甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

シックな建築の風情とマッチ
素敵なソックスが並ぶ靴下屋
Re-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)

June 03. 2025(Tue.)

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尾州のこれからを担う繊維のまちのレトロビルRe-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)

古くから、繊維産業が盛んな愛知県一宮市(いちのみやし)。毛織物の産地として発展してきた歴史を今に伝えるのが尾西繊維協会ビルを活用した「Re-TAiL(リテイル)」です。昭和モダンなビルには、魅力あふれるテナントが入り、ファッションに敏感な人が出入りするだけでなく、繊維のまちの象徴として注目されています。
今回は、同ビルの見どころと、テナントの一つ「hacu(はく) ATELIER 2C」をご紹介します。

Re-TAiLを要に
心地よいコミュニティを形成

1933年に建てられたビルが形をそのままに生まれ変わったRe-TAiL(2016年立ち上げ)は、細部まで凝った意匠やモダンな佇まいなど魅力にあふれています。スクラッチタイルに彩られた外観はもちろんのこと、天井が高くゆったりとした空間が広がるビルの内部に身を置くと、自然に気持ちが和らいできます。

「こんな素敵なビルにアトリエやショップを持つことに憧れます」と代表の伊藤核太郎さんに伝えると、「入居者のみなさん、心からこの建物が好きなんです。壊れたところがあれば直してくれたり、率先してトイレ掃除をしてくれたり、建物の運営にも積極的に携わって、それぞれが思い立ったことをしてくれる。ビルを大事にしたいという気持ちが、入居者同士の関係性もよいものにしてくれています」と話してくださいました。

Re-TAiLが設立されてから10年近くが経ち、今では尾州織物やビルそのものの魅力が広く知れ渡り、一般、学生、デザイナー、繊維、ファッション、デザイン、アート、建築と、さまざまなことに関心がある人が出入りしています。

テキスタイル、建築、尾州という地域……入居者も客も、共通の“好き”を抱く者同士、心地よいコミュニティが生まれ、ビル全体が穏やかな空気に包まれていました。

ビルの廊下には、各テナントによるテキスタイルや
衣類の見本が展示されている。

遠方からもファンが足を運ぶ
素敵な靴下屋さん

個性豊かなショップが入居するRe-TAiL。どこも気になるお店ばかりです。今回は、店主に直接お話を伺うことができたお店をご紹介しましょう。

「hacu ATELIER 2C」は、もともとは製品検査をするための検査室だった2階の一室にある靴下のショップです。
オープンしているのは土・日曜日のみですが、開店の日を目指してビルに足を運ぶ方も多いのだとか。地元の方々はもとより、岐阜県や関西方面から、また東京から訪れる人もいるという人気ぶり。

靴下は、女性用、男性用、ベビー〜キッズサイズまで揃っており、「家族で履ける靴下の店」をコンセプトにしています。
自身や家族用はもちろん、贈り物選びに訪れるお客さまも多いそう。

中村美穂さん(写真・左)は、1973年創業の靴下メーカー
「レッグニット中村」が始めた自社ブランド
「hacu」のディレクター。

ディレクターで店主の中村美穂さんは、以前この部屋に入居していた方と知り合いだったそうで、その方がもうすぐ退去すると聞いて、それならばこの素敵なビルの一室に出店しようと決めたそうです。

ビル自体が一宮駅のすぐそばという立地で、店内に聞こえてくる電車の音も自然のBGMとして心地よく感じられます。この部屋は、夕方の時間帯になると電車の影が室内に入り込んでくるところも、中村さんは気に入っていると言います。

店内には、中村さんが企画・デザインしたものから、テキスタイルデザイナーとのコラボレーション商品まで、何種類あるのかわからないほど、色とりどりの靴下が並んでいます。まさに“繊維のまち”である一宮やRe-TAiLのコンセプトを体現しています。

手紙の封筒や便箋をイメージした「レター」など、
物語性のあるデザインの靴下が並んでいる。

もともと、一宮市内に店舗を構えており、「いつか尾州の糸で製品をつくりたい」と考えていたところ、さまざまな出会いの中で尾州の紡績工場とのコラボレーションで生み出されたのが「hacuと尾州」シリーズ。ベビーアルパカとウルグアイウールを使った糸で編み立てられたアームウォーマーが店頭に並んでいました。

私が購入したのは、薄地で綿と麻の生地感がさらりと心地よい靴下。
おしゃれは足元からと言われるように、肌触りがよく、デザインも愛らしい靴下を履いていると、なんでもない日も心地よく過ごすことができます。値段も手頃なので、たくさんそろえたくなってしまいます。
「一宮まで靴下を買いに行かない?」とおしゃれ好きでビル好きの友人を誘ってみようかな。


Hacu ATELIER 2C
https://www.hacu.jp/
https://www.instagram.com/hacuatelier2c/

「hacuと尾州」シリーズの
リストウォーマーとアームウォーマー。
靴下の価格は1足1,000円前後。
高くても2,000円ほど。

MAP

Re-TAiL(リテイル)
〒491-0858愛知県一宮市栄4-5-11
電話番号:0586-59-2105
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