中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
古くからの商店街に咲く
チャレンジしたい人を応援する場
勝川駅前通商店街
(愛知県春日井市)
September 25. 2023(Mon.)
ー前回の記事はこちら
店主夫妻の思いが詰まったまちの憩いの古本屋 勝川駅前通商店街(愛知県春日井市)
愛知県春日井市の西の玄関口・JR勝川駅。駅前から続く商店街には、老舗から新店まで個性的な店が軒を連ねています。その昔ながらの商店街に新たな風を吹き込む「古本屋 かえりみち」の店主夫妻にお話を伺った後、同店が入る古民家「TANEYA」のほかのお店も訪ねてみました。
可能性の“種”を育む
元種苗屋のシェア古民家
勝川大弘法通り商店街のちょうど真ん中あたりに位置し、2014年にオープンした「TANEYA」。元は種苗屋だった築90年近い古民家をリノベーションし、起業を目指す経営者がおのおの事業をおこなう企業シェア店舗です。最初は、カフェ、ヨガ教室、IT、書道教室などからスタートしましたが、それぞれ独立したり移転したり。現在は、オープン時から1階スペースを拠点とする「カフェ百時」と、花と星読みのアトリエ「なごみの華」、そして「古本屋かえりみち」が入居しています。
勝川で長年続く種苗屋を最後に営んでいたのは、ひとりのおばあさん。代々TANEYAの入居者は、種苗屋のおばあさんが大切にしていた建物や古い家具を守り、おばあさんの存在を感じながら事業に励んでいるといいます。
起業してその先にまた別の場所へ出店を目指す人や店を“種”に例え、成長を願う意味を込めてその名が付けられたTANEYA。この場所を訪れる私たちの心にも、小さな文化の種をまいて豊かさを育みます。新旧が手を取り合って地域に根付く勝川大弘法通り商店街を凝縮したような空間です。
オープン時からシェア空間を守る
TANEYAの中心的存在のカフェ
TANEYAのオープン時から1階に入居する「カフェ百時」。百人が百通りの過ごし方ができるようにと思いが込められた店名です。お母さんが作ってくれるような、素朴だけれど滋味溢れるランチや軽食がメニューに連なる中、不動の人気が常時20種類ほど揃うチーズケーキ。ガラスケースの中にいろいろな味のチーズケーキが並ぶ様子を眺めるだけでも幸せな気持ちに満たされます。
オーナーの伊佐治素美さんは、もともと春日井市の別の場所でチーズケーキが人気のカフェを営んでいました。そんな中、オープン準備中のシェア店舗があると聞き、まだ片付け前の段階ながら内見して一目惚れ。立ち上げ時の入居募集に応募して移転を果たし、10年以上が経ちました。
「古本屋 かえりみち」開店の
きっかけに
実は、「古本屋 かえりみち」がTANEYAに入居するきっかけとなったのも伊佐治さんでした。
「一時期、2階の奥の部屋が空いていて。TANEYAはここで事業をおこなうみんなが、毎日顔を合わせる場所でもあるので、この空間や仲間を大切にしてくださる方との出会いを待っていました。そんな中、勝川大弘法通り商店街近くのコーヒーショップに新しくできた本棚がとてもステキで。その本棚を手がけていたのが『古本屋かえりみち』の二人。それからすぐに、TANEYAの2階に空きスペースがあるからどうかと声をかけて、入居が決まりました。古本屋かえりみちの池田望未さんは、春日井に越してきたばかりの頃、客として百時を訪れ、スタッフと『春日井の駅前に本屋さんがない』という世間話をしたことがあったそうです。今は、カフェでオーダーしたものができるまでの間に2階で本を見る人がいたり、反対に、古本を買った帰りに1階でお茶をしながら本を読む人がいたり。私たちもお客さんにとっても、心地よい関係性を築けています」
伊佐治さんがカフェを始める原点にあるのは、ご近所のお友だちを毎日のように家に呼んで、コーヒーを振る舞うのが好きだった、お母さまの姿にあるようです。カフェの食事メニューには、そんなお母さま手作りの肉味噌を使った料理も。異なる業種の起業家のタマゴが、家族のように集うTANEYA。この場所で過ごす私たちも、実家を訪れたような温かさに包まれます。
カフェ百時
https://momotoki.com/
占星術を合わせて
その人に合わせた花選びを
「古本屋かえりみち」と同じTANEYAの2階には、季節のフラワーレッスン、心に寄り添うフラワーセラピー、気持ちが伝わるフラワーギフトを手がけるアトリエ「なごみの華」も入居しています。運営しているのは、花と星読みから生まれたオリジナルメソッド「フラワーアストロジー」を生み出した、フラワーアストロジストのごとうさちこさん。以前は店舗を持たない出張フローリストとして活動していましたが、「カフェ百時」さんと出会い、営業時間前の朝のひととき、出張でフラワーレッスンをおこなう場として借りるように。その後、ごとうさんは、花選びと占星術とを合わせたオリジナルのセッションを始めました。
「以前ははんこ屋さんだったTANEYAの2階の1部屋を借りて予約制のアトリエにしています。占星術をおこなったあと、その人に合わせて花を選び、持ち帰ってもらっています」
現在、満月の日には、カフェ百時、古本屋かえりみち、なごみの華とTANEYAに入居する3者で、営業時間を延長してイベントを企画し、普段とはまた違った雰囲気の中、お客さまに楽しんでもらっています。カフェ百時では普段メニューにないお酒を飲むことができたり、なごみの華ではお茶会やワークショップが開催されているそうです。
異なる個性を持つそれぞれが、お互いを尊重しながら輝くTANEYA。3様の種が育ち、優しい香りの花が咲いています。
なごみの華
https://www.instagram.com/nagominohana753/