甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

誰もが幸せに過ごせるように
自分たちでおこなう
理想のまちづくり
勝川駅前通商店街
(愛知県春日井市)

October 02. 2023(Mon.)

ー前回までの記事はこちら
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店主夫妻の思いが詰まったまちの憩いの古本屋 勝川駅前通商店街(愛知県春日井市)
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古くからの商店街に咲く チャレンジしたい人を応援する場 勝川駅前通商店街(愛知県春日井市)

愛知県春日井市の西の玄関口・JR勝川駅。駅前から続く商店街には、老舗から新店まで個性的な店が軒を連ねています。その昔ながらの商店街をはじめ、より良いまちになるように長年尽くしてきた、まちづくりの仕掛け人・水野隆さんにお話を伺いました。

自分たちのまちは自分たちで作る
深い思いの積み重ねで
愛されるまちに

「TANEYA」をあとにして向かったのが、「TANEYA」と同じ勝川大弘法通り商店街に、2016年にオープンした複合施設「ままま勝川」。そこで待ち合わせをしてお話しを聞いたのが、1900年創業の老舗鰻店「水徳」の4代目として生まれ、商店街の店主が資金を出し合い設立した勝川のまちづくり会社「勝川商業開発」の代表も務める水野隆さん。バブルの崩壊とともに人通りが減った勝川大弘法通り商店街に再び人を呼び込み、勝川を魅力的なまちとして活性化しようと尽力する、まちづくりの仕掛け人です。

「昭和の時代はどの商店街にも、肉屋・魚屋・八百屋などがあって、暮らす人はみな日常的に個人商店で買い物をする。店主同士も仲が良くて、ご飯の貸し借りだってするほどでした。そんな中、バブル期以降、勝川では、駅周辺の区画整理と再開発が同時におこなわれました。再開発は成功しましたが、駅前のこの商店街は取り残されてしまった。私の父は割と早い段階で、これからのまちは若い人たちが作るという考えを持っていましたので、当時30代後半だった私も、自分たちのまちを守るため、まちづくりに関わってきました。自分たちのまちには自分たちで投資をして、自分たちでまちづくりをおこなう。他の資本が入ると自分たちの思い通りできないので、商店主の有志でまちづくり会社を作り、魅力開発を続けてきました」

駅前に立って辺りを見渡すと気がつくのですが、勝川には子どもの健全な育成に悪影響を与えるような、住みよいまちにそぐわない店が1店もありません。それどころか、「TANEYA」や「ままま勝川」のように、独自の感性を持ちながら、勝川や商店街を愛してくれる起業家が、自らここでチャレンジしたいと、手を挙げて集まってきます。

「勝川商業開発」の代表を務める水野隆さん。
「ままま勝川」の中庭でお話しを伺った。

逆算開発の手法をとって
志ある事業者が集まるまちに

水野さんが運営に携わるまちづくり会社がとっているのは、「逆算開発の手法」。
通常、テナントを営業していくのには、建物を建てて部屋割をし、それぞれの部屋の賃料を決めてから募集をかけます。けれども、最初から決まった賃料が設定されていると、その賃料が払える店舗しか入居できず、これからの商店街に必要な新しい感性を持った起業家が入居できません。
そこで「まちづくり勝川」では発想を逆転させて、まずは勝川の商店街で起業したい人を募って、商店街に必要な事業者を選び、個別に事業収入の見込みをつけてから、それに合わせてテナントの建築やリノベーションの開発を進めます。そうすることで若手起業家たちは無理なく事業を始めたり、拡大に務めることができ、勝川にはそれらに興味を抱いて足を運ぶ新たな人々が訪れます。また、会社に出資する商店主たちも、のびやかに事業をおこなう若手起業家が商店街に増えることで、まちの市場価値が上がり、結果的に自分たちの資産も安定することを、おおらかに心得ているのです。

「人や地域の需要は、時代によって変わるじゃないですか。古いものがそのまま残っていくことも面白いけれど、需要に合わせてまちも変わっていかなきゃいけない。それがこの勝川では実現できているから、『古本屋かえりみち』のような、ユニークな事業者が集まってきます」と水野さん。

水野さんのような懐が深い大黒柱がいるまちは、なんて幸せだろうと、うらやましく思います。勝川には華やかな観光名所があるわけではないけれど、商店街をぶらっと歩いて楽しめる、温かさに満ちています。

入居者の事業計画や要望を元に、コの字型に
デザインされた「ままま勝川」の建物。
水野隆さんたちが勝川を面白いまちにしようと
立ち上げたシェア店舗「TANEYA」。築90年近い
元種苗屋をリノベーションしている。

子育て世代に優しい
さまざまな関係性をつなぐ「間」

水野さんが代表をつとめるまちづくり会社が運営する「ままま勝川」も、「逆算開発の手法」で開発がおこなわれた複合施設。
再開発エリアと昔ながらの商店街の「間」。今までの商店が気が付けなかったことと、本当に地域に必要とされていることの「間」。年配者と若い世代のファミリー層の世代の「間」。
勝川のこれまでと未来の「間」をつなぐスペースには、子育て世代を主なターゲットに、9店舗が入居しています。白壁にコの字の外観や、看板のデザインも、ターゲット層に合わせてより親しみやすい印象です。

子ども向けの学習塾、美容院、エステサロンなどがある中、授乳室も。子ども連れでも安心して食事やスイーツを味わえるカフェ「ZU‐CCOTTO」は、連日予約で埋まるほどの人気店。
座敷席やキッズスペースも完備しているので、親子で楽しく過ごせます。こうして駅前の商店街で小規模のモール型複合施設が機能しているのも、勝川のいいところといえましょう。


ままま勝川
https://kam.localinfo.jp/

ZU-CCOTTO
https://zu-ccotto-kachigawa.com/

「ままま勝川」の中庭では季節に合わせてさまざまなイベントが開催される。
ベビーカー置き場や、おむつ替えスペースなど、
子育て世代に優しい「ままま勝川」。
カフェ「ZU‐CCOTTO」の座敷席。
子どもが寝転んだり遊んだり、
親子で安心して食事ができる。

MAP

勝川駅前通商店街
愛知県春日井市旭町1・勝川町7・松新町1
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