中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
歴史、新風、人の温もりを
感じる居心地良い商店街
勝川駅前通商店街
(愛知県春日井市)
October 10. 2023(Tue.)
ー前回までの記事はこちら
1/4
店主夫妻の思いが詰まったまちの憩いの古本屋 勝川駅前通商店街(愛知県春日井市)
2/4
古くからの商店街に咲く チャレンジしたい人を応援する場 勝川駅前通商店街(愛知県春日井市)
3/4
誰もが幸せに過ごせるように自分たちでおこなう理想のまちづくり 勝川駅前通商店街(愛知県春日井市)
愛知県春日井市の西の玄関口・JR勝川駅。駅前から続く商店街には、老舗から新店まで個性的な店が軒を連ねています。今回お話を伺った「古本屋 かえりみち」店主の池田夫妻、まちづくりのキーマン・水野隆さんにご案内いただき、まちの名物写真館とシンボルである弘法大師像へ、それぞれご案内いただきました。
地元の名物写真館と
地域を見守る弘法さまへ
今回、初めて歩いた勝川駅前商店街。勝川駅周辺の大規模再開発を経て、商店街には今もなお、古くから続く老舗や、新たに誕生した人気店まで、個性豊かな店が軒を連ねています。地元の人が行き交う通りは、どこかのんびりとした時間が流れているよう。
「古本屋 かえりみち」店主、池田望未さん・育望さん夫妻から、同店が入居するシェア店舗「TANEYA」からもすぐの「写真のヤマグチ」が面白いと聞いて、一緒に店を訪ねることに。
また、水野隆さんに案内されて「勝川大弘法」へお参りに。この商店街は「勝川大弘法通り商店街」とも呼ばれ、通りから一本入った場所にあるのが、「勝満山 崇彦寺(しょうまんざん しゅうげんじ)」と高さ18メートルの弘法大師像「勝川大弘法」です。
看板猫と一緒に
まちを見守る写真館
「写真のヤマグチ」は、勝川大弘法通り商店街で50年以上続く老舗。カメラと写真をこよなく愛した父・山口典夫さんの跡を受け継ぎ、息子の山口哲さんが写真館を営んでいます。
一見すると、よくあるまちの写真館のようですが、一歩店に入ると、看板猫・フクコを証明写真風にコラージュした写真やグッズが、ところどころに飾られています。運がよければ、実際にフクコにも会えると知って楽しみにしていたところ、山口さんが他の部屋から眠たそうなフクコを抱えて店頭まで連れてきてくれました。
山口さんは、家族や個人の記念写真、証明写真、スナップ写真、出張撮影と、さまざまな撮影を受けていますが、すました姿だけでなく、希望に応じて個人や家族のユニークな表情を引き出すのが得意なようです。
「僕が子どもだった高度成長期の頃は、一日中人通りが絶えず、商店街の店主が外で井戸端会議をしていたり、人情味がありました。名物おじさんやおばさんに、怒られたりもするんですけど、そういうのが楽しかった記憶があります」
地元活性のために、商店街で毎月第3土曜日に開催されるテント市「勝川弘法市」では、気軽に写真撮影を体験できるフォトブースを出店しています。いつか弘法市を訪れて、山口さんにスナップ写真を撮影していただきたいなあ。
写真のヤマグチ 勝川店
https://syashinnoyamaguchi.rexw.jp/base.html
勝川の人々と重なる
優しい表情の弘法さま
「18メートルもの高さを誇る弘法大師像で、地元では『大弘法さま』と親しまれています。1928年に地元の山口悦太郎さんという方が私財を投じて建立しました。以前は、商店街からもその姿を見ることができたのですが、今は周囲に高い建物が建って、お寺まで出向かないとこの姿を拝めません。それでも、商店街のシンボルであることに変わりなく、商店街の愛称になったり、月一回開催されるテント市にもその名を冠しています」と、崇彦寺まで案内してくださった水野隆さん。
お参りに訪れる方は、家内安全、商売繁盛、護国豊穣、学力向上、縁結びと、さまざまな願いを込めて大弘法さまに手を合わせます。穏やかで、優しい表情の、まちのシンボル。この日出会った、勝川のみなさんの姿と重なりました。
勝満山 崇彦寺
春日井市若草通1-3
TEL/0568-34-9978
若手も昔からの地元の人も
互いを尊重し合うステキな関係性
2022年から勝川大弘法通り商店街で「古本屋かえりみち」を始めた池田望未さん・育望さんと、勝川に生まれ長年に渡りまちづくりに携わってきた水野隆さん。それぞれにまちを案内していただいた今回、お話しを伺う中で、印象に残った言葉がありました。
池田さんご夫妻は、勝川で店を開いてまだ間もないですが、このまちも人も、温かくて大好きだと顔をほころばせました。「今はインターネットを通していろいろなことを調べられる時代ですが、本屋に足を運び、自分の目や手で本を探す楽しみを知り、紙の質感や重さを感じて欲しいです。特に古本は、いろいろな人の生活を経ているからか、より温かな匂いがするんです。私たちの店『古本屋かえりみち』があったから、より本になじみができたという人ができると嬉しいです。そうしてこの店が、日々ちょっと困ったことがあったり、不安を感じたときに立ち寄れる場所、みなさんの人生という道を照らす街灯みたいな存在でありたい」と。
生きていると、いいことばかりあるわけではないけど、そんな日にこそ古本屋に立ち寄って、本という宝探しができるのが勝川というまち。
「古本屋は古い業態ですが、ただ古い本を売るだけではなく、読み聞かせやワークショップ、お客さんに寄りそう選書などの活動は、イノベーションを起こすことができ、新しい体験や、このまちに暮らす喜びが生まれます」とおっしゃる水野さん。
志ある若手経営者、懐深いまちの大黒柱、皆さんと触れ合う中で、勝川にはこれからもっと、新しい業種や若い事業者が増えるだろうと、楽しい予感がしました。