒蔵が日本酒造りに心血を注いでいる。
この地域で育まれた米と水、そして繊細な醸造プロセスによって出来上がる日本酒。かつては酒造りそのものが神事とされており、神聖な場である酒蔵に立ち入れるのは、酒造りに精通した職人たちに限られていた。そんな「神秘的な酒造りの営み」に参加し、蔵人さながらの体験を堪能できるのが、世界初となる蔵人体験施設「KURABITO STAY(クラビトステイ)」である。
越後杜氏が寝泊りした宿舎を
宿泊施設に改装
KURABITO STAYでは、創業330年を超える老舗酒蔵「橘倉(きつくら)酒造」とパートナーシップを結ぶことで、旅行者が蔵人となり、本格的な日本酒造りの製造プロセスに参加できる週末限定の体験プログラムを提供している。
「宿泊施設は、酒蔵の敷地内に現存する築100年の建物です。かつて越後杜氏が寝泊りしていた宿舎を大胆にリノベーションして、最大10名が泊まることができる宿泊施設にしました」と田澤さん。
体験できる酒造りは、麹づくりや洗米、麹をかき混ぜる櫂入れなど、多岐にわたる。2泊3日のプログラムでは、初日の17時までにチェックインを済ませ、2日目の早朝から本格的な体験がスタートする。ホテル1階にある木桶の蓋を再利用したテーブルを囲んで参加者がともに朝食を取り、作務衣や手ぬぐい巻きに着替えた後、酒蔵へ。酒蔵に立ち入る前には、宮司による清祓いの儀式に参加。神事としての酒造りの神秘性を体感できるのも特徴だ。
固定観念を打ち破り、
新たな観光資源を生む
KURABITO STAYの特長の一つが、佐久市内の周遊を促している点だ。
「朝食以外は“泊食分離”のスタイルになっています。2泊3日の滞在期間中、宿泊客の皆さんには市内各所で食事を楽しんでもらいます。ほかの酒蔵を訪れたり、寺社仏閣へ足を運んでみたり。温泉や道の駅、地域のスーパーに立ち寄る人も」
KURABITO STAYを核としながら市内の事業者とゆるやかに連携し、地域全体の活性化につなげていく。そんな取り組みが、旅行者のみならず、地域からも支持を集める大きな要因となっている。
酒蔵に泊まり、蔵人となって本格的な日本酒造りを体験する――。言葉にすると簡単そうに見えるが、事業化するまでに幾多の困難が待ち構えていたのは想像に難くない。日本酒造りは神事であり、他人を寄せ付けない神聖な場所だからだ。
しかし田澤さんは、こうした酒造りの伝統や固定観念をしなやかに突破し、日本の観光ツーリズムの新たな可能性を切り拓いたのだ。
プロフィール
- 株式会社 KURABITO STAY 代表取締役
- 田澤 麻里香(たざわ まりか)
- 長野県小諸市出身。大手旅行会社で勤務した後、ワイン輸入業者に転職。その後、専業主婦を経て、長野県小諸市の「地域おこし協力隊」に参加。旅行会社での経験を活かし、観光地域づくりに力を注ぐ。2019年にビジネスコンテストで優勝したことをきっかけに起業し、翌2020年には世界初の蔵人体験ができる施設「KURABITO STAY」をオープンした。
- KURABITO STAY
- 長野県佐久市の老舗酒蔵「橘倉酒造」とパートナーシップを結び、越後杜氏が利用した築100年の宿舎を宿泊施設としてリニューアル。本格的な酒造りの工程に参加できる点が注目され、コロナ禍の逆風下にもかかわらず、国内・海外から300名以上の宿泊者が訪れている。