中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
新施設との相乗効果で
生まれた賑わいの景色
水上ビル
(愛知県豊橋市)
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March 28. 2023(Tue.)
ー前回までの記事はこちら
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新旧が交差する水路の上の商店街 水上ビル(愛知県豊橋市)(1/4)
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ビルを見守り続け地域から愛されてきた老舗 水上ビル(愛知県豊橋市)(2/4)
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商店街に活気を与える新しい風 水上ビル(愛知県豊橋市)(3/4)
水上ビルのすぐ目の前にあり、駅前の再開発にともない、2021年11月にオープンしたのが、食・健康・学びを楽しめる複合施設「emCAMPUS(エムキャンパス)」。行政サービス、オフィス、屋上庭園、レストランなどが入るビルの中、イースト棟の2・3階には、知と交流の創造拠点「豊橋市まちなか図書館」が誕生しました。一般的な図書館とは異なるスタイルの図書館もまた、水上ビルとともに豊橋駅前に、あらたな風を吹き込んでいます。
あたらしい形の図書館づくり
60年近い年月を重ねてレトロな趣をたたえた水上ビル。それと向かい合う形で、2021年に誕生したのが複合施設「emCAMPUS(エムキャンパス)」。その中にあるのが「豊橋市まちなか図書館」です。図書館といっても、本を探し、読み、借りるといった従来の利用とは異なる、その1歩先に踏み込んだ体験ができる場として注目を集めています。
館長を務めるのは、東京に生まれ育ち、前職はテレビ放送局でディレクターをしていたという種田 澪さん。
「図書館に立ち寄ったら、そこでまちに関わる人のトークショーが行われていて、その話から“自分も何か活動できることはないか考える”、“参加者同士の交流や、新たなアイデアが生まれる”。そんな体験が、一人一人の世界を広げるとともに社会に還元されたり、これからの時代におけるまちづくりに繋がっていったらいいなと思います」。他地域から移住し、子育てをしながら今までの仕事とは全く異なる図書館の世界へ飛び込んだ種田さんだからこそ、おおらかに見渡せる世界があるようです。
気軽に立ち寄れる
まちの図書館
館内にはBGMが流れ、カフェからは香ばしいコーヒーの香りが漂います。ふらっと立ち寄り、中央ステップに設置された大型のスクリーンで上映中の映画を観たり、家族や仲間と本を開いて談話を楽しむこともできます。本棚は、一般的な図書館のような整然とした並びにこだわらず、コンセプト書店のような自由な配置やジャンル分けにすることで、日々の暮らしがより楽しくなるようにと棚作りが行われています。静かに読書や勉強できるスペースと、トークショーやミニライブなどのイベントが開催されるスペースが分かれているので、用途に合わせて使い分けできるのも嬉しいかぎり。
コーヒーを飲みながら読書するのが好きな私には、夢のような空間。「こんな図書館、自分のまちにも欲しい!」と興奮しながら館内を巡るうちに、図書館の内部までもが、ひとつのまちのように思えてきました。
豊橋まちなか図書館
https://www.library.toyohashi.aichi.jp/facility/machinaka/
水上ビルと
豊橋市まちなか図書館の
相乗効果
「水上ビルには新しいコミュニティが出来上がっているので、そのエネルギーに刺激を受けています」と種田館長は言います。そうしてこれまで、水上ビルの関係者を招いてのトークイベントを開催してきました。
図書館で水上ビルの関係者の話を聞いたり、本を読んだり、コーヒーを飲みにきたついでに朝市をのぞいてみたことで、あらためて水上ビルが豊橋というまちの歴史の一部であると親しみを抱き、通りを歩く人も増えてきました。
それから、あまり水上ビルになじみのなかった学生や子どもたちの中には、大人たちが楽しそうに過ごす“ちょっとした憧れの場所”という印象を抱かれるようになってきたかもしれません。
「豊橋市まちなか図書館」と「水上ビル」。よりよい相互の関係から、人が行き交う彩り豊かな、新たなまちの景色が生まれています。個性豊かな店主が集まり歴史を積み重ねた水上ビルと、さまざまな体験ができる新しいタイプの図書館が向かい合わせであるその環境も豊橋の“たからもの”。こんなまちに暮らしたら、どんな毎日を送れるだろう。理想の日々を思い描きながら、水上ビルをあとにしました。