甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

毛織物産業の象徴ビルが
まちのアイデンティティをつくる
Re-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)

June 17. 2025(Tue.)

ー前回までの記事はこちら
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尾州のこれからを担う 繊維のまちのレトロビル Re-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)
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シックな建築の風情とマッチ 素敵なソックスが並ぶ靴下屋 Re-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)
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近代化産業遺産ビルの魅力を活かし、 発信・交流の拠点に Re-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)

古くから、繊維産業が盛んな愛知県一宮市(いちのみやし)。毛織物の産地として発展してきた歴史を今に伝えるのが尾西繊維協会ビルを活用した「Re-TAiL(リテイル)」です。昭和モダンなビルには、魅力あふれるテナントが入り、ファッションに敏感な人が出入りするだけでなく、繊維のまちの象徴として注目されています。
そのRe-TAiLはもちろん、一宮の魅力を物語る場所はほかにも。まち歩きで訪れた気になるスポットをご紹介します。

Re-TAiLの存在が
まちに誇りをもたらした

今回、Re-TAiLを訪問して印象的だったのは、Re-TAiLやビルそのもののファンが増えることで、まちの人も毛織物の産地としての自信を取り戻しているという話でした。
以前は、地元の人が自分たちのまちを紹介するとき「毛織物のまちだった」と過去形で語っていたけれど、今では堂々と「一宮は毛織物のまちです」と胸を張って自慢できるようになったという声も届いているそうです。地元の人が自分のまちに誇りを持つ。まちづくりの原点を感じることができました。

もちろん、“毛織物のまち”は一宮の魅力の一面にすぎません。Re-TAiLのほかにも、一宮のまちで気になる場所に足を運んでみました。

伊藤さんと、普段は非公開のリテイルの屋上へ。
濃尾平野や名古屋駅の高層ビル群を一望できる。

墨会館

建築好きとして外せないのが墨(すみ)会館です。愛知県で唯一、丹下健三氏が初期に設計した建物があると聞いて、ぜひ行きたい!と熱望せずにいられませんでした。

もとは繊維関係の会社の本社事務所として1957年に竣工。2010年に一宮市に譲渡され、2014年から事務所棟は地域の公民館として動態保存されています。
コンクリート造りですが、柱を見ると杉板の板目が綺麗に出ています。サッシを雪見障子風にしたり、欄間の要素を取り入れたり、日本の伝統建築の技術やデザインが随所に取り入れられています。
いつまでもこの場にいたいと思うほど贅沢な空間の使い方。今の建築では実現しないようなゆとりと贅沢な建築技術が詰め込まれています。

こうした世界的建築家が手がけた贅沢な建物から、一宮市が繊維業で繁栄した歴史を垣間見ることができます。しかも、地域の人に開かれた公民館として使用されており、集会室はじめ、一般でも利用申し込みできるのも開かれた名建築としてありがたいかぎり。

通常、2階は非公開エリアになるけれど、月に一回(毎月第一土曜)のボランティアガイド「墨会館建築研究会」に参加すれば1時間ほどかけてじっくり見学できるので、建築に興味がある方はぜひ!今回は、取材で見学させていただきましたが、あらためて建築好きの友人を誘って建築ガイドに参加してみたいと思いました。


墨会館・小信中島公民館
https://sumikaikan.jp/

周囲が毛織物産業の工場地帯だったので、
騒音対策として建物全体が高い壁で
囲まれている。
180名を収容できる墨会館の集会室。
杉の化粧型枠による打ち放しコンクリート。
柱面と梁面を揃えるための、ダブルビームと
呼ばれる合わせ梁が特徴的。
ご案内いただいた岩田 均館長(取材当時)。

白鳥

住宅街に突如現れるモダニズムな建物。中に入ると、お座敷席とソファー席があり、外から想像できないほど広く、席数も多い喫茶店です。席がゆったりしているので、のびやかな気持ちで食事やお茶を楽しめます。昭和レトロの内装は、まるでドラマの中の世界のよう。

喫茶メニューだけでなく食事のメニューも充実しており、お昼時には会社の仲間同士と思われる人たちや家族連れが続々とランチにやってきます。まるでファミリーレストランのような賑わいで、地域で親しまれていることがわかります。

オーダーしたのは卵を敷いた熱々の鉄板にナポリタンと目玉焼きがのった「イタリアンスパゲティー」。昔なつかしい味わいで食べ応えも十分。またホットケーキやバナナローヤルも、子どもの頃を思い出す懐かしい佇まい。ドリンクを注文すると、パン、豆菓子、煎茶が付いてくるのは、さすが!一宮喫茶です。近所にあったら毎日でも通いたいと思うほどのお気に入りになりました。

アールを描くモダニズム建築に目を見張る。
古きよきレトロな昭和の風景が広がる店内。
ゲーム機型のテーブルも健在。
卵を敷いた熱々の鉄板にナポリタンと
目玉焼きがのったイタリアンスパゲティー。
昔懐かしいホットケーキに和む。

朝も昼もおやつも
1日かけて楽しめるまち

Re-TAiLをはじめ、墨会館や喫茶店と一宮をめぐり、昭和の時代からまちに残る贅沢な造りの建物を通しても、この地が繊維産業で栄えた歴史を感じることができました。
まちめぐりの途中で「一宮モーニングマップ」を見つけ、眺めていると、想像以上にたくさんの喫茶店があることに驚きました。さらには、朝だけでなくおやつの時間までモーニングを味わえる店も多数。

また新たに行ってみたいお店ができたので、朝、昼、おやつと喫茶店をはしごしながら、一宮のまちを散策したいと、次の楽しみができました。

Re-TAiL屋上から望む一宮のまち。

MAP

Re-TAiL(リテイル)
〒491-0858愛知県一宮市栄4-5-11
電話番号:0586-59-2105
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