
中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
近代化産業遺産ビルの魅力を活かし、
発信・交流の拠点に
Re-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)
June 10. 2025(Tue.)
ー前回までの記事はこちら
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尾州のこれからを担う 繊維のまちのレトロビル Re-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)
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シックな建築の風情とマッチ 素敵なソックスが並ぶ靴下屋 Re-TAiL(リテイル)(愛知県一宮市)
古くから、繊維産業が盛んな愛知県一宮市(いちのみやし)。毛織物の産地として発展してきた歴史を今に伝えるのが尾西繊維協会ビルを活用した「Re-TAiL(リテイル)」です。昭和モダンなビルには、魅力あふれるテナントが入り、ファッションに敏感な人が出入りするだけでなく、繊維のまちの象徴として注目されています。
今回は、Re-TAiLを発信拠点として活用するギャラリー「書庫と◯◯」をご紹介します。

文書庫を使った
現代美術の展示スペース
Re-TAiLが持つ、場所としての魅力や発信拠点としての機能を生かしているのが「書庫と○○」。その名の通り、文書庫だったスペースを活用し、2か月に1回くらいのペースで展示替えをしながら、現代美術を発信するオルタナティブスペースです。
運営するのは、このビルの再活用を機に結成された「セ・カ・イ建築チーム」。セ・カ・イとは、繊(セ)維・会(カ)館・一(イ)宮の頭文字から。一宮・名古屋・岐阜にかけて広がる尾州(びしゅう)地域・濃尾(のうび)平野の魅力を掘り起こし、建築・まち・アート・デザインを軸にさまざまな活動をおこなっています。

この部屋でまず目を見張るのが重厚な扉。訪れた人から「金庫だったんですか?」と聞かれることが多いとのこと。当時は“書”の価値がとても高かったことをこの厚い扉が物語っています。
また、この建物の中でも、倉庫だったこともあってほとんど手が入っておらず、当時のままの様子が残されているのも特徴です。
ここが書庫であったことを大切にしたいという思いから、展示ごとに〇〇の中に言葉を入れて、展示のタイトルにしています。
過去には、「書庫と動物」「書庫と清濁」「書庫と感情」など、さまざまなテーマで展示がおこなわれてきました。
取材時は、「書庫と画帳」とタイトルを掲げ、愛知県の建築を紹介していました。
愛知の建物博覧会の実行委員長を務めており、セ・カ・イ建築チームのメンバーでもある建築史家・村瀬良太さんの描いた水彩画を展示。通常のギャラリーと違い、倉庫空間を活かした展示方法がユニークだと感じました。


名古屋渋ビル研究会が手がける
「愛知渋ビル手帖」もギャラリーで販売。
一宮市内の建築も紹介されている。
栗本さんは、ビル1階の元給湯室を改装したスペースで、閉館後に、月1回限定のバー「『書庫と○○』+BAR」も主催しています。定期的にバーという交流の場を設けることで、繊維、建築、アートなど異なるジャンルの人々が交わり、新しい企画が生まれたり、ビルを愛する人が増えたり、尾州が活性化することにつながればいいと考えているそう。
生地を買いに来た人が、アートに触れたり、建築や地域の歴史に興味を持ったり、ほかの来訪者と交流したり…。ビルの中に多様なショップや施設が置かれることで、さらに新たなものが生まれ、訪れた人の世界も広がっていくのだと実感しました。
書庫と○○
https://shokotomarumaru.stores.jp/
https://www.instagram.com/shokotomarumaru/

多様な人たちが
それぞれの思いを叶える場所
Re-TAiLを運営する伊藤核太郎さんと稀温さん、hacu ATELIER 2Cのディレクター・中村美穂さん、書庫と◯◯の栗本真壱さん。さまざまな方に出会って感じたのは、一宮、尾州織物、尾西繊維協会ビルへの心からの愛。それぞれが好きなことを形にする中で、自然とそこに人が集まり、コミュニティが広がり、あらたな活動につながる。レトロビルという趣ある拠点を通して、尾州織物や、まちそのものの新たな歴史がスタートしたことを感じました。
「Re-TAiLができたことで、産地としての動きが変わってきました。以前は生地をつくったら名古屋や東京のアパレル会社へ商談に行くのが一般的で、地元の人たちとの関わりは薄かった。しかし、Re-TAiLができてからは、まずここに来て、尾州織物を直接見てもらえる。ショップに並ぶ生地には全て社名が入っているので、個人でも興味がある機屋があれば紹介することもできる。産地と地域がつながる接点になったのは大きい。Re-TAiLを通して尾州の機屋に就職した若い人もいます」と伊藤さんは語ってくれました。
