中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
馴染みのまちを
再編集する!
松阪市街エリア(三重県松阪市)
May 13. 2024(Mon.)
お伊勢参りの宿場町や、商人の町として発展した三重県松阪市。『古事記伝』の筆者で国学者・本居宣長の生誕地、三井家の発祥地、映画監督・小津安二郎が青春期を過ごしたことでも知られる土地です。
そこで地元の魅力を掘り起こしているのが、地域特化型の5人組クリエイティブチーム「vacant(バカント)」。代表の中瀬皓太(なかせこうた)さんに話を伺いました。
昔から町にあるものを
新たな角度で再編集
グラフィックデザイナー、ウェブディレクター、料理人兼イラストレーター、税理士。異なる職種の5人が集まり、三重県松阪市に特化したクリエイティブチーム「vacant」が立ち上がったのは2021年のこと。代表の中瀬皓太さんいわく、市内外のいろいろな人が交流できる、民間の観光案内所をイメージして結成したそうです。
中瀬さんは現在41歳で、生まれてからずっと松阪で暮らしています。大学卒業後にサラリーマンを経験し、その後、地元のデザイン会社に転職。9年ほど前に独立し、地域に密接したデザインの仕事に携わってきました。そんな中、さまざまな分野で活躍するクリエイターや、各地で活躍するメディア関係者との出会いに恵まれるように。
自分たちにとっては当たり前のまちの文化や風景が、外からやってくるみんながおもしろいと言ってくれることに、最初は少なからず驚いたと言います。また、本居宣長をはじめ松阪の歴史についても、地元っ子である自分たちよりも、新たに知り合う外の人たちの方が詳しいことがあり、これではいけないと感じて、改めて松阪のことを深く知りたいと奮起します。
vacantの活動では、革新的に新しいものを生み出すというよりも、昔から松阪にある馴染みのものを掘り下げて、新しい角度でまちの魅力を再編集していこうと思い至ります。
vacantがプロデュースする
独自の松阪マップ&ツアー
そうして最初に自主企画で作ったのが「松阪偏愛マップ」。
一般的な観光マップでは取り上げられないような、地元民がこよなく愛する個性的なお店や施設を地図に落とし込みました。メンバーが手がける、ほどよく気の抜けたデザインやイラストもvacantらしさ。自主的に発信する媒体ならではの、ゆるやかさやのびやかさが個性として輝きます。
「偏愛マップだから偏りがあっていい。わざわざ外に行かなくても、住んでいるまちがおもしろいコンテンツをもっている。身近にあるもので遊んだり、楽しんだり、新しい発見があったりを地図を通して示すことが、インナーブランディングにつながる」と中瀬さんは言います。
たとえば、地元では“びっくりうどん”とも呼ばれる「いなばや」の紹介の一部。
「びっくりするほど大きなうどんが由来。シンプルにびっくりしたい時は『びっくり』というメニューを注文しましょう。ちなみにうどんがテーブルに届いたときに代金をスムーズに支払うと常連感が出せるよ。さあ、松阪の宝!いなばやに行こう!!」と、こんな感じ。
vacantはこれまで、「松阪偏愛マップ」をもとに「松阪偏愛ツアー」というまち歩きツアーを実施してきました。このツアーは、地域活性化を目的に「阪急交通社」と「ナビタイムジャパン」が共同でおこなっているプロジェクト「ニッチャートラベル」が提供する旅の一つとして企画されました。
これまでに3回催行(2024年5月現在)した松阪偏愛ツアー。参加者の居住地は、松阪市外と市内、半々ほど。vacantの活動を知った地元の方も、自分たちのまちを見つめ直そうと積極的に参加しているようです。
行程は、まずvacantの拠点である集会スペース「MADOI」に集まり、参加者みんなで松阪名物の駅弁「モー太郎弁当」をいただきます。食後は、偏愛マップをもとに、vacantのメンバーと数名のグループに分かれて、まち歩きへ。
「本居宣長記念館」「豪商のまち松阪 観光交流センター」「松阪もめん手織りセンター」などに立ち寄り、最後は松阪牛焼肉店「一升びん」で再び全員が合流して交流会を兼ねた夕食。その後、希望者はさらにディープな松阪を求めて、歓楽街「愛宕町」へと繰り出します。
松阪で生まれ育ったメンバーならではのマニアックな解説を聞くことで、王道の観光ルートでは味わえない松阪の魅力を体感できるのです。