むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

アイデアをかたちにし、
起業半年で黒字化
株式会社 KURABITO STAY
代表取締役 田澤麻里香さん
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April 17. 2023(Mon.)

最近、旅人の好奇心をかき立てるユニークな宿泊体験が全国各地で人気を博している。こうした中、全国から熱い視線を集めているのが、長野県佐久市の株式会社KURABITO STAYが提供する“蔵人体験”プログラム。この宿泊体験の仕掛け人で、観光の新たな可能性を切り拓いているのが同社の代表取締役・田澤麻里香さんだ。
第3回目の今回は、蔵人体験施設「KURABITO STAY」の立ち上げについて、振り返っていただいた。

ー前回までの記事はこちら
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「蔵人体験」で新しいツーリズムを 株式会社 KURABITO STAY 代表取締役 田澤麻里香さん(1/4)
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築100年の建物との運命的な出会い 株式会社 KURABITO STAY 代表取締役 田澤麻里香さん(2/4)

新しいアイデアが、老舗酒蔵を動かす

かつて杜氏たちが寝泊まりしていた古い建物。
「ここで泊まりながら酒造りを体験できたら面白そう」という田澤さんのアイデアに橘倉(きつくら)酒造の井出社長も賛同した。

橘倉酒造では、以前にも、職人ではない酒造りの“未経験者”を招いて一緒に酒造りをした実績があった。
「これまでの蔵見学からさらに一歩踏み込んだ内容でした。酒造りをより深く知ってもらうためにも、ぜひやってみたいと思いました」(井出社長)
歯車が動き始めた瞬間だった。
のちにこの建物が、現代的なエッセンスを取り入れた「KURABITO STAY」の宿泊施設として蘇ることになったのである。

できるだけ元の建物を活かしつつモダンな印象に。

コロナの逆境の中、半年後には黒字化を達成

「KURABITO STAY」の事業計画を練り上げ、2018年9月に小諸市で開催されたビジネスコンテストに参加した田澤さんは、見事に優勝を勝ち取り、全国大会へと駒を進めた。そして2019年2月、「みんなの夢AWARD9」(主催:公益財団法人みんなの夢をかなえる会)に出場した田澤さんは、2000名の聴衆の前でプレゼンを行い、グランプリの栄冠に輝いたのである。

2019年5月には法人を設立。2020年の東京2020オリンピック競技大会開催に合わせてオープンさせようと着々と準備を進め、いよいよ勝負の年を迎えた矢先、新型コロナの猛威が世界を襲った。3月のオープン翌日から開店休業状態。宿泊者の受け入れができたのは2020年7月のことだった。

そんな厳しい状況下にありながら、「KURABITO STAY」は宿泊者の受け入れ開始から約半年後に黒字化を達成した。ランニングコストを出来る限り抑えた堅実なビジネスモデルが功を奏した。
「これには主婦の目線が活かされています。蔵人体験に求められているものを考え抜き、必要なものだけを厳選して提供する。決して見栄は張らない。徹底した“引き算の経営”で、利益率を高めました」

「みんなの夢AWARD9」での優勝が、
起業へと大きく背中を押した。
写真は「夢アワード小諸」での受賞の様子。

日本酒をきっかけにした素敵な出会いを提供

「KURABITO STAY」では、宿泊者に満足度を評価してもらっているが、普通以下の評価は一度もないという。「日本酒という飲み物がこれだけ手の込んだものだとは知らなかった」「街の人たちが『今日はお酒を造るんですか?』と話しかけてくれて、とてもいい街だと思いました」。宿泊客からの感想を聞く度に「やって良かった」と感じるという。

宿泊施設には、経営者の「旅への想い」や「人生観」が現れる。田澤さんの宿では、「本物の体験」だけでなく「旅だからこその出会い」も提供したいという。日本酒をキーワードに出会った人たちが、素敵な時間を共有してほしい。その想いから、木桶の蓋を使った大人数で囲める丸テーブルが中心となるように空間をデザインした。「帰りたくない。このメンバーと別れるのが寂しい」。そんな宿泊者たちの言葉が、田澤さんの何よりのご褒美になっている。

橘倉酒造に保管されていた大桶の蓋をテーブルに。
ロゴを配したTシャツやパーカー、前掛け、手ぬぐい、蛇の目猪口なども販売。
佐久地域の13蔵のお酒も並ぶ。

子育ての時間も大切にするために

「KURABITO STAY」の営業日は週末のみに限定している。それには、これまでの田澤さんの経験が反映されている。いつ来るか分からない宿泊者を待ち続けると、稼働時間が増え、家庭を諦めざるを得なくなる。
「世界に一つだけ、ここにしかない価値を提供できれば、週末だけの“わがままな経営”でも、お客さまに来ていただけるのではないか。そうすることで、子育てをしながら、自分らしく働ける場を作りたいと思っています」

田澤さんはこう続けた。
「私たちが大事にしたいのは、家庭と仕事をどちらも手に入れること。それが実現できるビジネスモデルを考えました」
ただ売上を追求するのではなく、短い営業時間で必要な利益を確保する。子どもとの時間を大切にするためだ。

「地域への貢献につながる取り組みだと当初から思っていました。今、佐久をさまざまな国の人が訪れてくれる。彼女のパワーを実感しています」と井出社長。

橘倉酒造
https://kitsukura.co.jp/

プロフィール

株式会社 KURABITO STAY 代表取締役
田澤 麻里香(たざわ まりか)
長野県小諸市出身。大手旅行会社で勤務した後、ワイン輸入業者に転職。その後、専業主婦を経て、長野県小諸市の「地域おこし協力隊」に参加。旅行会社での経験を活かし、観光地域づくりに力を注ぐ。2019年にビジネスコンテストで優勝したことをきっかけに起業し、翌2020年には世界初の蔵人体験ができる施設「KURABITO STAY」をオープンした。
KURABITO STAY
長野県佐久市の老舗酒蔵「橘倉酒造」とパートナーシップを結び、越後杜氏が利用した築100年の宿舎を宿泊施設としてリニューアル。本格的な酒造りの工程に参加できる点が注目され、コロナ禍の逆風下にもかかわらず、国内・海外から300名以上の宿泊者が訪れている。

MAP

〒384-0301長野県佐久市臼田623-2
電話番号:0267-74-0588
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