中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
新旧が交差する
水路の上の商店街
水上ビル
(愛知県豊橋市)
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March 06. 2023(Mon.)
豊橋市の「水上ビル」とは、豊橋駅前から、「豊橋ビル」「大豊ビル」「大手ビル」と3つのビルが全長800メートルに渡って連なるビル群の通称。農業用水路・牟呂(むろ)用水の上に1960年代に築かれ、60年近くの長きにわたり商店街として親しまれてきました。そんな世界的にも珍しい水上ビルで、「たからもの探し」をしてきました。
豊橋のキーパーソンと
水上ビルへ
豊橋駅前の水上ビルは、農業用水路・牟呂用水の上に1960年代に築かれたビル群の通称です。第二次世界大戦で焼け野原になった豊橋駅前で、青空市場を始めた人々の新たな経済・居住の拠点として、全国的にも珍しい水上の商店街ビルが誕生しました。特徴的なのが1階が店舗で、2・3階が店主の住居と、店舗兼住居として設計されたところ。なおかつアーケード商店街の造りは、天気に関係なく人々が買い物できたので、最盛期には朝から晩まで賑やかだったそうです。
そんな水上ビルとその一帯を案内してくださったのは、衰退していた水上ビルへの店舗誘致に尽力し、まちなかの活性化に貢献してきた豊橋市役所の伊藤紀治さん。2015年の梅雨時期に、アーケード商店街の特性を活かして、空き店舗や軒下を開放して出店者を募り「雨の日商店街」というイベントを開催した豊橋のキーパーソンの一人です。
半世紀以上のときを重ねた
レトロな雰囲気
市街地を路面電車が走る旧城下町・豊橋市は、『東海道新幹線各駅停車の旅』を執筆する前から、たびたび訪れてきたまち。 けれども散策範囲のほとんどは、豊橋駅から東に延びる豊橋駅前大通の北側。その反対側にある「水上ビル」の前を車で通ることはあっても、わざわざ歩くことはありませんでした。ところが少し前に豊橋出身の知人から、「水上ビルとその周辺が活気があっておもしろい」と聞き、その様子を確かめてみたいと思っていました。
水上ビル周辺を歩いて感じたのは、昭和の時代にタイムスリップしたような感覚。タイル、階段、窓の造り…。真新しいビルでは見られない、技術や素材がふんだんに施され、ビルそのものが博物館であるかのように、見どころに溢れています。ビルができたときから続いている喫茶店や商店もあって、看板や店の雰囲気にも、懐かしさがにじんでいました。
第一月曜日に開催される
朝市の賑わい
「『雨の日商店街』 をきっかけに、 空き店舗に店を出す人が増えたり、新たな人同士の繋がりが生まれました。おかげさまで現在は、水上ビルの空き店舗はほぼ解消しています」と伊藤さん。
この日は、月に一度の朝市の開催日。平日の朝にも関わらず多くの人が出店に並び、買い物や飲食、まち歩きを楽しんでいます。お弁当、パン、ドリンク、焼き菓子、和菓子、お花、アクセサリーと出店の種類もさまざま。水上ビル内の店舗が朝市用の特別な商品を販売していたり、豊橋市内外の店舗が出張販売にやってきていたり。
ただ古いビルや商店街がノスタルジックな対象として注目されているだけではなく、新たな風が吹いていることを感じます。
伊藤さんは「古いものが何かのきっかけで新しい価値を生み出す。新店舗が入るだけでなく、人と地域の繋がりもできて、新しい活動が広がる」とおっしゃっていました。