むすぶひと、つなぐひと

中部地域の注目パーソンにインタビュー!

大切な伝統文化の火を
絶やさないために
クラフト作家
上原 かなえ
(4/4)

February 25. 2025(Tue.)

長野県北佐久郡御代田町を拠点に、自身でライ麦を育て、その藁からつくるフィンランドの伝統装飾「ヒンメリ」で注目を集めているクラフト作家・上原かなえさん。地元でワークショップの開催や福祉施設「やまゆり共同作業所」と連携してライ麦ストロー制作など、精力的に活動の幅を広げている。

最終回となる今回は、上原さんのこれからの作家活動について話を聞いた。

ー前回までの記事はこちら
手しごとと向き合い始めた原点とは クラフト作家 上原 かなえ(1/4)
留学をきっかけに出会った「ヒンメリ」へのこだわり クラフト作家 上原 かなえ(2/4)
地域のつながりを育むライ麦ストロープロジェクト クラフト作家 上原 かなえ(3/4)

ヒンメリが衰退の
危機にある欧州

実は、ヒンメリづくりの伝統は、フィンランドで風前の灯火となっているという。かつては各家庭で当たり前のようにつくられていたが、若い世代の自宅で見かけることはほとんどないらしい。今や「おばあちゃんの家に飾られていたもの」になっているのが現実なのだ。
「ヒンメリをつくっている日本人がいる」と聞くと、現地の人は「どうして?」と不思議がるそうだ。だからこそ上原さんは、ヒンメリづくりを本格的に始めた当初から「ヒンメリの魅力を広めていくことが私の使命」だと感じてきた。

さらに最近、ドイツの友人から聞いた話にショックを受けた。
ドイツでは、麦わら細工に使う材料のほとんどが、中国から輸入されたライ麦なのだという。その理由を尋ねてみたところ、機械で刈り取る際の利便性を考え、品種改良で麦の丈を低くしたのが原因だった。麦わら細工に使えるようなライ麦の品種が徐々に途絶えつつあるのだ。

「本場のフィンランドでも、ヒンメリ自体を
知らない人が増えてきている」と上原さん。

少しずつ増えてきている
日本のヒンメリ作家

ドイツの話を聞いて「麦から育てる大事さを痛感している」と上原さん。
「物事が合理的な方向に流れ始めると、伝統文化はあっという間になくなってしまいますから。実は、フィンランドでは以前もヒンメリの文化が途絶えたことがありました。それを1930年代に女性たちが手芸雑誌などに取り上げて復活させた経緯があるんです」

決して大きな規模にはならない。小さなサイズでしか成立しない。それでも、地域に根付いた活動として続け、うまく循環させていく。そうしたことが大事なのだと改めて感じているという。

一方で、日本でヒンメリづくりの活動をおこなう人は草の根的に広がっているのだとか。独学で作品づくりに取り組む人もいれば、上原さんから教わった人も。なかには種から育てる本格派もいるそうだ。
「『育ててつくる』営みが全国で増えていけばと思っています。自然素材を見直すきっかけは、どんな場所で起きてもいい。ライ麦ストローもいろんな地域で取り組んでもらえると嬉しいですね」

いろいろな形でヒンメリが広がってほしいと話す。

各地の手しごとに触れながら
ヒンメリをつくり続けていく

御代田町に移住して7年。自然豊かな森の中に仲間たちと家を建て、新たな拠点をつくった上原さん。みんなで薪を割り、ニワトリを育て、畑で野菜を育てる。米と麦の栽培は、今やすっかり家族総出の仕事となった。
「これだけ自給できると、なんだか心強いですよね。小学3年生の娘も一緒に作業をしてくれています。みんなで作業をするのに慣れているから、いつも声を出して指示を出すのが上手いんですよ」

上原さんが大切にしているのは、「自身の活動に矛盾が生じないこと」だという。自然の素材を扱っているのに、プラスチックの袋に入れて販売していたり、アナログの工程を経ているにも関わらず、多くの燃料を使っていたりしては、矛盾が生まれる。まさに彼女自身の生き方そのものが、日々の暮らしや作品づくりにつながっている。

地域に根を張り、ライ麦、そしてヒンメリを通じて上原さんが紡いできた活動は、御代田町のひとつの個性として育ってきた。そして、これらの活動が程よく循環することが大事だと上原さんは話す。

最後に、ご自身についての展望を伺った。
「とにかく世界中の麦わら細工に興味があるんです。これからもいろんな場所を巡り、歴史を調べ、現地の人たちにインタビューしてみたい。そして、各地の手しごとに触れながら、私自身のライフワークとしてヒンメリをずっとつくり続けていきたいですね」

上原さんはこれからも、地域に寄り添いながら、伝統文化が息づいた手しごとにずっと向き合い続けていく。

「これからも世界各地の手しごとに
触れていきたい」と語る上原さん。

プロフィール

クラフト作家
上原かなえ(うえはら かなえ)
北欧に古くから伝わる手しごとを研究し、ペーパークラフトやヒンメリなど身近な素材を用いた作品づくりを続けるクラフト作家。長野県北佐久郡御代田町在住。ヒンメリの材料となるライ麦を種から栽培するほか、地域の福祉施設と連携してライ麦の茎をドリンク用ストローに加工する「MIYOTAライ麦ストロープロジェクト」も主宰。決して無理をしない、地域に根差したサステナブルな活動が、多くの人たちの共感を呼んでいる。
https://www.instagram.com/miyota_ryestraw/
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